二章 11.リリフィナの想い人は……
シーラとの密会を終えた俺は現在、クウをモンスターボックスから出し一緒に寮へ帰っている途中である。
「はぁ……これからの忙しい未来を考えると気だるいな」
「クウ?(アカリ大丈夫?)」
「大丈夫だよ。この強力な魔道兵器を手に入れた代償としてなら、大したことは無いさ」
現状は多額の借金をしているような状況だが、それでもこの魔道兵器の強さを考えたら必要経費だ。
七百万なんぞとっとと稼いで終わらせてやる。
「ん?ここは……図書館か。そういやリリフィナの言ってた王子様ってのがちょっと気になってたんだよな。少し見てみるか」
寮へ向かっていると図書館の横を通りかかったので、折角だからリリフィナがどんな本に夢中になってるか拝ませてもらおう。
正直自分とマリスの戦いが描かれてる本なぞ恥ずかしくて読みたくないが、それでもリリフィナの言う王子とやらが誰なのか気にはなるからな。まぁ大方マリス辺りだろうが。
「えーと、確か勇者伝説だったっけ?どっかにあるかな……」
「クウー!(あったよ!)」
「おおっ、ナイスクウ!見つけるの早いな」
「クウ〜(ふふーん、凄いでしょ〜)」
目的の本はどこかと目を巡らせていると、クウがいち早く見つけてくれた。どうやらリリフィナの持っていた本を覚えていたらしい。さすがクウは何事においても優秀だ。
にしても、こんな大層な学園の図書館にまで置かれてるとか、どんだけ有名な絵本なんだよ。
「よしっ、それじゃ早速読んでみるか!」
「クアッ!(うん!)」
目的の本を手にした俺は適当な席に腰を下ろし、クウと一緒に本の扉を開く。
――勇者伝説――
遥か昔、世界は凶悪な魔獣を従えた魔王によって支配されようとしていました。
そんな世界を救うため、勇者マリスは立ち上がったのです。
勇者マリスは魔王を倒すべく、北の大地ボウルサムへと船を走らせました。道中では何度も攻めてくる魔王の刺客と激闘を繰り広げつつ、その全てを打ち倒し、遂に勇者マリスは魔王の元へと辿り着いたのです。
「魔王!この世界をお前の好きにはさせない!」
「ふん、ならばこの魔王を倒して証明して見せろ。勇者マリス!」
そして勇者マリスと魔王の戦いが始ったのです。それは海を裂き、大地を砕き、天を焼く、世界の運命を掛けた激戦でした。
魔王は配下の魔獣と融合することで、人間を超えた化け物へと変貌し勇者マリスへ襲い掛かります。その変幻自在な攻撃を前に、勇者マリスはジリジリと押されていくのでした。
「ま、まだだ……僕は、この世界を守ってみせる!」
ですが、この世界を救う為に勇者マリスは決死の覚悟で伝説の剣に全ての力を結集し、遂に魔王を封印することに成功したのです。
こうして、魔王はこの世界から姿を消し、世界には平和が訪れたのでした。
――終――
「分かってはいたけど、俺達の扱い酷いな……」
勇者伝説を読み終わった第一声がそれだった。
恥ずかしさにら悶えながらも、リリフィナの言う王子が誰なのか知りたいが為に、俺は我慢して全部読み切る。
だが、登場人物は少なかったし、当初の予想通り勇者で間違いないのだろう。
「まぁ普通に考えたら勇者以外を王子様とか呼ぶ訳ないもんな。当たり前のことだったか」
正解が誰かは分からないが、それでもマリス以外は有り得ないだろうし、これ以上気にする必要は無いだろう。
「アカリ、こんな所に居るとは珍しいな」
「ん?おぉー、ガゼルじゃん。今日も魔法の勉強か?」
リリフィナの言動に一人納得していると、図書館の常連であるガゼルがやって来た。
手には数冊の本が積まれており、相変わらず魔法に関する文献を探していたらしい。
「まぁな。で、お前はここに何の用だ?本を読む様な性格とは思えないが」
「いや、本ぐらい読むわ!」
ガゼルは俺が図書館に居ることが珍しいらしい。全く、会って早々失礼な奴だ。
これでも俺は日本で暮らしていた頃はそこそこ本を読んでいたんだからな。まぁ主に動物図鑑とかがメインだったけど。
「で、ここで何をしてたんだ?」
「はぁ……ただ気になった本があったから読んでみただけだよ」
俺のツッコミを鮮やかにスルーするガゼルに肩の力を抜かれ、俺は気だるげに勇者伝説を持ち上げ説明した
「む、それは勇者伝説か……なぜ今更そんなものを」
「俺この本読んだこと無かったから、少し気になったことがあって読んでみたんだけど――あっそうだ!ガゼルお前、リリフィナ・エインシェイトって知ってるか!?」
ガゼルに理由を問い掛けられたので答えていると、リリフィナの家名のことを思い出した。
エインシェイト家と言えばガゼルも同じ家系だし、身内なら何か知っているかもしれない。
「リリフィナ……やはりあいつが絡んでいたか」
「やっぱりガゼルの知り合いだったのか」
「ああ、知り合いどころか双子の姉弟だ」
「えっ!?そうなの?」
親戚だろうというあたりは付けていたが、まさか双子だったとは。それは完全に予想外だ。
「何か変なことをされなかったか?」
「変なことっつーか、最初会った時は滅茶苦茶喧嘩売られたな」
「そうか……すまなかった。恐らくあいつはお前の名前が気に入らなかったんだろう」
「名前が?何でだよ?」
どうやらガゼル曰く、リリフィナが初対面で悪態ついてきたのは、俺の名前に原因があるらしい。
そういえば俺がアカリと名乗った時も、何か気に入らない様な反応を見せた気がするな。
リリフィナは俺の名前に何か怨みでもあるのか?
「あいつは勇者伝説に出てくる、ある登場人物に恐ろしいまでに心酔しているんだ」
「あー、そうそうそんな話聞いたよ。王子様とか呼んでたし、つまりは魔王と同じ名を持つ俺が敵側だから毛嫌いされてたってことだろ」
「確かにあいつはその人物のことを王子様と呼んでいるが、アカリに悪態ついたのは敵側だからでは無いぞ」
「え、違うの?」
俺はてっきりマリスのことを王子様と呼んでいて、だから敵側の魔王と同じ名前である俺が憎いのだとばかり思っていた。
なら彼女は一体誰を王子と呼んでいるのか。何故俺の名を憎んでいるのだろうか。
「あいつは、お前と同じ名前を持つ魔王に恋焦がれている。だから同じ名前であるアカリが腹立たしいんだ」
「あー、なるほど。好きな人と同じ名前の奴が現れたから気に入らなかったんだな。納得納得――ってはあぁ!?魔王のことが好きだって!?」
衝撃の事実に俺は一瞬脳の処理が追いついていなかった。結果変なノリツッコミをしてしまったじゃないか。
「変わってるだろ?」
「いや、そんな馬鹿な。変わってるどころの話じゃないだろ……」
てっきりリリフィナは勇者マリスのことが好きなんだとばかり思っていた。
だが、彼女の好きな人物は全く真逆の魔王だった。てか俺じゃねーか。
一体どこをどう読んだらあの悪役非道な魔王を好きになれるというのか……。
「ところで、なぜアカリは魔王の名がアカリだということを知っているんだ?この事実は絵本には描かれていない筈だが」
「え?あ……」
やらかした。これは完全にやらかした。
確かにアカリという名は絵本のどこにも出て来ていなかったのだ。だというのに、俺がそれを知っているというのはあまりにも不自然である。
ガゼルやリリフィナが知ってるのは、恐らくこいつらがエインシェイト家で、マリナの時みたいに昔の文献を見つけたからなんだろう。
だが、俺はそういった家系でもない。それなのに名前を知っているというのは、明らかに怪しすぎた。
「どういうことだ?」
混乱で頭がパンクしそうな俺を相手に、ガゼルは容赦なく追求してくる。
ここはどうにかして、適当な言い訳で誤魔化さなければ。俺が魔王だという事実だけは、バレる訳にはいかないのだから。
「そ、それはな……」
この日俺は、かつてない窮地を前に脳内を全力でフル回転させ、乗り切るための打開策を模索するのだった。




