二章 12.魔法の兆し
「そ、それはな……」
ガゼルの追求を逃れる為に、俺は今世紀最大級の脳の働きをみせ、乗り切るための策を弄する。
ここはあれだ、身分証を作った時の言い訳を応用してみよう。
「じ、実は俺孤児でさ、この学園に来るまでマリナの家に世話になってたんだ……」
「マリナというと、二年トップの勇者一族本家か。なるほど、確かにあの家系は孤児の保護も行っていると聞いたことがあるな」
「そうそう、それで成人する時にマリナに薦められてここに来たんだよ」
全くのでまかせだが、それでもこの嘘で身分証まで作れたのだから、ガゼルにも効果はあるみたいだ。
これで布石は十分。ここから本題に切り出していく。
「ふむ、アカリの出身は分かった。だがそれがなぜ魔王の名を知ることと繋がるのだ?」
「マリナの家も勇者一族だからさ、大昔の文献が残ってたんだよ。その中に魔王の名前も載ってたから、同じ名前を持つ俺は今後何か苦労する可能性があるかもということで、念の為にと教えてもらえたんだ」
「なるほどな、魔王の名を知っている奴はそう多くはないが、それでも少なからずはいる。それを警戒するのは確かに当然か」
「まぁ、実際そんな人間とは全然会わなかったから、最近まで忘れてたんだけどさ」
思いつくがままに口にしていったが、どうにか話は繋がった。ガゼルも納得してくれたみたいだしもう大丈夫だろう。
だが、今後マリナ以外の本家の人間と接する機会があれば、このボロは必ずバレることになるのでそこは注意しなければ。
「しかし、なぜそうまでして本家の人間はお前をアカリと名ずけたのだ?」
「いや、この名前は元からだから本家は関係ないよ」
「ふむ、だとしたらアカリの実親が名付けたということか。それなら事実を知らなくても無理はな――っ!す、すまない、さすがに不躾過ぎた……」
「いやいいよ、俺もそこまで気にしてないし」
ガゼルは俺のプライベートに無遠慮に踏み込み過ぎたと感じたのか、すぐに謝ってきた。
俺は本当は孤児でも何でもないから全然気にはしてないけど、それは言えないから問題は無いとだけ言っておく。
「……ともかくそういう理由で、リリフィナはアカリに敵意を向けている可能性が高い。迷惑を掛けてすまないが気を付けてくれ」
「ははっ、了解だ。まぁ向こうとも少しは仲良くなれたと思うから大丈夫だよ」
リリフィナとは最初こそバチバチと火花を散らしたものだが、今はそこまで険悪な仲では無いと俺は思ってる。まぁまだクウを馬鹿にしたことは許してないけどな。
「そういやガゼルは俺の名前が魔王と同じだって知ってても気にしないんだな」
「当然だ、印象には残るが何百年も前の人物と比べても仕方ないだろう。うちの姉が変わってるだけだ」
「まぁ言われてみればそりゃそうか」
たまたま名前が同じなだけだし、はるか昔の人間なのだからいちいち突っかかる理由にはならないのだろう。
実際は名前どころか同一の人間なんだけどな。
「でも何でリリフィナはあんなに魔王のことが好きなんだ?普通あれを王子様とは呼ばないだろ」
「……これはあまり言い降らせることでないから、ここだけの話にしておけよ。実は、エインシェイト家に遺されていた文献では、魔王は全く悪人としては描かれていなかったんだ」
「へ、へぇー、そうなんだ……」
悪く書かれていないのは恐らく、それを残した奴が俺の知り合いだからだろう。
くそっ!ここに来てマリスの日記と同じ黒歴史を見つけてしまうとは!
「その文献では、魔王はかの帝国を救う為に勇者と戦ったと記されていたが、信憑性は低いだろうな」
「まぁ、そりゃそうだろ。魔王だし……」
誰だか知らねーが、余計なもん残してんじゃねーよ!
お陰で子孫が困惑してるじゃねーか!
「リリフィナはその文献を読む前から、魔王は本当は良い人だと思うとか変なことを言う奴でな。文献を見つけてからは、確信を得たように魔王信者に変わり果ててしまったのだ」
「それはなんとも……ちなみにその文献は誰が書いたかとか分からないのか?」
「確か、筆者はメルフィナという名の先祖だった筈だ」
「ふーん、メルフィナね……」
薄々そんな気はしていたが、やはりそれを残したのはメルフィナだったか。メルフィナは目が見えなかったから、恐らく側近の二人も関わってるんだろうな。
全く、どいつもこいつも厄介なものを残してくれる。
人を魔王信者に変える文献か、読んでみたいようなみたくないような……。
「そう言えば、アカリは何処でリリフィナと知り合ったんだ?」
「あーそれは、魔道兵器のレンタル場だよ。特注の魔道兵器について話してた時に割り込んで来て、喧嘩になりかけたんだ」
「なるほど、あいつは愛想が悪いからそれも仕方ないか。しかしもう特注の魔道兵器を用意するとは、随分と気が早いな」
「ああ、ちょっと後悔してる自分がいるよ。まぁ魔道兵器自体は超強力だから文句は無いけどさ」
ガゼルが俺の造ってもらった魔道兵器に興味を示してきたので、腰のホルスターから取り出して渡して見せる。
形状はセルフと全く一緒だからリアクションは薄かった。
「ただのセルフにしか見えないが、少し重いな。何か違うのか?」
「自分の魔力を魔弾に変えられる様にしてもらったんだ。それで破裂しないよう強度を上げた結果少し重くなってる」
「ふむ、魔力操作を使えるなら自分の魔力を魔弾に変えるのも有りなのか。なかなか面白いことを思いついたな」
俺の考案した魔道兵器を、ガゼルは感心しながら眺めている。彼も魔力操作は扱えるから、その凄さが分かるのだろう。
そういえば、ガゼルの魔法を魔道兵器に通したらどうなるんだ?
もしそれが魔弾に変化して放たれるなら、ガゼルに必要だった指向性が手に入るんじゃないだろうか。
「なぁガゼル、今度の訓練の時それ貸してやるから、試しに魔法を使って撃ってみろよ」
「?あ、ああ、別に構わないが、壊れても知らないぞ?」
「確かに、じゃあ壊れるのは嫌だから一発だけな」
折角造ってもらったのに壊す訳にはいかないので、試し撃ちは一発だけだ。
だが、もしこれが上手くいったら、ガゼルは魔法を制御出来るようになり大幅な強化が期待出来る。これは楽しみになってきた。
「現金な奴だ。まぁ何か考えがあるようだし、乗ってやるとするか」
「ああ、楽しみにしてろよ」
「その顔、逆に不安になるな……」
「クウー……(アカリまた変な顔してる……)」
どうやらまた変な笑みを浮かべていたらしく、クウとガゼルに指摘されてしまった。
もう一向に治る気配は無いし気にするのはやめよう。
ともかくそんな感じでガゼルと約束を交し、この場はお開きとなった。
――
それから数日が経過し、ガゼルと約束をした魔道兵器訓練の日がやって来た。既にガゼルには魔道兵器は渡してあり、扱い方のレクチャーも完了している。
今日はネネティアに魔道兵器の扱いを教えてもらう日なので、彼女も同席中だ。
さあ、後はガゼルの魔法が上手く魔道兵器を介して魔弾に変化するか、試してみるだけだ!
「やるぞアカリ、ほんとうにいいんだな?」
「ああ、派手にぶちかましてくれ!」
「分かった。では……はあぁ!」
ブオォォ!
ガゼルが魔法を流して魔弾を放った瞬間、紅蓮の一閃が狙った方向へ放たれた。命中した的は黒く焦げ付き、魔道兵器の銃口は白い煙を吹いている。
威力、射程、火力、そのどれをとっても、もはやただの属性変化とは比べ物にならない程格段に強化されていた。それはまさに、俺が昔見た覚えのある魔法と何ら遜色はないものである。
「やった……!」
実験は大成功だ。




