二章 15.本物の殺意
基礎トレーニングをしていた為別行動だったセロルと合流した俺達は、そこで今日あったことを色々と事情説明する。
セロルは終始驚いた顔をしていたが、最後に俺が皆を纏めて鍛えるという話をした時だけは嬉しそうな顔をしていた。彼は強くなるのが目標だから、新しい訓練が楽しみなのだろう。
「じゃあ明日から数週間は、兄貴が三人纏めて訓練をつけるんだね」
「そういうことだ。死なせない為に殺す気で鍛えるから覚悟しとけよ」
「うん!」
セロルだけは、どれだけ脅しても満面の笑みを崩さない。さすが毎日俺の訓練に着いてきているだけはあるな。
だが、これから行う訓練はこれまでの様な生易しいものじゃない。セロルでも着いてこれるかは怪しいところだ。
「セロルさん、変わってしまいましたね……」
「ああ、完全にアカリに毒されたな……」
「こらこら!俺は別に変なことしたつもりはないから!」
ネネティアとガゼルは変わり果てたセロルに嘆くようなことを言い出した。別にそこまで大した変化はまだ無いだろうが。
まぁセロルも多少はたくましくなったとは思うけど。
「それで訓練って具体的には何をするつもりなんだ?」
「それは単純だよ。俺対三人でひたすら模擬戦を繰り返すんだ」
「模擬戦ですか、たしかに普通ですね」
「いや、兄貴にことだからきっと何か狙いがあるんだよ!」
訓練自体は、ただひたすらに俺との模擬戦を繰り返す予定だ。セロルの期待には応えられなくて悪いが、特別な訓練をする予定は無い。
ただし、毎回俺は本気の殺意をもって彼らに向かっていくつもりだがな。
「じゃあ明日から早速訓練開始だ!」
今日はもう夜になってしまったので、明日から本格的に訓練を開始する。
さて、彼らの心が折れなければいいのだが。
――
翌日の放課後、約束通り訓練を行う為に俺は第七訓練を借りて三人を待ち構えていた。
もちろん先に来たのにもちゃんと意味がある。
「よしクウ、早めに融合しとくか」
「クウ?(後からあの人達来るのにいいの?)」
「ローブも着てるし空間魔法さえ使わなければバレないだろ」
「クアッ!(分かった!それじゃあいくよ!)」
ガゼル達には融合を知られる訳にはいかないが、本気で戦うにはクウと融合するのが一番だ。
だからこそ、先に来て事前に融合しておくという作戦にした。
『クウー(ここ凄い部屋だねー)』
「だな。学園案内の時に見て、一回は使ってみたいと思ってたんだよ」
クウが脳内でそう呟いてきたので、一緒になって訓練場を見渡す。
この部屋は他の訓練場とは一風変わっており、床全体に巨大なプールが設置され、その上を数本の橋が交差している水上戦を想定した訓練場だ。
部屋の端々にはいくつも滝が流れており、中々幻想的な雰囲気が漂っている。
「アカリ、待たせたな」
「この部屋はあいかわらず豪華ですね」
「兄貴、今日もよろしくお願いします!」
クウと一緒に訓練場の雰囲気を眺めていると、三人が揃ってやって来た。
確か彼らは、ガゼルが担保を預けるのに付き添ってたんだったか。
「魔道兵器は造ってもらえそうか?」
「ああ、どうにかな」
「あんなものを渡したんだから、担保としては十分ですよ」
「うん、凄かったよね」
え、なにその意味深な言い方。何でそんな気になる言い方するんだよ。そんな凄い物なら俺も着いていけばよかった。
「しかし、何故ここなんだ?俺との相性は最悪なんだが」
「だからこそだよ。事故って火事にでもなったらシャレになんねーからな。それにネネティアの爆発防止でもある」
「そういうことか、なら納得だ」
「それで納得するんですか!?」
火災防止という俺の説明を聞いて、ガゼルはすぐに納得してくれた。最近居残り掃除をすることが多いから、そうなる可能性は少しでも排除しときたいんだ。
ネネティアは何やら不満げで、最近は俺達との行動が多いせいか声を荒らげることも増えてきてる。なんだろう、ちょっと申し訳ないな。
「さて、お喋りは終わりだ。早速訓練を始めるか……お前ら死なないように本気で対応しろよ」
おふざけはここまでだ。ガゼル達三人が今後魔物との戦いで死なないようにする為に、俺は戦いの真の恐怖というものをこいつらの心に刻みつける。
その為に、俺は本気の殺意を三人に向けて放つ。
「な、何だこの全身を押しつぶす様な圧迫感は……!」
「か、体が震えてる……兄貴の気迫に本能が逃げろと叫んでるんだ……」
「この感じ、あ、あの時の魔物と同じ……」
俺は四百年前、いくつもの死線を乗り越え戦い抜いてきた。魔法使いと戦い、騎士と戦い、魔物の暴走を止める為戦い、最後には勇者とも対峙してきた。
おかげで今の俺は、出そうと思えば自在に殺気を放てるまでに戦闘技術が卓越している。
経験で培ってきた、俺の数少ない特技の一つだ。
「よっと」
「ご、はっ……」
クウと融合した俺は全力で跳躍し、ひとっ飛びで距離を詰めるとセロルの腹目掛け肘を入れる。
セロルは俺の動きに全く反応出来ないまま、訓練場の端まで吹き飛ばされ、壁に背中を強く打ち付けた。
「なっ、速――」
「隙だらけだぞ」
ガゼルはようやく俺が間近まで迫っていることに気づいたがもう遅い。横っ腹目掛け全力の蹴りをお見舞し滝へと吹き飛ばす。
ガゼルは激しい水しぶきを巻き上げながら、滝を突き破り水の中へと姿を消した。
残るはネネティアだけだ。
「前回の様にはいきませんよ!」
「おっと……いい反撃だ。だが甘いな」
ガゼルを蹴り飛ばした隙を狙ってネネティアが魔弾を放ってきたが、その程度の不意打ちを避けることなど造作もない。
素早くネネティアの背後に回った俺は、そのまま腕を掴んで訓練場の巨大プールに放り込む。
ものの数秒で、三人は俺に敗北した。
「ぐふっ……つ、強過ぎるよ兄貴……」
「痛っ!くそ、本気で蹴りやがって……!」
「ゴホッゴホッ!い、いつの間にか水の中に落とされてました……」
しばらく待っていると、三人は各々苦言を口にしながら戻ってきた。まぁさすがにまだまだ余裕がありそうだな。
「やっと戻ってきたか。よし、早速第二ラウンド始めるぞ」
「まっ、待てアカリ!いきなりこれは厳し過ぎる!もう少し順序というものを――」
「んなこと言ってたら、一生借金は返せないぜ」
「がはっ……!」
ガゼルが何やら弱音をはこうとしていた様だが、そんなものを最後まで言わせはしない。話してる暇があったら少しでも反撃する為の策を考えるんだな。
そう、俺の後ろにいつの間にか忍び込んでいるセロルの様に。
「いい動きだセロル、魔力の操作も上手くなったな。だが、その程度じゃ俺は出し抜けないぞ」
「くっ、やっぱりバレてる……はあぁ!」
「よっと、おら!」
セロルは最後まで諦めず魔剣を上段から振り下ろして攻撃を仕掛けてきた。だが、俺は右脇に軽く移動することで魔剣を回避し、そのまま足刀蹴りでセロルを横から突き飛ばす。
「この距離なら、私の間合いです!」
フォン!
「うおっ!と、ネネティアの魔弾か、いいタイミングだな」
セロルを突き飛ばしたのとほぼ同時に、ネネティアの魔弾が俺に命中した。間や命中精度、どれをとっても見事な射撃だ。
だが、残念ながら命中したのは背中で俺自身にはほとんどダメージは無い。比較的高威力の遠距離射撃型とはいえ、俺を相手にはやや力不足だった。
「いい攻めだが、急所を狙わなきゃダメージにはならねぇな!」
「もう目の前に――きゃっ!」
俺の移動速度にネネティアはまたも驚き、その隙を突いて俺の左フックが肩を彼女の捉え彼方へと吹き飛ばす。
三人の吹き飛ばした方向に目をやると、全員みごとにのびていた。どうやら今日はここまでの様だ。
「俺の本気は耐えれて二発ってところか。さて、ここからどこまで強く出来るかね」
耐え抜いて強さを身に付けるのが先か、それとも心が折れるのが先か。それは全て彼ら自身に掛かっている。
こうして、俺直々の特訓が幕を開けたのだ。




