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一章 22.アカリ対ガゼル 

 シーラとの密会を終えた俺は、寮へ向かって歩いていた。

 これからしばらくの間世話になる場所なので、住みやすい所だといいのだが。


「おおー、結構デカイな。もうこれ校舎とほぼ同じじゃん」


 到着したのは、棟一つを丸々寮に作り替えたような、巨大な建物だった。

 全男子生徒が入るのだから、これくらの広さも必要なんだろう。


「クウー!(楽しそうだねー、アカリ探検しようよ!)」

「それは後でな、まずは荷物とか置いて一息つきたいし」


 クウは寮の広さにワクワクしているらしい。俺もその気持ちはあるが、今はまあまあ重い荷物を持っているので、これを早く置きたかった。

 それから寮内へ入って、自分の指定された部屋を探して歩き回ること数分、ようやく目的の場所を発見する。


「ここが俺の部屋か、さーて同居人はどんな奴かな〜」

「ようやく来たか、この部屋の同居に、ん?」

「え?」


 誰と相部屋になるのか楽しみにしながら扉を開け放つ。

 だがそこに居たのはなんと、ガゼルであった。

 まさかの同居人は、ガゼリシア・エインシェイトだったのだ。


「なんだよー、お前と一緒の部屋かよ」

「なんだ、文句でもあるのか?」

「いやどうせなら、まだ話したことのない奴とかの方が面白そうだったからさ」

「確かにそれは一理あるな」


 教室では居残り掃除を食らって寮は同じ部屋とか、どんだけこいつと縁があるんだよ。

 これからまだ何かあったりしないよな?


「だが俺は、アカリと同室だったのは幸運だった。ウマの合わない奴と何年も同室じゃ、息が詰まるからな」

「あーまぁ確かに、そういう意味じゃ俺もガゼルと一緒で良かったかも」


 寮の組み合わせは完全に運任せなので、最悪嫌いな奴と数年を共にしなければならない可能性もあった。

 だったら既に友達になってるガゼルと同室だったのは、当たりだったかもしれない。


「それにしても、部屋は結構綺麗なんだな」

「ああ、寮に関しては一から五組までは全員共通だからな。推薦組だけは個室らしいが」

「ははっ、随分と優遇されてんのな」


 寮の室内はだいたい六畳程で、両壁際には二段ベッドが一つと勉強用の机が二つ並んでいるだけの殺風景なものだった。

 後は入口付近にタンスが二つあるくらいか。


「よし!それじゃクウ、探検に行こうぜ!」

「クアッ!(やった!)」


 部屋に荷物も置いたことだし、することも無いからクウの要望通り探検に出掛けようとする。


「探検?」

「ああ、クウに寮を見て回りたいって言われてな。だからちょっくら行ってくるわ」

「そうか、しかし本当に変わったマジカロイドだな。それほど生き物のように精巧に造られたマジカロイドは見たことが無いぞ」

「ま、まぁな、それじゃ行ってくる!」


 ガゼルはクウをマジカロイドだと思い込んでいるので、クウの出来栄えに驚いているようだった。

 だがあんまりそこを触れられるとボロが出そうなので、俺は逃げるように部屋を出て行く。

 マリナの思惑通りに皆勘違いしてくれているが、その分俺に知識が無いせいで別の意味で危険だ。今後この辺の話題には、あまり触れられないようにしよう。








 ――








 そうしてガーデニア学園に入学を果たしてから、早数日が過ぎた。

 この間は学園内の紹介や年間計画の説明、クラスでの自己紹介など学校っぽいイベントが続き、そしていよいよ親睦会の日がやって来たのだ。

 親睦会ではクラスメイト同士の模擬戦を行うとのことで、俺は当然ガゼルと対峙している。


「二人とも準備はいいな?」

「ああ、いつでもいいぜ」

「こちらも問題無い」


 ただ一つ話が違ったのは、模擬戦は希望した生徒同士が行うものらしく、全員がやる必要は無いらしい。

 だから現在他のクラスメイト達は、俺とガゼルの模擬戦を観戦しているだけである。


 というか、模擬戦を希望したのは俺とガゼルの二人だけで、誰も戦おうという気概が無かった。いくら底辺の五組とはいえ、もう少しやる気を見せて欲しいものだ。これじゃ親睦会の意味が無いだろうに。


「ルールは入試試験と同じく、相手のサクリファイスタンクを停止させた方が勝利だ。今回は希望した武器を用意することも出来るが、二人とも武器は無しでいいんだな」

「それで大丈夫」

「問題無い」


 銃なんて撃っても当たらないので、もう少し練習を積むまでは使うつもりは無い。だから今回も素手で勝負だ。

 ガゼルの方は自前の武器でもあるのか、それとも俺と同じく銃が苦手なのか。どっちなのかは、これから戦ってみたら分かることだな。


「魔道兵器無しって、どうやって戦うんだろ?」、「自前の武器でもあるんじゃねぇか?」、「でも二人ともそれっぽいのは持って無さそうだな」、「アカリ君の方は片手だけ小手付けてるわね。あれを武器と呼ぶかは分からないけど」


 観戦モードのクラスメイト達は、口々に俺達のことを考察していた。魔道兵器を持ってない俺達が珍しいようだ。

 ちなみに一応言っておくが、この小手は俺の中では武器に含まれてるからな。


「では、模擬戦開始!」


 クラスメイトの言葉に耳を傾けていると、セリーダ先生が試合開始の合図を出てきた。

 ガゼルは既に、何かは知らないけど構えを取っているので、完全に出遅れている。


「いくぞアカリ、これが俺の戦い方だ!」

「っ!これは……!」


 ガゼルが俺目掛け放ってきたのは、まさかの赤く燃える深紅の炎、すなわち魔法による攻撃だった。


 魔法、それはかつて攻撃手段としては魔道具と張り合っていた驚異的な存在だ。

 だが、時代と共に魔道具は魔道兵器として昇華しているのに対し、魔法は逆に衰退して言っていると以前マリナから聞いたことがある。

 実際その言葉通り、俺はこの世界に来てから今日初めて魔法を目にしたので、少し感動してしまった。


「よっと」


 だが、詠唱も無いただの属性変質などで倒せるほど、俺は甘くない。

 襲い掛かる炎を前に、俺は軽く手を払うだけでかき消してみせた。


「なっ!?俺の炎が……!」

「悪いな、この程度の火力じゃ俺を倒すのは無理だぜ」


 クウには既に、モンスターボックスに入っていてもらい魔力の供給も受けている。

 だから俺は今、魔力操作によって全身に魔力による鎧を纏っている状態だ。これを突破するにはあの時のゴリラ並の攻撃力は必須だろう。


「どうした、もう終わりか?」

「くそっ、舐めるなよ!」


 俺の挑発にあてられたのか、ガゼルは更に連続で炎を放射してくる。

 だがそれらは全て俺に届くことはなく、軽く手で払うだけでかき消える程度のものだった。


「手を抜いてないで本気で来たらどうだ?詠唱はどうした?」


 詠唱とは本来、目的の無い魔力に指向性を持たせることで、魔法の威力を高めるものだ。

 それをせずして魔法を使うなど、魔力の無駄遣いでしかない。

 だから俺はガゼルにそう指摘したのだが、何故か本人にはピンと来ていないようだった。


「詠唱だと?訳の分からないことを言うな!」

「ん?魔法を使ってるのに詠唱は知らないのか?」

「そんなものは知らん!」

「どうなってんだ……」


 どうやらガゼルは詠唱を使わなかったのでは無く、そもそも知らなかった様だ。

 だが、今現在魔力の属性変質は出来ているというのに、詠唱は知らないとはどういうことだろう。

 それでは本当にただの意味の無い攻撃ではないか。それなら魔道兵器を使った方が圧倒的に強いんだが。


「どうしたアカリ、攻めなければ試合は終わらないぞ?」

「あ、はい、了解っす」


 ガゼルの戦い方について考え過ぎていたせいか、試合中だと言うのにセリーダ先生から指摘されてしまった。

 ガゼルの謎はともかく、まずはこの戦闘に集中するべきだな。でないとガゼルにも失礼だし。


「おらよっと!」


 俺は魔力操作で強化された身体能力を駆使し、真正面から炎を切り裂いて距離を詰め、土手っ腹に拳をぶち込んだ。


「っ!は、速すぎる……」

「悪いな、その中途半端な魔法じゃ俺は倒せねぇよ」


 たったの一撃で、ガゼルのサクリファイスタンクは身代わりとなり機能を停止する。

 これにて模擬戦は決着だ。


「相変わらず強さだけは別次元だな……模擬戦勝者、アカリ・リーシャン!」

『クウー!(アカリやったね!)』

「おう、魔力ありがとうなクウ」


 セリーダ先生は勝者宣言の前にボソッと何か言ってたように聞こえたが、まぁ気の所為だろう。

 ともかくこうして、親睦会でのガゼルとの模擬戦は俺の勝利で決着となった。


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