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五章 32.魔人対人型魔物

 ガゼルに頼んで俺は森に火を放った。その目的は、森の魔人シンリーをこの場所に呼び出す為だ。しかし、緊急時だったたとはいえ彼女が大切にしていた森を燃やしてしまったことで、俺は強い罪悪感に襲われている。


「ごめんシンリー、お前を呼ぶ為に森を燃やしちまった……」

「ふーん、まぁ見たところ緊急時だったみたいだし、今回だけは大目に見てあげるわ。他ならぬダーリンからの呼び出しだしねっ」

「ありがとう」


 森を燃やされたことにシンリーは当然怒っていたが、それでも彼女は現状の戦闘状態を見て致し方ないものであったのだと納得してくれた。心が広くて助かる。


「でもこれ以上火の手が広がるのはごめんだし、消火はさせてもらうわよ!」


 森を燃やしたことは許してくれたが、それでも未だに燃え続ける木々を見過ごすことは出来ないと彼女はそう言いつつ、消火活動を開始する。実際火はもう必要ないので、それは願ってもない要望だ。

 シンリーは茎の内部に大量の水分が流れている特殊な植物を無数に生やし、それらの先端を切りホースのようにして火元に次々と水をかけていった。その結果先程まで辺り一面真っ赤に広がっていた炎が、今は黒い煙を残すのみであっという間に火の手を抑え終える。


「さてと、それじゃあこのまま私の森に不法侵入してきた不届き者共の排除もしちゃいましょうか!」

「何だこの生意気な小娘は?」

「誰が小娘よ誰が!言っとくけど、私から見ればあんた達の方がよっぽど子供だからね!」


 森の消火を完了させたシンリーは、そのままの勢いでメルト達を次の標的に定めた。対するメルトは、突然現れた幼女が偉そうな態度を取っているのが不可解らしく解せない様な顔をしている。だがその発言は迂闊だったな、シンリーを幼女扱いしてしまっては、もうタダでは済まないぞ。


「メルト気をつけて、あの子見た目は幼いけどかなりの量の魔力を内包している」

「ああ、気づいてるよ。見た目に反して中身には相当な化け物を宿してるみたいだな。こいつと似た奴と、いつぞやの襲撃時にも手合わせした覚えがある」


 シンリーは見た目は幼いが、内に秘める力の危険性を察知したらしく、メルト達は警戒心を強めだした。

 メルトの仲間の女性の耳打ちに答えてる内容は、恐らく以前の区長誘拐時のことを言っているのだろう。あの時は、護衛についていた泥の魔人ドロシーが戦闘に参加していたからな。


「こんな朝早くから何の用か知らないけど、人間は嫌いだからとっとと出ていってちょうだい!」

「貴様に言われるまでもない。目的を果たしたらそのつもりだ!」


 無駄話は終わりとばかりにシンリーが片腕を巨大な木の槌に変え振り下ろすが、それに対抗する様にメルトも左腕の魔石を増幅し、盾の形に変化させて防御してくる。

 シンリーの木槌とメルトの魔石盾が衝突し、森全体を揺るがしそうな程の衝突音と衝撃が響き渡った。


「……あなたのその力、うちの連中に似てるわね。あなた達一体何者なの?」

「ふん、貴様に素性を明かす筋合いは無い!俺達の目的の邪魔をするな!」

「言いたくないなら別にいいわよ。腕ずくで無理やり吐き出させてあげるから!」


 メルトの戦闘スタイルを見たシンリーは、それが村の連中と酷似していることに気がついた。

 そう、メルト達と村の連中は体の一部となっている魔石を操って戦うという、全く同じ戦い方をしているのである。だからこそ俺は最初この森で村の連中に遭遇した時、皆を人型の魔物と勘違いしてしまったのだ。


「この嬢ちゃん相当強いな。加勢するぜメルト!」

「えぇ、全員で掛かればすぐに方はつく!」

「ああもう、数が多くて鬱陶しいわ!」


 メルトとシンリーの攻防を一目見た奴らの仲間は、両者の実力が拮抗していることにすぐに気づき、素早く加勢してくる。

 いくらシンリーと言えども、これほどの実力者を相手に一対多はさすがに分が悪いか。だが今の俺がシンリーの援護をしたところで、実力差が開きすぎている為下手すれば彼女の戦いの邪魔かしない結果に終わる。


「くそっ!今の俺じゃ足でまといにしかならないのか……!」

「アカリ、お前はすぐにクウを連れ戻して来い。居場所は分かっているんだからな」

「で、でもそれじゃ――」

「いいから行け!肉体強化しか出来ないお前に比べたら、炎を吐ける俺がこの場にいた方がまだ役に立つ。だからとっとと役に立つ体になって来い!」


 どうすることも出来ず手をこまねいていると、ガゼルが俺にクウを連れて来るよう言ってきた。

 しかし無理やりシンリーを呼び出しておいて当の本人は逃げ出すということに抵抗がある。だが、今の俺じゃいてもいなくても変わらないことはガゼルも見抜いていたらしく、とっとと行けと諭してくる。


「……ああ、分かったよ。ならここは任せたぞガゼル」


 ガゼルの言う通り今の俺じゃ何の役にも立ちはしない。なら役に立てる様に一秒でも早くクウと合流することが、今の俺に出来る最善手だ。

 その覚悟を決めた俺は、仲間達を戦場に残して一人川の上流を目指して走り出す。











 ――




 







 アカリが去った後、ガゼルもまた覚悟を決めるとメルト達に向き直った。今の彼では敵との実力差は歴然であり、どう足掻いても戦えば数分ともたず決着がつく。そのことを理解しているガゼルは死の恐怖に足を小さく震わせつつも、しかし友との約束を果たす為敵へ攻撃を開始した。


「遠距離からの攻撃なら、俺にもまだ勝機はあるはずだ!」

「ちっ、またあの炎か。大した火力でも無いくせに鬱陶しいな」


 シンリーの戦闘を援護するようにガゼルの右手から放たれた炎に、メルトは煩わしく顔をしかめる。威力はそこまで高くはないが、範囲が広い為彼らの攻め方を限定されるのが厄介であった。


「あれは私がやるから、メルトはあの子供との戦闘に集中して」

「ああ、任せるぞトリーラ」


 面倒な炎の対処方法にメルトが悩んでいると、彼の仲間である女性のトリーラが名乗りを上げた。それを聞いた途端、メルトはもう炎のことなど一切考えず、一直線にシンリーへと向かいだす。その進路上には未だ赤く燃える炎があるのだが、そんなことはお構い無しにだ。

 それこそが、どうにかすると言った仲間のトリーラを信頼している証である。


「面倒な炎も当たらなければ意味は無い。自分の炎に焼かれるがいいわ」

「ん?何だこの魔石は――なっ!何故俺の炎がここから……!?」


 トリーラはガゼルの放つ炎の前に躍り出ると両手から桃色の魔石鏡を作り出し、その鏡でガゼルの炎を易々と受け止める。

 そして受け止める鏡とは別にガゼルの真横にもう一つ桃色に輝く鏡を出現させると、何とそこからガゼルの炎が噴射されたのだ。

 そう、トリーラの作り出す鏡はクウの空間魔法と似た効果を持っており、入口と出口の鏡を作り出すことで写した物体を出口から反射させるという効果を持っていた。そしてガゼルは真横から噴き出す己の炎に襲われたという訳だ。


「ちょっ、大丈夫なのあなた!?」

「人の心配をしてる暇は無いぞ。次は貴様だ植物人間!」

「ぐっ、あおもう!刃物は苦手なのにー!」


 自分の炎に焼かれるガゼルを心配してシンリーが声を上げるも、そんな余裕は無いとばかりにメルトが魔石の剣を作り出し襲い掛かった。シンリーもそれに対抗する為手足を無数のツルに変化させてなぎ払おうと試みるのだが、それらは全てメルトの魔石剣によって斬り捌かれる。


「お前の相手はメルトだけじゃないぜ!」

「きゃあぁっ!くぅ……こいつら、数が多い上に個々の戦闘力が高い……!」


 メルトがツルを落として切り開いた道を使って、仲間のキャスマンが魔石で硬化させた拳を振るいシンリーを殴り飛ばす。

 メルトとその仲間達は、この世界に暮らしている人間達とは桁違いに戦闘力が高かった。シンリーもある程度の実力者相手なら、束になって掛かってこられても対処は可能である。それはガゼル達と戦っていた時の結果が証明していた。

 そして、メルト達の実力はそんなシンリーをもってしても手を焼くほどに、段違いの強さを有していたのだ。


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