一章 19.思いがけぬ再会
クウと一緒に魔物を狩りまくって金を稼いだ俺は、無事制服も手に入れていよいよ入学式の日を迎えた。
ガーデニア学園の制服はブレザータイプで、色合いは深緑に近い。ネクタイは明るい黄色なのでバランスはいい感じかな。
俺はファッションには疎いので、よく分からないが。
「どうだクウ、似合ってるか?」
「クウ〜(うーん、分かんない)」
「まぁ格好なんか何でもいいや。ともかくこれから寮生活らしいから、やっとこの宿ともおさらばだぜ」
宿の生活も悪くは無いが、やはり帰る場所があるというのは安心するものだ。
それに寮生活ってのにも結構憧れがあったから、楽しみでもある。
「持ち物も準備おっけーだ!そんじゃこれから新たな生活を楽しむぞクウ!」
「クウー!」
制服と一緒に揃えておいた必要な物を鞄に詰め込んだ俺は、クウを肩に乗せると宿を飛び出して学園へ向かって走り出す。
宿から学園までは歩いても十五分程度で到着するが、気持ちが舞い上がってるせいでつい走ってしまった影響か、かなり早く到着した。
「さーて、まずは入学式の会場だな。えーと、会場は――」
「あら、あなた新入生?道に迷ってるみたいですわね」
「えっ?ああ、はい。入学式の会場が分からな……って、え?」
「ん?何です……え?」
入学式の会場がどこか迷っていると声を掛けられたので、そちらへ振り返る。
するとそこに居たのは、どうにも明らかに見覚えのある人物の姿であった。
「おまっ、なんでここに……!?」
「あ、貴方様こそ、何故ここにいるのですか!?」
「クウー!(あ、シーラだー!久しぶり〜)」
そこに居たのは、かつて俺の仲間として一緒に旅をしていた人物、海の魔人シーラであった。
カイジンから四人の魔人はこっちの世界にいると聞いてはいたが、まさか学園で教員をしているなど誰が予想出来るものか。
シーラの方もここで俺と遭遇するなど全く予想していなかったらしく、彼女にしては珍しく動揺をかくせていなかった。
これは珍しいものが見れたな。
「貴方様は封印されていたはずなのに……訳が分かりませんわ……」
「それはこっちも同じだ。色々聞きたいけど、今はこれから入学式があるから、詳しいことはまた後でな」
「え、ああ、はい。分かりましたわ、会場はあっちですわよ」
「あいよ、そんじゃまた後で」
シーラには色々と聞きたいことがあったし、話したいこともある。
だがこんな人目に付く所でするべきではないとお互い判断し、この場は解散となった。
まさかの再会に衝撃を受けつつ、俺はシーラに教えられた通り入学式の会場へ向かい、式に参列する。
「新入生の諸君、ガーデニア学園入学おめでとう。これからの学園生活では――」
入学式が始まり、学園長が壇上へ上がり挨拶を始めた。
こういうのはどこの世界でも共通らしい。話の内容が長くて眠くなるというのも含めて。
俺は時々あくびをしながらも、どうにか眠らないようにだけは気をつけた。
クウは俺の肩でぐっすりと寝てしまっているが。
「続いては新入生代表の挨拶です。新入生代表ニール・ダインディア、よろしくお願いします」
「はい」
俺が眠気と戦っていると、いつの間にか学園長は壇上から消えていた。眠くて名前すら真面目に聞いてなかったのは失態だったかな。
このニール何とかって奴の名前くらいは覚えとこう。今年の首席ってことは、推薦組のトップなんだろうから。
「目映い日差しが照らすこの美しい日に入学出来たことを嬉しく思います。これから始まる新たな生活――」
ダメだ、こいつもテンプレみたいなことしか言わないせいで、また眠くなってきた。
なんでこう、皆つまんないことをタラタラと語れるのか不思議で仕方ない。まぁ俺なんかじゃ理解出来ない領域の人達なんだろう。
「以上、私ニール・ダインディアの挨拶とさせていただきます」
「ニール君素晴らしい挨拶をありがとうございました。ではこれより新入生の皆さんはそれぞれのクラスへ移動して、順次初日のオリエンテーションを行って頂きます」
ニールの挨拶も終わりやっと入学式から開放された。始まる前は楽しみにしてたけど、やっぱ入学式はどの世界も楽しいイベントという訳では無かったようだ。
「くあぁ〜、やっと終わったか……」
「クウ?(あれ、お話は?)」
「おう、おはようクウ。入学式なら今終わったとこだぞ」
「クアァ(そーなんだ)」
クラスへ移動するため歩き始めたところで、クウもちょうど目を覚ました。やっぱりあまり興味は無かったらしい。
「えーと、俺のクラスは五組だから……あっちか」
五組はクラス棟の一番端に位置しており、辿り着くまでに一から四まで全てのクラスの教室を通り過ぎる。
そのため嫌でも他のクラスの様子が目に入ってしまう。
「一組の教室は随分綺麗だったが、二組はちょっと質が落ちてたな。ってことは、この調子だと五組はもっと酷いことになりそうだ……」
この先の結末を察した俺はやるせなさから肩を落としつつ、目指す五組へと足を進める。
そして辿り着いた教室は、掃除がほとんど行き届いていない使い古された机や黒板が目立つ、ボロボロの一言に尽きるものだった。
「まぁこれも仕方ないことなのか。これから努力して、より上のクラスを目指せってことなんだろうな」
「クウー(埃っぽくて汚いね)」
俺は錆の目立つ扉を開けて五組の中へ入り、適当な席に腰掛けた。
教室では既に何人かクラスへメイトが着いていたが、軽く会釈する程度で特に会話はない。
そのまま無言の空気が流れる中他のクラスメイトもぼちぼち集まり始め、しばらくした後教員らしき人物が教室に入ってきた。
「えー、私がこの五組の担任を務めることとなったセリーダ・イステルだ。実技試験では試験官を務めていたから皆も知ってるだろう。これから最低一年はよろしく頼む」
「「「よろしくお願いします」」」
五組の担任は実技試験で試験官をしていたセリーダ・イステルだった。彼女の挨拶に続くようにクラス全員も挨拶を返す。
「既に周知のことだろうが、この五組は入学試験の結果が最も低い合格者達が集められている。もちろん数多くいた受験生と比べればお前達も十分に優秀ではあるが、今はもう関係の無いことだ。学年が上がるタイミングでクラス替えも考慮されているので、全員一組への昇格を目指して精進するように」
セリーダ先生の言葉は初っ端からかなり厳しい内容だった。初日だってのに随分と圧をかけてくる先生だな。
それがこの学園のやり方なのか、はたまた彼女自身の性格故なのか。それともその両方か。
「では今から入学試験での皆の成績の詳細を配る。全員くまなく目を通して、どこが他クラスと劣っているのか把握しておけ」
「どれどれ……?」
セリーダ先生から入学試験の成績を受け取り、その内容に目を通す。
すると俺の成績は筆記試験の結果がほぼ最低点に近く、実技試験だけで合格を勝ち取ったというのがよく分かった。
やはりマリナの見立ては当たってたらしい。
「まっ、こっから這い上がればいいんだし問題ないだろ」
「ふん、随分余裕だな。偉そうな口を叩いているとボロが出た時に苦労するぞ?」
「なんだお前?」
自然に零れた独り言に、隣に座っていたクラスメイトが突っかかってきた。
初日から喧嘩を売ってくるとは随分と血の気の多いやつだ。
「ガキ用のマジカロイドなんか肩に乗せて、ここは児童園じゃないんだぞ?おままごとなら他所でやれ」
「あぁ?誰だから知らねーが、クウを馬鹿にするってんなら容赦しねーぞ」
「上等だ、すぐにどちらが上か思い知らせてやる」
誰であろうとクウを、友達を馬鹿にされて黙っていられる訳が無い。
クウが子ども用じゃないってことをこのアホにみっちり指導してやる。
「やるぞクウ、こんな奴すぐに片付けてやる!」
「クアッ!(けちょんけちょんだ!)」
「ふん、表に出――」
「貴様ら、いい加減にしろ!」
俺とそいつが立ち上がって教室を出ようとしたその瞬間、セリーダ先生の怒号が室内に響き渡った。
頭に血が上ってすっかり忘れていたが、そういや今はまだオリエンテーション中だったな。
「私を前にしていい度胸だな。お前達、罰としてこの後ここに残って教室内を隅々まで綺麗にしてもらおうか」
「なっ、何で俺が!?」
居残り掃除なんて冗談じゃない。俺はこの後シーラと色々と話す用事があるってのに、そんなことしてる暇はないんだ。
というかそもそもの原因はこいつにあるんだから、こいつだけ残せばいいだろうが。
「いやいや、冗談じゃないって!なんで俺まで――」
「あ?まだ何か言いたいのか?」
「「い、いえ……なんでもないです」」
だがセリーダ先生に反論しようにも、彼女の放つ強烈な怒気に完全に気圧されてしまい、そのまま二人して黙り込んでしまった。
恐ろしい、今後この先生だけは絶対に怒らせてはいけないと胸に誓っておかねば。




