五章 35.全力の衝突
シンリーが無策で突撃してしまったので、その攻撃を援護する為に俺達も走り出す。
メルトの攻撃は基本魔石を形状変化させて、腕を強化したり大地を通して遠隔攻撃を仕掛けてくるものだ。そしてそれは刃物のように鋭利にすることも可能な為、基本植物体であるシンリーとは非常に相性が悪い。
であるならば、俺達のすべきことはその攻撃がシンリーに届かない様防御することであり、攻めは全て彼女に一任する。機動性の低いシンリーでも、俺達の援護があれば攻撃するための時間を稼ぐのは容易だ。
「また貴様か植物人間、懲りないやつだ。そんなに虐められるのが好きなら、何度でも細切れにしてやろう!」
「んなことはさせねーよ!」
「ありがとうダーリン!このまま捻り潰してあげるわ!」
攻め込んでくるシンリーに対し、予想通りメルトは刃物をもってその攻撃を返そうとしてきた。だがその動きは完全に読めている為、空間魔法で回避させ妨害する。
そしてメルトに生まれた隙を逃さず、シンリーが渾身の木槌を叩き込んだ。
「ぐくっ、こいつら連携してきやがったか……!二人揃うと面倒だな」
シンリーと協力することで、ようやくメルトにきつい一撃をお見舞出来た。このまま攻めきって、一気に奴らを撤退まで追い込んでやる。
「メルトは聖獣の方に集中しろ!そっちの植物の方は俺達で何とかする!」
「っ!ああ、任せるぞキャスマン」
「おうよ!お前の弱点はもう割れてんだ。仲間達が痛めつけられた分存分に仕返してやるぜぇ!」
「ちょっと邪魔よあんた達!これじゃあいつを倒せないじゃないの!」
だが奴らも団体で来ている為、当然俺達を自由に連携などさせてはくれない。俺達の動きを見るやいなや、それに対処する為早速分担策を取ってきた。敵の大半はシンリーを包囲するように陣形をとり動きを封じ、俺とメルトを一騎打ちさせたいようだ。
だがこの展開は俺達も望むところである。さっきは奴らの連携に翻弄され追い込まれたが、メルトとのタイマンなら以前勝利したこともある故に不安要素はずっと少ない。
それにここで敵の親玉を倒せれば、奴らも撤退せざるを得ないだろう。だから何としてもここは勝たなければならないのだ。
「シンリーそっちは任せるぞ!メルトは俺が倒しておくから!」
「生意気だな……、前回たまたま勝てたからって調子に乗るなよ!」
「へっ、また地べたを這いずらせてやるよ!」
俺の挑発にメルトは乗っかり、上手いこと釣れた。これで完全に俺達の戦況は二分されたことになる。
口ではああ言ったが、正直今のメルトは前回と比べて格段に強くなっている為、勝てる見込みは薄いだろう。だがそれでも俺は負ける訳にはいかないのだから、どんな手を使っても奴らをこの森から退けてみせる。
「貴様らの空間を操作する力は確かに脅威だ。だが、それもさっきの植物人間と同じく、圧倒的な速さの前には無力でしかない!」
『ク、クウゥ……!(アカリ、あの人速くて全然止められないよ……!)』
「ぐふっ!あ、ああ、分かってる。どうにか動きを止めないと……!」
メルトは己の速度を活かして森の木々を縦横無尽に跳び移り、俺達に変幻自在の攻撃を仕掛けてくる。クウが何度もその動きをワープホールで捉えようとしたのだが、奴はそれが発動しきるよりも速く察知し回避してしまう為、空間魔法で動きを止めることさえ困難であった。
クウの空間魔法による緊急回避が封じられたとなると、こちらのアドバンテージの大半が奪われたことになる。それはすなわち、非常に最悪な状況ということだ。
「ふはははっ!どうやら今回地に伏すのは貴様のようだな!」
「ぐっ、つ、強い……!でも、負ける訳には、いかないんだ……!」
メルトの実力は本物だ。俺がのんびりと奴の対策を練っている間にも、その期間奴は俺との戦闘を想定して鍛錬を重ねてきたのだろう。そしてクウのワープホールに対する対処も早い。恐らくはメルトの仲間にいる、クウと似たような力を使える奴に協力してもらったってところか。
きっちりと俺達との戦闘に備えていたメルトの実力は、今の俺達より強いのかもしれない。
「でもなぁ、俺だって別に今日まで遊んできた訳じゃないんだ。こっちだってお前との戦いを考えてちゃんと鍛えてきたんだよ……。それに対策だって考えてある、だから条件は対等だ!」
「ならその貴様の下らない足掻きも含めて、全てを俺が打ち砕く!」
敵ながらメルトの努力は賞賛に値する。だが、それは俺だって同じことだ。こっちも日々メルトとの再戦を意識して鍛錬に励み、奴の魔石対策を思案しながら模擬戦を重ねてきた。そしてその成果を今見せる時が、今来たということだ。
「クウ、空間魔法は一旦止めだ!今の奴には速度が足りなくて通用しない!」
『クウッ!?(でもそれだとあいつ止めれないよ!?)』
「余った魔力を魔力操作で全て肉体強化に回す。それで奴の近接戦に真っ向から勝負だ!」
空間魔法は今の奴には一切効果が無い。ならば燃費の悪い能力に貴重な魔力を割くよりも、その魔力を身体能力強化に回して奴に真っ向からぶつかった方がまだ効果はある筈だ。
そう判断した俺は、一旦クウからのアシストを受けるのを止め、攻めるために全ての魔力を注ぎ込む。
「むっ、動きが変わったな。小細工は止めて正面から俺とぶつかり合うということか」
「そうだ、これなら俺とお前は対等だろ!」
「馬鹿が、ただ魔力を纏っている程度の貴様が俺の魔石に打ち勝てると思うなよ……!」
空間魔法を止め身体能力を極限まで向上させた俺は、最短距離を超高速で突き進みメルトに殴り掛かった。モンスターガントレットの拳とメルトの魔石の左腕が衝突し、周囲に激しい爆風が吹き荒れる。
ビキビキッ!
そして、俺の拳がメルトの魔石強度に打ち勝ち、奴の腕に亀裂を走らせた。
「なっ!ば、馬鹿な、俺の魔石が強度で負けただと……!?」
「魔力操作を甘く見るなよ。うちの仲間にはたったそれだけで勇者一族内を登りつめた猛者がいるんだぜ。そして俺は、一応そいつの師匠ってことになってるからな。俺もそれなりだってところを見せてやる!」
セロルは己の魔力量の少なさを補う為に、魔力を節約し一瞬の攻撃に全力を注ぐ戦い方を身に付けた。そしてその戦い方を教えて共に鍛錬を積んできた俺だって、セロル程とはいかないまでも魔力操作はかなりの域にまで達していると自負している。
だから俺はまず、メルトに接近する初速を稼ぐために足に魔力の全てを注ぎ込み、その速度に乗った上でメルトと衝突する際拳に全魔力を費やし、渾身の一撃で奴の魔石を砕いたのだ。
「魔力の一点集中か。それがここまで化けるとは、やっぱり貴様は変わった奴だな……。だが、負けられないのはこちらも同じだ!」
「ちっ、完全には砕ききれなかったか……、なら何度でも拳を叩き込んでやる!」
だが残念ながら、俺の渾身の一撃をもってしても奴の左腕を完全に破壊するには至らなかった。そしてそれは奴の反撃を許すことになり、メルトはひび割れた左腕を豪快に振るい接近した俺にカウンターを仕掛けてくる。
俺はそれをギリギリで回避するのだが、クウのアシストを切った影響で完全に避けきることは出来ず、少しずつかすり傷が増えていく。だが俺だってただ攻められるだけで終わりはしない。その間もひたすら魔石に攻撃を繰り返し、奴の左腕のヒビを少しずつ大きくさせていった。
「こいつ、俺の腕をまた……!このっ、やられるかよおぉぉぉ!」
「うぉらァァァァ!」
俺とメルトは魂の芯から叫びぶつかり、互いの拳が衝突する度に火花が辺りを熱く照らす。
こうして俺とメルトは、もはや小細工は全て捨て、真っ向から殴り合うのだった。




