一章 20.掃除で芽生える友情もある
初日のオリエンテーションも終わり他のクラスメイトがチラホラと帰り始める中、俺ともう一人の生徒だけが鞄ではなく掃除道具を手にしていた。
「くっ、なぜ俺がこんなことを……」
「面倒だけど愚痴愚痴言ってても終わらねぇし、とっとと始めようぜ」
「ああ……」
こいつとの喧嘩は、セリーダ先生に止められたせいでとっくに冷めていた。
それは向こうも同じらしく、もう先程のような言い争いは起きない。
「こうなったら一組よりも綺麗な教室に磨き上げてやる!」
「クウー(アカリ頑張れー)」
「おう!クウはここでのんびり休んでてくれ」
俺は肩に乗っているクウを机の上に下ろすと、まずははたきで高い所にある埃を落としていく。
もう一人の奴も俺の動きに合わせて反対側から埃を落とし始めた。
「そのマジカロイドとお前、随分と仲がいいんだな」
「ん?まぁな、クウは俺にとって大切な相棒だから」
この世界で魔獣という存在は、もうほぼ残っていない。だから周りには、クウのことはマジカロイドとして認識してもらっている。
「そうか……、さっきは悪態ついて悪かったな」
「ん?ははっ、意外と素直なんだな。もう気にしてないよ、こっちこそごめん」
もっと短気な奴かと思っていたが、まさか向こうから謝ってくるとは思わず笑みが零れる。
意外と良い奴なのかもしれないな。
「そういやまだ名乗ってなかったな。俺はアカリ・リーシャンだ」
「俺の名は、ガゼリシア・エインシェイト。親しい者からはガゼルと呼ばれてる」
「エインシェイト?それって、まさかお前帝家の末裔なのか?」
「……よく知ってるな」
エインシェイトは四百年前の帝王の名だ。かつて皇子や姫とはよく一緒に行動していたので、聞き間違えるはずもない。
しかしまさかマリスの子孫だけでなく、エインシェイト家の末裔まで現れるとは、世間は意外と狭いもんだ。
「まぁ昔は昔、今は今か。ともかくよろしくなガゼル」
かつての友と、今目の前にいるガゼルを比べるなど意味のないことだ。
俺はガゼルに向き直ると、そう仕切り直してよろしくと手を伸ばす。
「お前は、俺の名を知っていながら馬鹿にしないのか?」
「馬鹿に?何で?」
「……ふん、変わった奴だな。こちらこそよろしく頼む」
ガゼルの言ってることは正直意味がよく分からないが、彼の中では勝手に納得出来たらしく毒気の無い笑みと共に握手を交わした。
まぁ本人が納得してるなら、下手に掘り下げる必要も無いだろ。
そうして黙々と掃除を進める中、俺はふと疑問に思っていたことを口にした。
「そういやガゼルはなんでいきなり、俺に突っかかってきたんだ?」
こうしてガゼルの性格をある程度理解してきた今だからこそ、あの場で喧嘩を売ってきた理由が気になったのだ。
「ああそれは、アカリが実技試験で最高点を取ったという話を聞いてな、実力を試してみたかったんだ」
「なんだそりゃ。そんなことなら、あんな回りくどいことしないで正直に話せばいいだろうに」
「初対面ならあれが一番手っ取り早いかと思ってな。こんなことに巻き込んですまなかった」
話してみるとガゼルは意外と素直な奴だった。
しかし俺の実力が見たいからって、もう少し上手く出来ただろうに。案外不器用なのかもな。
「ま、結果こうしてガゼルとも仲良くなれたんだし結果オーライだろ。実力なら今度いつでも見せてやるよ」
「なら、さっき予定表を確認していたら、近いうちにクラスの親睦会も兼ねた模擬戦を行うというのを発見した。そこで是非一戦手合わせ願いたい」
「親睦会で模擬戦って……まぁいいか。そんじゃあその時にお互い実力を見せ合うか」
確かにこの学園は魔物を倒す人間を育成する面が強くはあるが、それでも親睦会まで戦うことは無いだろと思う。
しかしそんなことを言っても何か変わる訳では無いんだし、受け入れてこの機会を有効に使うべきだよな。
「感謝する。今から親睦会が楽しみだ」
「ははっ、変わった奴だな」
第一印象こそ最悪だったが、何だかんだで俺達は打ち解けていた。あの時も悪気は無かったみたいだしな。
その後俺とガゼルは協力して、五組の教室を隅々まで磨き上げてみせた。
「どうだ、そろそろ終わった頃か?」
「おう、完璧に磨き上げてやったぜセリーダ先生」
「大したこと無かったな」
タイミングよく戻ってきたセリーダ先生に、掃除の完了した室内を披露する。
「ふむ、確かに随分と綺麗になったみたいだ。口調が生意気なのは今後の課題として、ひとまずご苦労だったな」
「よっしゃ!」
「ふん」
セリーダ先生に褒められ、俺は大袈裟に喜んだ。
ガゼルはクールにしつつも、下の方で小さく拳を握っている。シャイな奴だ。
「よし、ならもうお前達も帰っていいぞ。これに懲りたらもう喧嘩はするなよ?」
「はーい、よし行こーぜクウ!」
「クウー!」
セリーダ先生から帰宅の許可を得た俺達は、手早く荷物を纏めると教室の出口へ駆ける。
「ああそうだ、リーシャンはシーラ先生が用があるらしいから、後で職員室に寄っていけ」
「了解っす!」
シーラからの呼び出しということは、恐らくは今朝の続きをするつもりなのだろう。
それは俺としても望むところなので、寄り道はせずまっすぐ職員室へと向かった。
「失礼しまーす。シーラ先生居ますか?」
「ああ、来ましたか。それでは、あちらの会議室へ向かいましょう」
職員室でシーラを探すと、彼女もすぐに席から立ち上がって会議室へ誘導された。
随分と用意周到なことで。
「さて、それでは何からお話しましょうか」
「その前にここで話しても大丈夫なのか?なんなら街の外とかでもいいけど」
「安心して下さい。ここは防音もしっかりしていますのよ」
「ふむ、シーラがそう言うなら心配はいらないか」
これから俺達が話す内容は、外部に漏れると結構面倒なことになりそうなので、その辺はしっかりと確認しておきたかった。
ただその点に関してはシーラもちゃんと考えていたようで、余計な心配だったが。
「そんじゃまずは、俺が復活した経緯から話すかな。きっかけは――」
それから俺は、クリスタルの封印から解放されたところから、学園へ入学することになった経緯をつらつらとシーラに語った。
それを終始黙って聞いていた彼女は、話しが終わるとようやくその重い口を開く。
「マリナがですか……。あの時の彼女は確かに不自然な雰囲気を出していましたからね。やはりわたくしも同行するべきでしたわ……」
「ここで教員をしてるんなら、当然マリナのことも知ってるか。何か兆しみたいなのでもあったのか?」
「えぇ、見逃したのはわたくしの失態ですわ。申し訳ございません」
「いや、別に謝るほどのことじゃないから気にすんなよ」
マリナに同行しなかったことをシーラは悔やみ、何故か謝罪まで来てきた。
正直そこまで重く捉えることじゃないし、深く考えないで欲しいな。
「ありがとうございます。それにしても今朝、貴方様を見かけた時は本当に驚いたのですよ?」
「それは俺もだ。カイジンから他の四人はこっちに来てるって聞いてたけど、まさか教員になってるなんか予想出来るかよ」
「ふふっ、意外でしたか?」
「そりゃあな。でも意外とありなのかも」
シーラは魔人の中ではまともに人と接することの出来る方なので、教員にも向いてるのかもしれない。
格好も結構様になってるみたいだし。
と、雑談はこの辺にしてそろそろ本題に入ろう。
「さて、そろそろそっちの事情も教えてくれるか?」
「えぇそうでしたわね。では、貴方様が封印されてからのことも含め、この四百年の歴史を振り返りますわ」
そう切り出して、シーラはこの四百年の出来事を話し出した。




