一章 30.マリナの頼み
久しぶりに俺の前に現れたマリナは、頼みがあると口にしてきた。
「で、頼みって?」
「それを話すには、紹介したい人が居るからついて来てくれる?それにここだとちょっと目立つしね」
「……確かにな。分かった、ついてくよ」
マリナは二年生の中ではトップの実力者なので、そんな学園の有名人が一年生のフロアに居たらすぐに目立ってしまう。
だんだんと野次馬も増えてきてしまっているので、場所を変える為にマリナの後を着いて行く。
「ここよ」
マリナに案内されて到着したのは、学園に数多くある会議室のうちの一室だった。
生徒は全員、申請さえすればどの会議室でも自由に使える。だから既にマリナは部屋を用意していたらしい。
「失礼しまーす」
「おっ、来たわね〜小生意気な一年坊」
「……誰ですか?」
入室すると、もう既に部屋の中にいた一人の女子生徒から、いきなりそんなことを言われた。
言葉の内容から先輩であることは推測出来るのだが、それ以外の情報が分からない。
「彼女の名前はセルシー・アヒレス。私と同じ推薦組で、あなたの一個上になる先輩よ」
「やっぱり先輩だったのか。俺はアカリ・リーシャンです。よろしくセルシー先輩」
「あぁ〜良いわね〜その先輩って響き!ねぇ、もう一回言って!?」
「……帰っていいか?」
マリナに紹介されたので一応俺も名乗っておいたが、セルシー先輩の気味の悪い反応を見て、もう帰りたくなってしまった。
「クウー(アカリー、クウ暇だよー)」
「ほら、クウもここはつまんないって言ってるし、もう帰らせてもらうぞ」
「まだ何もしてないでしょ!ちょっとは話を聞いてから行きなさいよ!」
クウも退屈そうにしているので、最早ここにいる理由は無いと思ったんだが、帰ろうとしたら何故かマリナにキレられた。
相変わらず怒りっぽい奴だ。
「あははっ!マリナがこんなになるなんて、私を相手にしてる時以外で初めて見たわ。やるわねアカリくんにクウちゃん」
「え、そうすか?まぁこれくらい大したこと無いですよ〜」
「クアッ!(えっへん!)」
何故かセルシー先輩に褒められたが、悪い気はしない。
なんだ、この先輩話してみたら意外と良い人なのかもな。なんだか気が合いそうだし、クウもご機嫌になったし。
「あなた達、どうやら今すぐ斬り刻まれたいようね……」
「ちょ、ちょっとマリナ!こんなの冗談に決まってるじゃない……!」
「そうそう、ただの挨拶みたいなもんだよ。お陰でセルシー先輩とも仲良くなれたし。さっ、早く話ってのを始めようぜ!」
少々おふざけが過ぎたようで、マリナがガチでキレている。
これ以上怒らせると本気で魔剣を振るわれそうなので、この辺で本題へ切り返す。
「はぁ……まぁいいわ。で、話だけど単刀直入に言うと、あなたに魔物退治を手伝って欲しいのよ」
「魔物ねぇ……結構強いのか?」
「分からないわ。ここ最近、未確認の魔物の目撃情報が入ってくるようになったんだけど、それが二年の管理する区域らしくて、だから私達が動くことになったの」
ガーデニア学園では、学年毎に周辺地域の管理も任されており、年が上に行く程強い魔物の出現する区域を任されるようになる。
俺達一年はまだしばらくは訓練時期なので管理はしていないが、話だけは講義で既に聞いていた。
それで今回は、マリナ達二年の管理する区域で不審な魔物が目撃されたらしい。
「概要は分かったけど、それで何で俺を誘うんだ?マリナ達も強いんだろ?」
「もちろん、私達だけで事足りるとは思うわよ。ただ、もしそいつが新種の魔物なら、正体を掴む為の何か手掛かりになるかと思って」
「新種か……俺は魔物なんてほとんど知らないから、会うやつは全部新種に見えるけど、まぁ新しいやつなら新しい情報を持っている可能性はあるわな。よし!分かった、マリナ達に同行させてもらうよ」
俺の目的は魔物が発生する原因を究明し、この世界を救うこと。その為には、新しい情報は少しでも多く手に入れておきたい。
「クウー!(やったー!魔物退治だー!)」
「嬉しそうだなクウ」
「クアッ!(最近退屈だったから!)」
「確かになー、なら久しぶりに羽でも伸ばすか!」
クウにはここ最近我慢ばかりさせてたからな。たまに外に出る時くらいは自由に遊ばせてあげなければ。
それに俺も座学ばかりだったから、少し体を動かしたい気分だったし。
「ふわぁ〜、話しは纏まった?」
「えぇ、随分静かにしてると思ったら、寝てたのね……」
「あはは、私は知ってる話だからつまんなくてつい……」
先程からセルシー先輩の声が聞こえないと思ったら、どうやら昼寝してたらしい。出会った時の態度といい、昼寝といい随分と自由な性格の先輩だ。
「で、行くのはこの三人なのか?」
「いいえ、私達のクラス担任も同行してくれるから、合計四人よ」
「担任もいるのか、ならあまり好き勝手はしない方が良さそうだな」
「例え居なくても、好き勝手はし過ぎないでよ……」
マリナは疲れた様子でため息をついている。これから魔物退治だってのにそんな疲労困憊で大丈夫なのか?
「じゃあ今から一時間後に正門前に集合でお願いね」
「はーい」
「あいよ」
「クアッ!」
その後集合場所と時間を決めて、この場は解散となった。
だが、俺は一つ確認したいことがあったのでマリナだけを呼び止める。
「なぁ、セルシー先輩がいるのに俺と一緒に行動していいのか?俺は一応五組の落ちこぼれってことになってるんだが……」
マリナと俺の関係を知らない者が見たら、この組み合わせは非常に違和感を覚えるだろう。
何故なら、二年のエリートと一年の落ちこぼれが一緒にいるという構図なのだから。
「え?ああ、それなら気にしなくていいわよ。セルシーはあなたが魔王だって知ってるから」
「はぁ!?そうなの!?」
だが、俺の疑問に対しマリナは予想外の言葉を返してきた。セルシー先輩はまさかの俺の正体を知っている人物だったのだ。
「あれ、言ってなかった?セルシーは私と一緒にマリスの日記を解読した友達なのよ。だから魔王のことも知ってるし、あなたの強さもこの前の入試を一緒に見てたから知ってるわ」
「まじかよ……そういうことは先に言えよな」
「ごめんごめん、でもうちの担任はあなたのこと知らないと思うから、そこは上手く振舞ってね」
「分かったよ、そっちは気をつける」
思いがけず俺の正体を知る人物が増えることとなったが、それでも担任の方は事情を知らないらしい。それなら結局、立ち回りや振る舞いに気を使うことに変わりは無さそうだ。
――
その後マリナと一旦別れた俺は、再び魔道兵器を学園から一つレンタルし、街である物を買った後正門へ到着する。
時間はぴったり一時間後だった。
「時間丁度ね。で、それは何……?」
「ああこれか?へへっ、今は秘密だ」
マリナが指摘してきたのは、先程購入し身に付けていた袖の長いローブだ。
サイズは大きめなせいか、俺の手はすっぽりと覆われている。この外見だけ見ると、ちょっと魔法使いっぽい雰囲気があった。
「アカリくん、変わったセンスしてるわね……」
「こ、これは俺の趣味じゃなくて、機能性を重視した結果なんですけどね……」
「ファッションは個人の自由よ。気にすることないわ」
「その慰めの言葉が逆に刺さる!」
セルシー先輩とマリナは、何故か哀れみの視線を俺に向けてきた。
確かにはたから見たら厨二チックな服装かもしれないけど、これは本当に機能性を重視しただけなんだ。
決して!俺の趣味などでは無い!
「てか担任はまだなのかよ?」
「おかしいわね、そろそろ来る頃だけど……あっ、来たわよ!」
集合時間を過ぎてもマリナ達の担任がまだ来ていないので催促してみると、タイミング良く登場した。
さて、どんな担任の先生なのか拝ませてもらおうじゃない――え!?
「ごめんなさい、講義の資料を整理していたら遅くなってしまいましたわ」
どんな先生が来るのかと思っていたら、そこに姿を現したのはまさかのシーラだった。




