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一章 29.俺達の戦術 後編

 俺、ガゼル、ネネティアの戦闘スタイルが共有し終わり、残るはセロルのみだ。


「それじゃあ最後は僕だね。と言っても大したことは出来ないんだけど……」


 セロルはそんな弱気な発言をしながら、苦笑いを浮かべつつ頭を搔く。

 この自信なさげな男を、これから強く鍛え上げなければいけないのだから大変だ。


「それでセロルはどんな戦い方をするんだ?」

「一応僕も勇者一族だからこれを使うよ」


 そう言いながらセロルが腰のホルスターから取り外したのは、魔剣の柄だった。

 マリナの物とは形状が少し違う気がするが、それはデザインの違いだろうか。


「魔剣か、やはり勇者一族だな」

「わぁ、私初めて見ました」

「僕にとっては手に余る代物だけどね」


 魔剣の刃を出現させながら、セロルはそう弱気に呟く。

 その動作だけを見ると、魔力操作も問題は無いし十分戦えそうに見えるが。


「確かセロルは魔力総量が少ないんだったか?」

「うん、この通常形態でさえ、出し続けてたら一分しかもたないんだ」

「一分か、確かにそれは短いな……」


 あの魔剣は、それほど魔力を消費する様な武器では無い。ガゼルが使っても恐らく三十分以上は維持し続けられるだろう。

 そう考えると、セロルの魔力総量は常人よりも遥かに劣っている。


「本当は魔剣使いは前衛を務める役目なんだけど、僕じゃ壁にすらならないよね……」


 役目を全う出来ないことに、セロルは酷く落ち込みだす。

 何か励ましの言葉を掛けてやりたいが、まだセロルの戦闘スタイルを見たことがないので下手なことは言えない。


「魔剣が難しいなら、魔道兵器を使ってはどうですか?」

「確かに、魔道兵器なら原動力は魔石だから自分の魔力総量など関係無いな」


 落ち込むセロルにネネティアとガゼルが代案を提示した。

 だが、それを受けてもセロル自身の表情にあまり変化は無い。


「ごめん、弱い癖に生意気だってのは分かってるんだけど、僕はこの魔剣で身内を見返したいんだ。じゃないと、僕は前に進めない気がするから」

「そうか……」


 セロルにはセロルなりのプライドがある。その真っ直ぐな言葉を受けてネネティアとガゼルは何も言い返すことは無かった。

 ここに居る奴に、信念を持たずに戦ってる奴なんて一人もいないのだから。


「まっ、セロルの戦い方に関しては、今後考えていけばいいさ。俺が教えるんだから大船に乗った気でいろよ!」

「うん……ありがとう兄貴!」


 今すぐ何か答えを提示するというのは無理だが、それでも必ず戦い方はある筈だ。

 今後はそれをじっくり模索していけばいい。


「なら、これで全員のやれることは出揃った訳だが、戦術はどうする?」

「そうだな、俺とセロルが前衛で壁になって、ガゼルは中衛から遊撃をして、ネネティアは後衛から狙撃って感じか?今思いつくのだと」


 ガゼルの問に俺は現状の戦力から陣形を考える。と言っても全員のやれることを考えたら、この配置しか無いんだが。


「それが妥当ですね」

「うん」

「俺とガゼルは魔道兵器の練習もするから、その結果次第では多少前後するかもだけど、基本はこの型でいこう」

「了解だ」


 魔道兵器さえまともに扱えるようになれば、俺は前衛も中衛も出来るようになるし、ガゼルも後衛の支援が可能になる。四百年前でも魔法使いは後衛だったしな。


「じゃあ次は具体的な戦術か」

「取り敢えずアカリ、お前タフそうだから壁役な」

「ぐっ、反論したいけど言い返せない……!」


 いつもなら強く言い返すところだが、今回ばかりはそのお通り過ぎて言い返す言葉もない。

 ガゼルの言い方はムカつくけどな。


「ならセロルは俺が的になっておくから、その隙に攻撃してくれ。んでガゼルは適度に攻撃しつつ、俺が止め損ねた奴を仕留めてくれ。ネネティアは後衛から狙撃な」

「いいだろう」

「分かりました」

「うん、頑張るよ……!」


 戦術も俺が壁になってるうちに皆で一斉に攻撃という、なんとも脳筋な作戦しか思いつかなかった。

 まぁまだこの面子では、実戦に挑んだことも無いのだから仕方ないことだろう。


「じゃあこれでセリーダ先生に提出するか」



 作戦会議を終えた俺達は、揃ってセリーダ先生の所へ向かった。


「む、次はお前達の部隊か。戦術プランは上手く立てられたか?」

「もちろん!」

「これが私達の部隊の戦術プランです」


 セリーダ先生の問い掛けに、俺は自信満々とばかりに胸を張った。

 そんな俺の横をすり抜けて、ネネティアがプランを提出しセリーダ先生はそれを確認し始めたが。


「ふむ、確かにこの戦力ならこの陣形が基本になるか。戦術も実戦がまだなのを踏まえても悪くはないな」

「よしっ!」

「クウー(よかったねアカリ)」


 中々の高評価を受けられたことに、俺は拳を握って喜ぶ。クウも頭の上で賞賛してくれた。

 他の面々もそれなりに喜んでいる様子だ。


「戦術プランはこれでいいだろう。で、この部隊の隊長は誰なんだ?」

「隊長?」

「言われてみれば考えてなかったな」

「お前ら……まずはそれが真っ先に議題に上がるものだろう」


 隊長なんて存在、今言われるまで全く考えていなかった。

 だがそんな俺とガゼルの反応に、セリーダ先生は呆れて頭に手をやる。

 ネネティアとセロルは何も言わないが、もしかして気づいてたのか?

 ともかく、俺達は隊長を決める為再び会議に戻った。


「隊長かー、ガゼルお前どうだ?」

「冗談じゃない。俺は自分の成長で忙しいし、何よりこの部隊を纏める自信は無い」

「いや、それを自信満々に言われても……」


 何となくガゼルを推薦してみたが、呆気なく断られてしまった。

 確かにガゼルは魔法の研究やらで忙しいし、それにこの個性が強い部隊を纏めるのは骨だろうが、それでも即答は無いだろう。

 少しは検討してくれ。


「じゃあネネティアは――」

「お断りさせて頂きます」

「食い気味だな!じゃあ、セロル……はやめとくよ。分かったからそんな顔を青くするな」


 ネネティアには最後まで言い切る前に断られ、セロルは目線を送っただけで顔を真っ青に染め、首を高速で横に降られた。

 そこまで拒絶せんでも無理にはやらせねぇよ。


「はぁ……わーったよ。じゃあ消去法で俺が隊長だ」

「消去法じゃなくともアカリが隊長になってただろうがな」

「ですね、この部隊はアカリくん以外には纏められないですよ」

「僕も兄貴しかないと思う」


 残った俺が隊長をやる流れなのかと思いきや、こいつら全員元から俺しかないと思っていたらしい。

 人の上に立つのとかあんまり好きじゃないんだけどな。その割には魔王をやらされたりと、いつも上に持ち上げられてしまっていたが。


「お前らそれ思ってたんなら先言えよ!いちいち確認とる必要なかっただろうが!」

「いきなり順番に聞き始めたお前が悪い」

「なんだと!?」

「まあまあお二人とも、早くセリーダ先生に報告しましょうよ」


 またガゼルと口喧嘩に発展したが、ネネティアに軽く纏められた。

 やっぱり彼女の方がリーダーに向いてるんじゃないだろうか。


「お前らか、隊長は決まったか?」

「俺がやることになったよ」

「ふむ、アカリなら実力もあるし戦闘面に関しては頭も切れそうだから適任か。しっかり務めろよ」

「はーい」


 報告に行くと、何故かセリーダ先生からも太鼓判を押された。

 別に俺は皆が思ってる程優秀じゃないと思うんだがな。


「なら今日の演習は以上だ。次回から連携の訓練も行うから備えておくように」


 最後にセリーダ先生から今後の指示を受けて、今日の演習は終了となった。







 ――








 放課後、身支度を済ませた俺は寮へ戻ろうとしたのだが、ある人物に呼び止められた。


「久しぶりアカリ。どう?学園生活は上手くやれてる?」

「マリナか、久しぶりだな。生活はぼちぼちだ、ちょっとずつ慣れてきてるよ」


 俺を呼び止めてきた人物、マリナは気さくに笑いながら近寄ってきた。

 その雰囲気に俺は何か違和感を覚え、嫌な考えが脳裏を過る。このままこの場に留まるのは良くなさそうだ。


「それだけならもう行くぞ」

「待ちなさいよ、こんな世間話をする為にわざわざ一年生のフロアに来る訳ないでしょ」


 面倒事に巻き込まれる前にこの場を去ろうとしたのだが、残念ながらそれは叶わなかった。


「はぁ……じゃあ何の用だよ?」

「実はあなたに頼みたいことがあるのよ」


 一年生フロアに突然現れたマリナは、神妙な面持ちでそんなことを口にした。

 やはり俺の予感通り面倒事になりそうだ。


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