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五章 30.最悪な朝

累計200話目!!

 眩しい朝日が森の草木の隙間から漏れだし、村の中を優しく照らす。非常に穏やかな、そんな朝だ。

 しかしそんな爽やかな早朝に似合わないほどに、俺の顔はやつれ疲労感が浮き出ていた。その原因は、つい先程まで俺の隣で安らかに眠っていたあの魔人のせいである。


「くそっ、行動を共にしていいとは言ったけど、寝る時まで一緒でいいとは言ってねーぞ……!」


 強烈な眠気が俺の脳を強く刺激し揺れる視界に顔を歪めながら、今は居なくなっているシンリーに向けて俺は毒を吐く。

 そう、昨夜シンリーは俺と離れない為に寝る時まで一緒にいると言い出したのだ。俺も当然最初はそれを断っていたのだが、散々逃げ回った挙句最後には「私のことが嫌いになったの……?」と泣き出してしまう始末である。別にあいつが泣いているくらいなら、そんなの無視してその場を去ればいいだけの話なのだが、厄介なのはここがあいつの作った村だったということだ。

 この場所でシンリーが泣くということは、それは村史上最大級の問題であり、当然それを引き起こした俺は言及されてしまう。結果村人達に、まるで世紀の大罪人のように扱われ追い詰められた俺は、やむ無く彼女の望みを飲むこととなった。


「いくらシンリーが昔馴染みの仲だからって、あんな至近距離に一緒にいて寝られるわけ無いだろうが!」


 最終的に俺はシンリーと一緒に寝ることとなったのだが一応は俺も年頃の男子なわけで、真横に女性がいるという状況でまともに寝られるわけがなかった。相手は昔からの知り合いの筈なのだが、久しぶりの再会ということもあって妙に意識してしまい、結局寝付けないまま朝を迎えてしまった訳だ。


「クウ?クアァー!(あれっ?アカリ起きるの早いねー!)」

「ああ、おはようクウ。俺は別に早起きなんじゃ無くて、単に寝れてないだけだから安心してくれ」


 何を安心すればいいのか分からないが、クウに文句を言い散らしても仕方がない。

 今はもうシンリーは居なくなっているが、こんな清々しい朝の木漏れ日に照らされる中、眠りにつこうとも思えないので、仕方なく俺はクウを抱き上げると頭の上に乗せて寝室をお暇した。

 ちなみにシンリー自身は朝日が昇る前から既に出掛けており、恐らく行先は昨日ミュレインが話していた実験で亡くなってしまった人達の墓参りだろう。俺も着いていこうとしたが、それだけはダメと拒否されてしまったからな。


「さてと、今日も一日頑張りますかー」

 クウー(クウはお腹すいたよー)」

「はは、相変わらず凄い食欲だな。よっし、それじゃあ皆が起きてくる前に軽く狩でもして、さくっと朝飯を用意するか!」

「クアッ!(やったーご飯だ!)」


 昨晩は村の人達に豪勢な夕食をご馳走してもらったから、そのお礼も兼ねて朝食は俺が用意することにした。調理器具ならラリヤに沢山運んでもらっていた旅の道具に入っているし、この自然豊かな森ならいい獣肉や山菜が手に入るだろう。さすがはシンリーが管理しているだけあって、森の環境はトップクラスだからな。


「クウは何が食べたい?」

「クウー!(今は魚の気分―!)」

「了解だ、ならクウ川で魚を採ってきてくれ。俺はその近くで食べれそうな野草でも探してみるよ」

「クアッ!(任せてよ!)」


 どうやらクウは今朝は魚をご所望らしいので、魚の確保はクウに任せ俺はその近辺で食べられそうな野草を探すことにする。俺が魚をとろうとすると、体質の影響でえぐい程に寄ってきてしまうからな。

 自分の体質が影響で集まった動物達を食べるのは、俺の主義に反する為狩りはクウに任せている。


「待てアカリ、こんな朝早くからどこへ行くつもりだ?」

「ん?おおガゼルか、こんな時間に会うなんてお前も早起きだなー」


 朝食のメニューも決まったので早速出発しようとした直後、なんとガゼルに呼び止められてしまった。まさかこんな早朝にガゼルが起きていたとは驚きである。


「そんなことはどうでもいい!それより貴様会ったら言いたいことがあったんだ!少し付き合ってもらうぞ」

「お、おう、何だよそんなに怒って……」


 俺は朝早くから出会った仲間に軽い気持ちで挨拶したのだが、どうやらガゼルはそんな気分では無いらしい。何やら俺に対して随分と怒っている様子だ。


「貴様ら、昨日の夜村の料理を大量に空間魔法で移動させただろ!」

「え?あ、ああ、なんだそのことか」

「そのことかだと?あの後村の人達を抑えるのかどれだけ大変だったと思ってるんだ!全員敵襲と勘違いして臨戦態勢に入って、あわや大惨事を引き起こすところだったんだぞ!」

「な、なるほど、それをガゼルが止めてくれた訳か。苦労かけたみたいだな……」


 ガゼルがこんなにも怒っている理由は、昨日料理を大量にワープさせたからだった。やはりあれだけの量が突然消えたとなると問題になってしまったらしく、それを収める為にガゼル達が頑張ってくれたらしい。


「まったく、何故あんなことをしたんだ!」

「いやぁーちょっとお腹が空いて、でも村に戻ったら酷い目に合うから料理からこっちに来てもらおうってなってね」

「その安易な発想のせいで俺達はあんなにも苦しめられたのか……!」

「あはは、本当にごめん。でも止めてくれてありがとうな」


 料理の件はガゼル達に丸投げしてしまったので、その処理に関しては本当に申し訳ないと思っている。でも現状何も問題は起きていないということは、彼らが上手く収束させてくれたのだろう。さすがは俺の頼れる仲間達だ。

 でも本当にしんどそうな顔してるから、今後こういうことは起きないように気をつけよう。


「はぁ……もう言いたいことは言えたからこの件は終わりでいい。で、アカリはこれから何をするつもりだ?まさかまた厄介事を招くつもりじゃ――」

「いやいや違うって!俺達はこれから朝食の狩りに出掛けるんだよ。昨日の夕飯は村の人達の世話になったから、そのお礼も兼ねてな」


 ガゼルも怒鳴ってある程度は怒りが治まったらしく、普段通りの落ち着きを取り戻しだした。だが直近のことがあったせいで、俺が何かしようとするとかなり疑ってかかって来ているみたいだが。


「ふむ、朝食か。確かにここの奴らには泊めてもらっている恩もあるし、俺も何か協力したい。同行していいか?」

「もちろんだよ。それじゃあ一緒に狩りへ出発だー!」

「クウー!」


 ガゼルもこの村には恩を感じている為お礼をしたかったらしく、俺の朝食採取に協力してくれることとなった。そうして男二人とクウとで、早朝の狩りに出掛けることとなる。

 なんだかんだで仲間達と狩りに行ったことは無かったので、ちょっとだけ楽しみだ。










 ――










 ガゼルと合流した俺達は現在、森をしばらく歩いて小川までやってきた。この川を少し上ればそれなりの大河に合流するみたいだ。


「よしっ、それじゃあクウは川を上った先の大河で魚狩りを任せる。んで俺とガゼルはその間にこの近辺で山菜採りだ」

「クウー!(分かった、行ってくるー!)」

「了解だ」


 クウとガゼルの役割を分担し、早速俺達は朝食採取を始める。と言ってもメインはクウが軽々と集めてきてくれるだろうから、俺とガゼルは気ままな山菜採りだ。

 クウが大河へ飛び立つのを見送った後、俺とガゼルは山菜の採取を開始する。


 だが、俺達が採取を初めてから数分もしないうちに、事件は起こった。


「よぉ、久しぶりだな。確か名前は……アカリだったか?」

「なっ、お、お前達は……!」


 のんびり山菜採りをしている俺達の前に現れたのは、かつて剣舞会で区長とその娘を誘拐し、開催した街に惨事を巻き起こした、あの人型魔物の一団であった。


「あいつらはアカリの知り合いか?あまりいい仲には見えないが」

「はは、まぁ知り合いっちゃ知り合いだな。前に話しただろ、人型魔物のこと。あいつらがその一団だよ……」

「なっ、何だと!?ということは、剣舞会で騒動を巻き起こしたのも……!」

「ああ、目の前のこいつらが犯人だ。そしてその先頭に立っているのが、俺とほぼ互角で渡り合った連中の親玉、メルトだ」


 突然目の前に現れた連中に困惑するガゼルだったが、それが誰かと伝えると困惑から焦りへと表情を変える。

 こいつらは俺がクウと融合し本気で戦ってようやく勝てる程の強者だ。そんな奴が仲間を引き連れて俺達の前に現れたというこの状況は、はっきり言って最悪の展開以外のなにものでもない。


「クウも居なければ魔道兵器もない、正に万事休すだな。さて、ここからどうするか……」


 敵は最大戦力で現れたのに対し、こちらはただの山菜採りの為武器の一つも持っていない。圧倒的な戦力差を前にしては、もはや笑うしかなかった。


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