一章 21.魔人達のその後
「では、アカリが封印されてからのことも含め、この四百年の歴史を振り返りますわ」
そうしてシーラはゆっくりと、これまでの経緯を語りだした。
思えばこれまで、じっくりとこれまでの歴史を聞ける機会には恵まれてなかったからな。
ここらでまとめて整理させてもらうか。
「まず貴方様が封印されてからの数百年ですが、この時期はまず国の発展に重点を置いていましたわ」
「国の発展か、それは当然だな」
なぜなら俺達の創ったあの世界はまだ出来たてで、人の住める環境なんか全く整っていなかったからだ。
インフラ整備は必須項目だろう。
「あら、後回しにされていたのにあまり怒らないのですわね」
「怒るかよ、あの世界の発展は俺の望みでもあるんだからな」
時折吐いてくる、このさり気ない嫌味が実に彼女らしい。旅をしてた頃を思い出すな。
「ですが、国を発展させるのも大変だったのですよ。なにせ最初は、何をするにもまず貴方様の封印を解いてから、という派閥と対立していたのですから」
「なるほど、そういう過激な考えをする奴も何人か心当たりがあるな……」
「ふふっ、お察しの通りですわ」
そういう行動を取ろうとする人物は、パッと思いつくだけでも何人か出てくる。
多分魔人の中の一人が筆頭だろうな。
「クウー(クウはアカリと一緒に居れなくてずっと悲しかった)」
「そうか、寂しい思いをさせて悪かったな。その分これからはもうずっと一緒だ」
「クウー!(やったー!)」
クウも悲しげに昔のことを語り出してしまった。ここだけは本当に申し訳ないことをしたと思う。
「でも結局は封印を解くにしても、そもそも研究出来る設備も何も無いんじゃ始まらないということで、街の発展から順に行っていくことになったんですわ」
「丸く収まって何よりだよ」
いつまでも俺のことで喧嘩してちゃやるせないからな。
とっとと割り切って、出来ることから進めていくに限る。
「皆が数百年何をしてたかはだいたい分かった。で、この直近の数十年はどうなんだ?」
「えぇ、国もだいぶ発展したということで、そろそろ本格的に貴方様の封印をどうにかしようというのが議題に上がり始めたんですわ」
「確かに俺がちらっと見た時もだいぶ発展してたみたいだったし、封印を解くには頃合だったのか」
あの世界も既にかなりの発展を遂げていたからな。色々なことに手を出すならいいタイミングだったんだろう。
ただ、そこに俺の封印を解くのも含まれてたのが、もったいない気もするが。それが無ければもっといい国になっていたかもしれないからな。
「それで貴方様を封印した原因は、勇者と言われているマリスでしたからね。解く方法を調べる為に、こちらの世界に魔人四人が来たんですわ」
「こっちにはどうやって来たんだ?」
「世界を繋ぐ穴自体は貴方様が既に開けてましたからね。クウとリツに協力してもらって扉を開けてもらったのですわよ」
「あー、そういうことね」
リツとはクウと対をなす伝説竜のことで、時間を操ることが出来る黒き巨竜だ。
確かに既に道が出来ているのなら、二竜の力を合わせれば世界の出入りも簡単だろうな。
「ん?ちょっと待てよ……ってことは、今こっちにはクウしか居ないから、もうあっちの世界には帰れないってことじゃないのか!?」
「え……?他の魔獣はモンスターボックスに入れていないのですか?」
「ああ、全員置いてきた」
「……はぁ、最悪ですわね」
世界を移動するにはクウとリツ、両方の力は必須。だと言うのにバラバラにしてしまっては、もはや俺達は世界を行き来が出来なくなったということだ。
これは結構まずい状況かもしれない。
「俺達の世界に帰るには、今のところマリナに協力してもらう以外ないって訳か……」
「そうみたいですわね。こうなったら出来るだけ彼女との仲は親密に保っておいて下さい」
「ああ、努力するよ」
マリナの協力無しに向こうの世界へ帰れないのなら、喧嘩はおろか敵対など絶対してはいけない。俺はそう胸の内に刻んでおいた。
「ともかくその件は一旦置いておきましょう。あとはこっちに来た他の魔人達の動向ですわね」
「ああそうそう、それ結構気になってたんだよ」
「わたくしもここで教員を初めてからそれなりに経ちますので、現状までは把握していませんがそれでもよろしいですか?」
「それで十分だ。教えてくれ」
シーラも他の魔人達の直近の行動は知らないらしいが、それでも情報がゼロよりはマシだろう。
知ってれば予想も立てやすくなるからな。
「ではまず、ガンマから話しますわね。ガンマ曰く「情報は力のある奴に集まってくる」とのことでして、わたくしが教員になる為別れることになる直前には、魔物討伐ギルドに所属すると言っていましたわ」
「魔物討伐ギルドか、その名前は俺も何回か聞いたことがあるな」
俺も日々の生活のためによく魔石を換金していたのだが、その時に何度か勧誘を受けた記憶はある。
学園のこともあるからと全て断っていたが、魔物討伐ギルドに行けばガンマと出会えたかもしれなかったらしい。
まぁガンマの相変わらずな脳筋発言を聞くに、あまりいい結果は望めなさそうだが。
「次はドロシーですわね。彼女は昔通りすがりのお偉いさんを助けた際に、そこの用心棒にとスカウトされて、そのままついて行きましたわ」
「ふーん、なんか珍しい行動だな。普段なら断りそうなもんなのに。何か狙いでもあったのか?」
ドロシーは自身の利益もなく、誰かの下に着くような性格では無い。
だから突然声を掛けられたからといって、ホイホイついて行くようなことはしないはずだが。
「彼女は「偉い人の所ならいい情報が入ってくるから」と言っていましたが、おそらくは報酬の毎食食べ放題が本命ですわね」
「……馬鹿だな。また奴隷にされてたら笑ってやろ」
確かにドロシーは仲間の中じゃ一番の大食いだった。食べ放題付きと言われたら簡単に着いて行くだろうな。
彼女は俺と出会う前に一度人間の奴隷されていたという経験もあった筈なんだが、警戒心の無さから察するに過去のことなどもう完全に忘れてるのだろう。
本物の馬鹿だ。もし奴隷になってたら、皆で笑ってやるのが彼女の為だな。
「馬鹿はほっとこう。それで最後の一人は?」
「分かりましたわ。最後のシンリーは、詳しいことは分かりませんが、森に篭ってるらしいですわね」
「森に篭ってる!?あいつ、またかよ!」
最後に残った魔人、シンリーは俺と出会う前は何百年もの間森の中に閉じ篭っていた正真正銘の引きこもりだ。
俺の仲間になってからは色々な所を旅してきたのだが、まさか引きこもりに逆戻りするとは思ってもみなかったな。
「これは風の噂なのですが、何やら森で怪しい研究をしてる人物がいるとの目撃情報が出回ってるらしいですわよ」
「研究ね、まぁ封印を解くための研究とかだったら責められねぇか」
俺の為に行動してるということなら、文句を言うことも出来ない。目的があっての引きこもりなら、悪いことでもないだろうし。
「それと関係あるかは分かりませんが、同じ森で人攫いが多発してるとの話もよく聞きますわね。こっちは噂ではなく事実ですわ」
「おいおいおい!それはまずいだろ!」
人攫いって、それはもう完全に犯罪じゃないか!
何やってんだよあのアホは。
てか、さっきまで申し訳ないと思ってた俺の気持ちを返してくれ。
「わたくしの知っている魔人達の動向は、こんなところですわね」
「ああ、ありがとう。俺は今、一番まともなこの学園に来れたことを心から感謝してるよ」
「あらあら、嬉しいことを言ってくれますわね」
ガンマの所はまだマシだろうが、他二つが最悪過ぎる。
マリナに着いてきて良かったと、俺は心の底から思っていた。
「まぁ今日のところはこの辺にしとくか。一度に沢山聞いたら頭がパンクしそうだし」
「えぇ、もうほぼほぼ話せましたから、わたくしも十分ですわ」
「それじゃあ、これからしばらくは教師と生徒の関係でよろしくな」
「はい、周りにバレるのは面倒ですので、わたくしからもそれでお願いしますわね」
シーラとの話はここらで区切りをつけ、俺はクウと共に会議室を出る。
せっかくの入学式だと言うのに、魔人共のせいで全部持っていかれてしまったな。




