一章 27.魔王と勇者と魔法使いと紅一点
セロルの語る過去は、辛く悲しいものだった。そして、人に嫌われ家族からも疎まれるという点においては、俺にも共感出来る部分がある。
俺自身も体質の影響で、家族や周囲の者から気味悪がられたことも何度かあったからだ。
「勇者一族、もっと誇り高い方達なのかと思っていましたが、力を求めるあまりに歪んでしまったのですかね……」
「さぁな。全員が全員嫌な奴って訳じゃ無いだろうが、それでも嫌な奴はどこにでも居るもんだ」
「ああ、同感だ。俺も未だ魔法という古典的な戦闘スタイルのせいで、身内からも煙たがられているしな」
俺達は各々思ったことを口にしたが、共通しているのは勇者一族のやり方に対する嫌悪感だった。
強さを求めるのは悪いことじゃないが、その結果家族を大切に出来ないのならやらない方がいいに決まってる。
「あのアカリくん、一つお願いがあるんだけどいい?」
「おぉ、何だ?」
セロルは改まってそんなことを言ってきた。
まさか憎い肉親に復讐するから手伝ってくれとかか?そう思うなら仕方ないのかもしれないが、でも俺が手を出すのは違うと思うんだけどな。
「アカリくん、いや師匠……僕を師匠の弟子にして下さい!」
「……へぇ?」
変な予想をしていたら、全く違う方向からの頼みに俺は思わず変な声が出てしまった。
「師匠って、どういうことだよ?」
「今朝助けられた時に、僕は師匠の強さに心打たれたんです!どうか、師匠の強さの真髄を僕に教えて下さい!」
「真髄っつってもな……てか、師匠って呼ぶの早いだろ」
強さの真髄を教えてくれと言われても、俺の力は非常にシンプルだ。なにせ単純に魔力操作で身体能力を上げているだけなのだから。
魔剣を使える勇者一族なら、魔力操作くらい出来て当然だろうし、それはつまり俺と同じ力を既に持っているということになる。
俺と唯一違うのは魔力の量だろうが、そこはどうにも出来ないからな。
「いいじゃないか、頑張れよ師匠っ」
「かっこいいですよお師匠様」
「茶化すなよお前ら。それより、セロルは強くなったらその力を何に使うつもりなんだ?」
冷やかしてくるガゼルとネネティアのことは放っておき、俺は気になっていた部分をセロルに尋ねる。
もしその力で家族に復讐するつもりなら、俺からは何も教えることは無い。
俺の目的はこの世界を救うことであり、人殺しに来た訳では無いのだから。
「僕にとっていじめられるというのは当たり前のことでした。でも、今朝アカリくんに助けられたあの時気づいたんです。僕だって彼らに抵抗してもいいんだって。もう、いじめられるだけの存在じゃないんだって」
俺の問い掛けにセロルは少しずつ語り出した。自分の胸の奥に眠る思いを全て吐き出すように。
俺達は彼の言葉を、ただ静かに聞き続ける。
「僕はもういじめられない為にも、彼らに対抗出来るだけの強さが欲しいんです。だからどうか僕を弟子にして下さい!」
「ふむ……セロルの考えはよく分かった。よし!それなら俺の戦い方を教えてやろう!」
「本当ですか!?」
セロルの求める強さとは自衛が主であり、それはこの戦いの絶えない世界ではとても大切なものである。
ならば教えない理由は無いな。
「ああ、だがそれには二つ条件がある」
「条件……?」
「もったいぶらず教えてやれよ」
「うるさいぞガゼル。俺にも考えがあるんだよ!」
ガゼルが横からごちゃごちゃ言ってきたが、それは無視しておく。
セロルは条件と言われ、若干深刻な面持ちをしていた。別にそこまで難しいことを提示するつもりは無いんだが。
「まず一つ目だな。セロル、お前俺達の部隊に入れ」
「えっ?し、師匠のですか……!?そ、それは願ってもないお誘いですけど、でも僕は弱いしきっと足でまといに……」
「だからこそだよ。これからお前を鍛えるんだから、近くにいた方が楽だろうが。それにな、元々セロルをここに呼んだのは、うちのチームに勧誘する為だったんだ」
俺の誘いにセロルは困惑し、ガゼルとネネティアの方にも視線を向ける。
そんなセロルに対しガゼル達は、ただ静かに頷いて肯定するだけだ。
二人の反応を受けて、俺の言っていたことが本気のものだと分かったのか、セロルは更に驚愕した顔になる。
「ぼ、僕なんかが入ってもいいんですか……?」
「いいに決まってるだろ。お前だからこそ、誘ってるんだ」
未だ不安げな顔をしているセロルに向けて、俺ははっきりとそう告げた。
その言葉を受けて、ようやくセロルも覚悟を決めた表情になる。
「分かりました。師匠、僕を師匠達のチームに入れて下さい!」
「おう、歓迎するぜセロル」
「これからよろしく頼む」
「よろしくお願いしますね」
セロルの申し出を俺達は快く受け入れ、こうしてセロルの部隊入りが決定した。
だが、これはまだ条件の一つでしかない。
「さてと、それじゃ二つ目の条件だが、戦い方は教えるがその師匠って呼び方は止めてくれ。俺はそんな柄でも歳でもない」
「そんなどうでもいいことを条件に入れるなよ」
「どうでもよかねぇわ!俺にとっては大事なことなんだよ!」
俺の二つ目の条件にガゼルが文句を言ってきたが、悪いけどここだけは譲れない。
師匠なんて呼ばれながら学園生活を送るなんて、俺は絶対に嫌だからな。
「では、なんとお呼びしたらいいんですか……?」
「呼び方なんて最初みたいにアカリくんとかでいいよ。ああそれと、その敬語も止めろよな。ネネティアみたいに元からそういう喋り方なら別にいいけど、せっかく同じ部隊になるんだから、それこそ最初みたいにため口で話そうぜ」
同じクラスメイトで更に同じ部隊にもなるというのに、師匠だからと慕って敬語で話されては距離感があって寂しいじゃないか。
セロルは初めて会った時は普通にため口で話していたのだから、またそっちに戻して欲しい。
「分かりま――わ、分かったよ。なら……これからは兄貴って呼ぶね。よろしく兄貴!」
「兄貴……うーん、まぁ師匠よりはましか。分かった、もうそれでいい!こっちこそ改めてよろしくなセロル」
兄貴と呼ばれるのも恥ずかしいが、それでも師匠よりはマシなので一旦はそこで手打とする。
あまり本人の希望を無碍に扱うのも良くないからな。
「アカリ、掃除は終わったか――って、やけに多いな。何をしてたんだお前ら?」
当初の目的とは少しずれたが無事にセロルを部隊に入れることに成功した時、タイミングよくセリーダ先生が教室に戻ってきた。
「セリーダ先生、掃除はバッチリだぜ!それと、俺達はこの四人で部隊を組むことにしたんだ」
「ふむ、そういうことだったか……ん?おいネネティア、お前もこの部隊に所属するのか?」
「はい、そうですけど……」
俺の言葉を受けてセリーダ先生はメンバーを見渡し始め、そこで何故かネネティアにだけそんな問いを投げ掛けた。
「本当にいいのかネネティア?はっきり言ってこのチームの面子はかなり曲者揃いだぞ」
「「おいおい」」
「はは、まぁ確かに……」
セリーダ先生の包み隠さないセリフに俺とガゼルは揃って突っ込み、セロルは何故か共感していた。
突っ込みはしたが、冷静になって考えて見れば確かに個性の強いメンバーが集まったなとは思う。
勇者の子孫、時代遅れの魔法使い、そして皆には話していないが、俺は魔王だからな。
「はい、分かっています……。でもこの部隊なら色々と得るものも多そうですから」
「そうか、何かあればいつでも相談しに来いよ」
「ありがとうございます」
ネネティアはセリーダ先生の言葉に同意しつつも、それでも改めて所属の意思を示してくれた。
セリーダ先生は、もう完全に俺のことを問題児扱いしているな。
「だがまぁ、この部隊はどんな風に成長するのか楽しみでもあるな。頑張れよ、期待しているぞ」
「了解っす!」
呆れた様な表情をしつつも、最後には柔らかい笑みで俺達の成長を期待してくれる。
なんだかんだでセリーダ先生は非常に良い教師だと思う。
ともかくこうして無事、俺達は部隊を結成することになった。




