一章 17.実技試験で挽回
試験官セリーダの合図と共に、俺は会場を全力で駆け出す。
試験会場は瓦礫が無造作に積まれた廃墟街の様なフィールドで、隠れようと思えばどこでも潜めそうだ。
受験生は全員銃を持っているのだから、こんなことをすれば目立って集中的に狙われるのは必須。だが、それこそが俺の狙いだった。
「なんだあいつ?開始早々走り回って馬鹿なヤツだ……!」
フォオン!
「おっと、一人目みーっけ!」
左前方から魔弾を確認し、俺は咄嗟にサイドステップを踏んでそれを回避する。
予想通り狙い撃ちをしてきたので、お返しとばかりに俺は先程借りた魔道兵器「セルフ」の引き金を引く。
魔道兵器の銃声は激しい爆発音とは違い、機械的な耳障りのいい音であった。
だが、残念ながら俺の放った二発の魔弾は相手に掠ることもなく、遥か彼方へと飛んで行ってしまう。
「そりゃそうだよな。銃なんて初めて撃ったんだからこんな離れた距離で当たるわけねーか」
銃撃は完全にど素人なのだから、数十メートルも離れた相手に弾など当てれるわけもない。
もちろんこうなることは分かっていたし、今のはどんなものか試すために撃っただけだ。
「クウ、力借りるぜ」
『クアッ!(うん!こっちは準備おっけーだよ!)』
俺はモンスターボックスに居るクウに呼び掛け力を授かる。
融合はしばらく封じると言ったが、別にクウに力を借りないとは言ってないからな。
ここに来る前に魔獣達から大量に魔力を貰ったとはいえそれも有限、使い続ければいつかは無くなってしまう。
だから魔力は基本的にクウに供給してもらい、貯めてある魔力はいざという時のみ使うことにしてるという訳だ。
「なっ!避けた……いや、俺が外したのか。なら、もういっぱ――」
「ほい、お疲れさん」
俺を撃ってきた奴が二発目を撃とうとしてきたが、それよりも早く俺はそいつの背後に回り込みケツに思い切り蹴りをぶち込む。
その瞬間そいつのサクリファイスタンクが起動し、身代わりが一瞬にして砕け散った。
呆気なく一点獲得だ。
「魔力で身体能力を向上させれば、魔弾程度なら簡単に見切れるな」
一人目で躓くようなら融合も視野に入れていたが、この程度の攻撃ならクウに魔力を供給してもらうだけで十分対応出来る。
「くそぉ、俺が負けるなんて……」
「相手が悪かっただけだ。すぐにお仲間を後二十八人程用意しておくから気にすんな」
「はぁ……?」
俺に負けた受験生は何を言ってるんだという顔をしているが、いつまでも脱落したこいつに付き合ってる暇はない。
それだけ言葉を残して俺は次の獲物を探して走り出す。
フォオン!フォオン!フォオン!
その後も俺はフィールドを走り続け、敵を見つけては一撃で仕留めるを繰り返し、早くも六人目を撃破した。
だが、だんだんと他の場所でも銃撃音が鳴り始めてきている。
「まずいな、このままじゃ俺が倒す前に誰かやられちまうぞ」
『クウ?(アカリどうするの?)』
「……よし、クウもう一つ手伝ってくれ!」
『クアッ!(うん!)』
クウは伝説の竜であるが故に、俺と出会う前はよく人間に狙われていた。そんな生活をしてきた影響か、敵意に対してはどんな魔獣よりも敏感で、非常に鋭い勘を持っている。
なのでクウにその勘で敵を見つけてもらい、俺がそこへ向かって仕留めるという作戦に切替える。
「よし、そんじゃ再開だ。まずは銃撃音がする所を重点的に狙っていくぞ!」
『クウー!(任せて!)』
クウと手早く打ち合わせを済ませた俺は、再びフィールドを全速力で走り出す。
当然そんなことをしていれば俺を狙う受験生は続出するが、クウが味方にいる俺は最早相手が引き金を引いた時には至近距離まで迫って反撃を加えていた。
「な、え……?」、「ど、どうなってるの……!?」、「は?なんでサクリファイスタンクが起動してんだよ!?」
俺に敗れた受験生は、なぜ負けたのかも分かっていなかった。
次々と脱落していく受験生を後目に、俺は更なる獲物を求めてまた走り出す。
「はーっはっはっは!こうなったらもう俺達の独壇場だ!」
『クアッ!(アカリ、右で四人くらい戦ってるよ!)』
「りょーかい!まとめて蹴散らしてやるぜ!」
高らかに笑い声を上げながら、俺はクウの指示に従って更に受験生を狩っていく。
「あ、あと三人……、本当にずるいやらつらですね……!」
「ははは!共闘がダメだなんてルールは無いからな!」
「そうそう、お前もとっととやられちまえよ!」
「早く諦め――」
「もーらいっ!」
魔力を全身に纏っている影響で聴覚も強化されている為、変な会話が聞こえてきたがそんなものは無視だ。
取り敢えず三人纏まってて倒しやすそうな方から攻める。
「ジョニー!?な、なんだお前!どこから現れ――」
「ほい二人目」
仲間がやられて叫び散らしてる奴を仕留める。目の前で叫びだしてうるさかったからな。
「き、貴様よくもダニエルを――」
「お前らさっきからうっさいわ!」
さっきから耳元でピーチクパーチクと、文句ばかりで鬱陶しい奴らだ。今は試験中だぞ?油断してるお前らが悪いんだよ。
「あ、ありがとう、ございます。助けてくれて……」
「あ?」
うるさい三人を沈めた直後、狙われていたもう一人の方がなんか話しかけてきた。
こいつも試験中だってのに随分と余裕だな。こっちは満点狙ってんだから、のんびりしてる暇はねーんだよ。
「私は――」
「悪いが時間が惜しいんで、とっととやられろ」
なんか名乗り出しそうな雰囲気を醸し出してきてたので、長くなりそうだから速攻で片付けた。
『クウ!(アカリ、あっちにもまだ居るよ!)』
「よしっ、次の獲物だ!じゃんじゃん行くぞー!」
変な奴に話し掛けられて時間を取られてしまったが、気を取り直して試験続行だ。
そうして、その後も俺はクウの指示通り動いて受験生を見つけては狩る、見つけては狩るを繰り返す。
至近距離まで接近したお陰で魔弾も当てれるようになってきたが、殴った方が強いので後半は「セルフ」は鈍器として扱ってしまっていたが。
こんな使い方をおっさんに見られたら叱られそうだな。
――
「第五会場、実技試験終了!」
「おっ、こいつが最後の一人だったのか……」
その後も会場を目まぐるしく走り回り、隠れていた一人を引きずり出して仕留めまところで試験は終了となった。
大方時間切れで生存点獲得を狙ってたんだろうが、俺達を相手に逃げ切れると思うなよ。
「実技試験結果を発表する。結果は……一位、アカリ・リーシャン。獲得点数は二八点だ」
「は?二八……?」
「第二位に二点獲得で――」
試験官のセリーダが試験の総評を続けるが、俺の耳に彼女の言葉は入ってこなかった。
満点を狙っていたというのに、二人も取りこぼしてしまっていたなどと、納得出来るわけが無い。
「う、うわあぁー!二点逃したあぁー!」
「な、なんだ!?どうしたリーシャン!?」
ショックに思わず声を上げて、膝から崩れ落ちてしまった。
筆記試験は散々でその上実技試験は満点を取り損なうなんて、これはもうダメかもしれない。
〜マリナ視点〜
セリーダ先生より少し離れた所で試験の経過とその後を眺めていた私は、改めてアカリの実力の規格外さに驚きを通り越し呆れ果てていた。
「ねぇマリナ、あれがあんたが連れて来た魔王なの?」
「えぇ、ほんとに何してるんだか……」
隣で一緒に見ていたセルシーも、アカリの強さにのまれたのか普段の調子を崩してるみたいね。
「もしかして彼、結構頭悪い……?」
「もしかしなくても頭は悪いわね」
「そっかー……」
突然絶叫して悔しがりだしたアカリの姿を前に、セルシーはあっさりとアカリの本性を見抜いてしまった。
まぁ隠せるものでもないし問題は無いでしょ。
「セリーダ先生もあんな奴に振り回されて大変そうね」
「そう思うなら助けに行きなよ」
「それはいや、絶対めんどくさい」
「マリナが連れて来たんだから責任持ちなさいよね……」
セルシーは私にアカリを押し付けたいみたいだけど、それは絶対にいや。明らかに面倒事しか起きない未来が見えるわ。
彼が入学したら、なるべく関わらないようにした方がいいかもしれないわね。知識なら学園に居れば嫌でも身に付くだろうし。
「それにしても、まさかこの実技試験で歴代最高得点を出しておきながら落ち込むなんて、ほんとに変なやつよ」
「ほんとに、しかもぶっちぎりだものね。確かこれまでの最高が十八点くらいだったかしら?」
「ま、まぁ、私だって試験を受けてればそれくらい越えられるけどね!」
「何対抗してんのよ……」
確かにアカリの記録を越えられる自信は正直無いけど、それでも私だって試験を受ければ最高得点くらい取れたはずよ。
まさか推薦組だったことを恨む日が来るとは思わなかったわ。
いや、だとしたら記録を越えられるのは私になってたから、むしろ良かったのかしら?
……これ以上は気にしない方が良さそうね。
「あ、アカリ君やっと立ち直ってきたみたいよ」
「見つかると面倒だしそろそろ行きましょ」
「そんなに嫌なんだ……」
「絡まれて目立つのが嫌なだけよ」
ともかく試験も最後まで見届けたので、これ以上ここにいる意味はない。あの結果ならまず合格は確定だろうし心配はいらなそうね。




