一章 23.徹夜でおしゃべり
銃撃戦が主流のこの時代において、魔法対近接攻撃という非常に珍しい模擬戦は、俺の勝利で幕を閉じた。
その後他のクラスメイト達は誰も戦うつもりは無く、親睦会はそのまま終了となる。
「アカリ!さっきの模擬戦のことで話がある!」
「少し落ち着けよ、顔怖いぞ」
そして現在、俺は自室で休んでいたところ、ガゼルに鬼気迫る表情で問い詰められていたのだ。
その理由は、ただの戦いで負けたことへの腹いせ……等ではなく。
「おいアカリ、詠唱とは何だ!?」
やはりガゼルは、さっきの戦闘中に俺が少し口にした詠唱が気掛かりだったらしい。
「何って言われてもな、別に俺も詳しくは知らないし……」
さっきは何も考えず口にしてしまったが、よく考えてみれば魔法はこの時代では既に衰退している技術なんだ。
そんなものの知識をここで披露してしまえば、俺が何者なのかと怪しまれてしまうのは必然。そうなると正体が魔王だとバレるのも時間の問題だ。
ここはどうにかして誤魔化さなければ。
「アカリ、お前もまさか魔法が使えるのか?あの身体能力の高さは魔法から来るものなんじゃないのか!?」
「ああいや、俺が使えるのは魔力操作までだよ。単純に魔力量が多いからその分強化できてるだけだ」
俺は戦闘時にはクウから魔力を供給してもらい、マジックストレージの魔力は温存している。それでも魔力量が膨大なのは、単純にクウ自身の魔力量がとてつもなく多いからだ。
クウは伝説の竜と呼ばれるだけはあり見た目は可愛い小竜だが、内に秘める力は人知を遥かに超越したものである。
「魔力操作だけで、あそこまで身体能力を上げてるのか。それはそれでバケモノだな……」
「ほっとけ」
逆に言えば、今の俺にはこの魔力操作しか戦闘手段は無い。だから少し条件が特殊な相手に出会えば、すぐにボロが出てしまうだろう。
射撃の腕でも上げれば戦闘の幅は広がるだろうが、それはまだまだ先になりそうだ。
「まぁそれは今はいい。それよりも、詠唱とやらについて詳しく教えてくれ」
「詳しくっつってもなー……。だいたい、何でそんなに知りたがるんだよ?ガゼルなら今のままでも十分他の生徒と渡り合えると思うぞ」
そもそもなぜガゼルはここまで魔法にこだわるのか、そこが気になったので聞いてみた。
魔法なんて長い訓練を積まなきゃ力にならないものより、魔道兵器の方が扱いやすいだろうに。(まぁそのせいで、現在この世界の人間は力を落としてはいるんだが)
ともかくガゼルくらい魔力の扱いに慣れてるやつなら、魔道兵器を使えばかなり優秀な戦力にはなるはずだ。だからこそ、それを捨ててまで魔法にこだわる理由が知りたかった。
「俺の一族は昔、国では一番の魔法使いだったんだ。だが、現代では魔道兵器が主力となり身内でも最早まともに魔法と向き合っているのは俺だけとなってしまった」
「そうか……」
それは俺もよく知っている。ガゼルの先祖と言えば、帝国のトップで最強の魔法使い一族だ。そこの皇子や姫達とは友達だったから、実力に関してはこの時代の誰よりも詳しい自信はある。
だからこそ、現代で魔法が衰退しているのは少し悲しくもあった。出来ればどうにかしたいとも思っていたが、まさかガゼルも同じことを思っていたとは衝撃だ。
これはもう、協力しない理由は無いな。
「分かった、ならガゼルには俺の持つ魔法の知識を全て話すよ」
「本当か!?」
「ああ、ただ先に一つだけ言っておくけど、知識は話すがその出処に関しては聞かないでくれ。こっちも話せない事情があるんだ」
俺はガゼルを相手に、下手に誤魔化すのは辞めにした。
真正面から彼に向き合い、その上で俺の条件を受け入れてくれるのなら、魔法の知識は全て明かす。
俺も自分が魔王だとバレる訳にはいかないからな。
「分かった。俺は魔法の真の力さえ知れれば十分だ。だから魔法の知識だけを教えてくれ」
「分かったよ。ただ俺も専門家って訳じゃないから、どこまで力になれるかは分からないけどな」
「俺の知らないことを教えて貰えるんだから十分だ」
「へっ、そうかい。なら、何から話すかな――」
それから俺は、丸々一晩かけてガゼルに俺の持つ魔法の知識を全て伝えた。
クウのワープ能力も、広く見ればあれは空間魔法に分類される。だから途中でクウも何か教えてくれないかと頼ってみたがそれは失敗だった。
クウは見事に感覚派の天才型だった為、擬音が多くて何を言っているのか俺でも分からなかったからだ。
ともかくそんな風に色々と試行錯誤しながら、俺とガゼルは夜通し語り合ったのだった。
――
翌日俺達は、徹夜で眠気全開な状態になりながら、どうにか授業に出席した。
何度も意識が飛んでその度に先生に叱られてしまったが。
ともかく親睦会も終わりこれから本格的に授業がスタートするのだから、もっと気を引き締めなければならない。それに今日は、少し厄介な課題も課されたわけだし。
「ガゼル、実技演習の課題どうする?」
「ああ、部隊編成の話か」
魔物討伐は基本四人一組の部隊で行動することが多いらしく、これから始まる実技演習に先駆けて俺達には部隊編成という課題が出されたのだ。
この部隊編成はクラス内の人間なら誰でも良いらしいのだが、どうにも俺とガゼルは先日の模擬戦で変に目立ったせいか、他のクラスメイト達に避けられていた。
これではチームを作るどころの話ではない。
「この状況じゃ俺とアカリが組むのは必然としても、あと二人見つけなければいけないのか……」
「これだけ避けられてる状態で二人見つけるとか、難易度高過ぎだろ」
避けられてしまっている反動で、俺とガゼルの絆はどんどん深くなっていくのだが、こいつとだけ仲良くなっても現状を打開できる訳では無い。
どうにかしてあと二人、仲間になってくれるクラスメイトを見つけないといけなかった。
「クウー!(クウが仲間になるよ!)」
「ありがとうクウ〜。でもな、申し訳ないけど部隊編成は生徒限定なんだ」
「クウ……?(そうなの……?)」
「ごめんよクウ!せっかく立候補してくれたのに……!」
クウの提案を無碍に扱い悲しませてしまったことに、俺の心は張り裂けそうな程痛んだ。
すまないクウ、この埋め合わせは必ずするから!
「何やってんだ、気持ち悪いな」
「なんだと!」
俺の言動にガゼルが突っかかってきた。
このまま喧嘩してもいいんだぞ、と思ったが残念ながらそれは何者かに止められてしまう。
「あのー、今ちょっといいですか?」
「あぁ!?って、あんた確か同じクラスの……」
突然後ろから声を掛けられたので振り返ると、そこにはクラスメイトの誰かが居た。残念ながら名前まではまだ覚えていない。
「ひっ!ご、ごめんなさい……!」
「おい、クラスの仲間ビビらせてどうすんだ」
「誰のせいだよ!はぁ、こっちこそごめんな。悪気があったわけじゃないんだ」
話しかけて来た女子生徒は、俺のせいで完全にビビってしまったのでまずは謝っておく。
事故とはいえ俺が悪いことに変わりはないからな。
「い、いえ、こちらこそ急に話しかけてしまってごめんなさい」
「いやいや、あんたは悪くないよ。で、俺達になんか用?」
「はい、私は同じクラスのネネティア・イェーリスと言います。あの、アカリくんは私のこと覚えてないですか?」
ネネティア・イェーリスと名乗る女子生徒は突然そんなことを言ってきたが、残念ながら彼女のことはこれっぽっちも知らない。
誰かと勘違いしてるんじゃないだろうか。
「うーん……悪いけど思い出せんな」
彼女のことは全く覚えていない。
だが、その後に続くネネティアの言葉を聞いた瞬間、俺は雷に打たれた様な衝撃を受けたのだった。
「そう、ですか……。あの、入試の実技試験では一応同じ第五会場だったんですけど、顔を合わせたのは一瞬だけでしたし、覚えてないのも当然ですよね。ごめんなさい」
「ん?同じ会場……?ってことは、まさかお前が俺の二点を奪った犯人か!」
そう、あの実技試験で二点を奪った犯人こそが、目の前にいるこのクラスメイト、ネネティア・イェーリスだったのだ。




