一章 18.五組は最底辺
ガーデニア学園入学試験が終了してから早一週間が経過した。
今日はいよいよ結果発表が貼り出されるということで、俺達は再び学園へとやって来ている。
「(クウー(結果発表楽しみだねー)」
「クウは楽しみか、俺はちょっと心配だな。筆記は散々だったし、実技も満点じゃなかったし……」
「クウ!(クウが手伝ったんだから絶対大丈夫!)」
「そうだな……ありがとうクウ、元気づけてくれて」
結果が不安で少し弱気になっていたが、クウのおかげで元気が出てきた。
例え受かってなかったとしても、クウと一緒ならどこでだって生きていけるんだから、気楽に挑めばいいさ。
「おい、受験結果貼りだされたらしいぞ!」、「あー、緊張するなー」、「俺筆記ボロボロだったから自信ねぇよー」、「私は実技がちょっと不安ね」
正門前でクウと会話をしていると、そんな声が聞こえてきた。
「おっ、いよいよ貼りだされたみたいだな。よし!行くぞクウ!」
「クアッ!」
周りの受験生達が慌ただしく動き出したので、俺達もその波に乗って結果を確認しに向かう。
到着すると、掲示板にはでかでかと受験結果が貼りだされていた。今時こんな大々的な発表方法も珍しいよな。
「えーと、俺は八四六だから……八二八、八三五、八四一……」
八百番前半から順に辿って自分の番号を血眼で探す。魔王と呼ばれるような人間になっても、やっぱりこういう場面では緊張してしまう。
「そろそろ俺の番号だな。八四六、八四六は……あ、あった!あったぞクウ!合格だ!」
「クウ〜(ほらね〜、クウの言った通りでしょ)」
「ははっ、ほんとだな。クウの言う通りだ」
ドヤ顔気味に偉そうな笑みを浮かべるクウの頭を撫でながら、俺達は合格の喜びを分かち合った。
これでひとまず最初の目的は達成だな。
「合格者は職員室前で書類を配ってるから必ず受け取るように!」
「あー合格通知とかかな。取りに行こうぜクウ」
「クウッ(うん)」
どこかから教員の指示が聞こえてきたので、俺は肩に乗るクウの喉を撫でながら職員室へ向かう。
学園はかなり広くて一人だと迷子になりそうだが、今は同じ合格者の流れが出来ているので、それに着いて行けば迷うことは無い。
「はい次の方―、受験票出してちょうだい」
「はい、八四六です」
合格者を対応してる教員は複数人いるが、俺が当たったのはおっとりとした覇気の感じられない女性教員だった。
「八四六番……うん、ちゃんと合格してるわねー。はいこれ合格通知とか諸々の書類」
「ど、どうも」
「中に入学式の日にちとかクラスの割り振りとかも入ってるから、ちゃんと読んでくるように。以上よー」
受験票と交換で受け取ったのは、書類が沢山入っているのかパンパンに膨れた封筒だった。
これ全部に目を通すのはなかなか骨が折れそうである。
「随分とあっさりしてるんだな」
「そう?私はちゃんとお祝いしてるつもりだけど」
「全然そう見えなかったけど……」
「感情が薄いってよく言われるのよ。ほら、次が使えてるからあなたはもう行きなさい」
「まぁ別にどうでもいいか。ありがとうございました」
どうやらあの先生は感情表現が苦手だったらしい。
俺の仲間にもそんな奴が一人居たから少し懐かしいな。まぁあいつは食事時だけはやたら元気になるからウザイだけだけど。
「クウ?(次はどこ行くの?)」
「そうだな、取り敢えず宿に戻って書類に一通り目を通す――」
「あっ、いたいた。おーいアカリー!」
一旦宿に戻って封筒を開けようと予定を立てたところで、突然後ろから声を掛けられる。
振り返るとそこにはマリナの姿があった。
「おーマリナか」
「結果はどうだった?って、それ持ってるってことは無事合格したみたいね。よかったよかった」
「筆記はボロボロだったから不安だったけどな」
マリナにはここまで色々と世話になってるので、俺は試験の概要を余すことなく伝えた。
なぜか彼女は終始呆れたように話を聞いていたが。
「何言ってるのよ。あの実技の結果なら合格はまず間違いないわ。白紙でも合格確定よ」
「え、そうだったの!?」
俺は結構不安だったというのに、まさか合格確定の結果だったとは。
だがそんないい結果を残した記憶はないんだが……。
「そりゃそうでしょ。実技で歴代最高得点出した受験生をなんで不合格にするのよ」
「最高?何言ってんだ、最高得点は三十点だろ?」
「はぁ…。それは最も多く取れる点数って意味で最高得点なだけ。あの試験内容で満点を取るのは実質不可能なのよ」
「まじかよ……」
マリナ言葉に衝撃を受けた俺だが、確かに冷静になって考えてみれば満点を取るなんて他の受験生が棒立ちでもしていない限り不可能だ。
そんな単純なことにも気づかないほど、俺は満点しか見てなかったらしい。
「ちなみに実際の最高点は十八点くらいだったかな」
「え、低くね?そんなの取れて当たり前の点数だろ」
「いやいや、十八点も十分凄いから。二十点越えのあなたが化け物じみてるだけよ」
「化け物は言い過ぎだろ〜。褒めたって何も出ないぞ?」
「褒めてないから」
まぁ何はともあれ、俺はきっちり合格を勝ち取れたのだから、もう試験の内容なんて忘れてしまおう。
恥ずかしい記憶は彼方へ飛ばしてしまえばいいのだ。
「それで、アカリは何組に割り当てられたの?」
「まだ書類開けてないから知らんな」
「へぇー、気になるじゃない。今開けてみてよ!」
「しょうがないな、分かったよ」
本当は宿に戻ってからゆっくりと見たかったが、マリナがいるこの場の方が色々教えて貰えそうなので、今確認することにした。
封筒を開けて何枚か書類をめくっていくと、クラス割り振りの紙を発見する。
「えーと何何……?俺は、五組みたいだな」
「え、五組!?ちょっと私にも見せて!」
「な、なんだよ、五組良くないのか?」
五組と口にした途端、マリナが血相を変えて俺から書類を奪い取った。
まさか五組は不良の溜まり場とか、そんな感じなのか?もしそうだったらダルすぎるんだが。
「ほんとに五組ね……」
「おい、さっきから何なんだよ。五組ってそんなに悪いのか?」
「一年生時のクラス分けは、一番上から推薦組と来て、次に一から五の並びで結果順に組が続くのよ。それで五組は最も能力の劣る、ほぼ補欠ギリギリの合格者が集められたクラスってわけ」
「なるほどね、じゃあ俺は最底辺のクラスに振り分けられたってことか」
マリナの説明によれば、俺はかなりギリギリの合格だったらしい。
まぁ筆記がボロボロなのは自覚してるところだから、ほぼ実技のみで合格したみたいな扱いなんだろう。
「学年が変わる毎にクラス替えはあるんだけど、それでも最低一年は五組で確定よ」
「へー、成績さえ良ければどんどん昇格していくってことか。それは面白いな」
どうやらクラスはずっと固定では無く、一年毎に更新される仕組みらしい。
「いやに冷静ね。もっと怒るかと思ったけど」
「俺をなんだと思ってんだ。下手に過大評価されるぐらいなら下に見られた方がマシなだけだよ。それに下克上ってのも燃える展開だしな」
「なるほど、確かにアカリなら下から這い上がっていくくらいが丁度いいのかもね」
「何が丁度いいのかは知らんが、そういうことにしとくよ」
最初から上にいるよりは、下から上の奴らを蹴散らして登り詰める方が断然楽しいに決まってる。
そういう意味でいえば、今回のクラス分けは俺にとって最高の結果だったな。
推薦組の実力者達と競う場面も出てくるだろうから、今から楽しみで仕方ない。
「じゃあクラスに関してはそれでいいとして、後面倒なのは制服くらいかしら」
「制服?」
「えぇ、女子用だけど私が今着てるこんな感じの正装よ。結構いい値段するんだけど……まぁアカリはもう三十万も稼いでるんだし問題無いでしょ」
まずい。三十万は数日で無くなったって言うのを忘れてた。
あんな大金を一瞬で溶かしたなんて言える訳が無い。でも、隠しきれる訳もないしな〜。
「あー、そのことなんだけど……」
「何かあったの?」
「じ、実は――」
覚悟を決めた俺はマリナに全てを打ち明けた。
三十万を数日で使い切り、その後はその場しのぎの生活を送っていたことを。
「はぁ!?三十万はもう使い切った!?」
「はい……」
「ちょっと待って。なんでそれだけの大金が一瞬で消えるわけ?もしかしてこっそりギャンブルに使ったとか?」
「い、いや!そういうのじゃない!しょ、食費とか……」
俺はギャンブルなどにだけは使っていない。そこだけは口調を強めてはっきりと伝えた。
だがその後の本当の理由がアホ過ぎて、言葉は尻すぼみになる。
「食費?冗談はやめてよ。ふざけてる場合じゃないでしょ」
「いや、本当なんだって。クウが結構食い扶持が良くて、この時代の料理の味も相まって気づいたら無くなってたんだ……」
「クウ〜(ごめんなさい)」
「面目ない」
俺とクウは二人揃ってマリナに頭を下げる。別に悪いことをしたって訳じゃないんだけど、なぜかそういう雰囲気だったからそれに従った。
「はぁ、其れはもういいわ。でもこれからどうするの?私だってそんなにお金貸せる訳じゃないわよ?」
「しゃーねぇ、また稼いでくるか」
「クウー!(また戦いだー!)」
「おう、行くぞクウ!制服代を荒稼ぎだ!」
「クウー!(やったー!)」
俺とクウは制服代を稼ぐ為に、再び魔物狩りへと出かけるのだった。
なんかこっちの世界に来てから俺、魔物狩りしかしてない気がするな。
「はぁ……、ほんとにアホね……」
後ろでマリナの呆れたような声が聞こえた気がしたが、まぁそれは気の所為だろう。




