五章 25.修羅の会
アカリを逃したシンリーは、その後セロルの誘いを受けて女性陣で一つのテーブルを囲む様に座った。その場の話題は当然アカリに関するものであり、彼が封印から解放されてからの行動内容がメインテーマである。
「はぁ、何で私がこの会に参加しなきゃいけないのよ」
「全く同感だ。特に私はあの男とは大した面識は無いはずだが、なぜ呼ばれたのか疑問でしかない」
女性陣が顔を並べる中最初に口を開いたのは、この場に無理やり連れ出されたマリナとラリヤである。彼女達はのんびり村の宴会を楽しんでいたところをセロルに見つかり、強引に連行されたのだ。
マリナはアカリを復活させた張本人でもありその付き合いも長い為、この会に呼ばれるのは必然である。だが、アカリとの関わりが非常に薄いラリヤは、主の警護もほっぽり出して面倒事に関わることに、やたら不満げであった。
「あんたは私が呼んだのよ。聞けばあんたはダーリンのメイドをしているらしいじゃない?そんな怪しい関係の女を野放しになんて出来ないから、せっかくだし連れて来てもらったってわけ」
「わ、私は別に望んで奴の召使いになった訳では無い!これは主様の顔に泥を塗ってしまった己への罰で……」
「はいはい、その辺の言い訳も纏めて聞いてあげるから、今は大人しくしてなさい」
未だに納得出来ないラリヤだったが、そんな彼女を呼び出したのはシンリーであった。どこかでラリヤがアカリのメイドをしていると聞きつけた粘着質な魔人は、邪魔者になるかどうかを見極める為に無理やり連れてこさせたのである。
「ぐっ、本当はこんなことをしている場合では無いと言うのに……!」
「まぁまぁラリヤさん、私達もいるのですからお仕事をサボったことなどにはさせませんので。ここはどうかご協力をお願いします」
「そーだよー、ラリヤも一緒にお話しよー!」
「お嬢様方まで……承知致しました。主様の大切な御方をお守りするのも私の務め、であればその責務全うしてみせます」
どうにも納得出来ない様子のラリヤであったが、主であるプラチウムの娘二人の説得もあり、ようやくこの場に腰を下ろす覚悟を決める。
もしシンリーが実力行使に出た際には、カーリスとルトリィを守るのが己の責任だと言わんばかりに、先程までの嫌々な態度とは一転しこの場の誰よりも気を張って集中し、この会に望むのだった。
「さて、それじゃあ役者も揃ったことだし早速始めましょうか。ダーリンが復活してからのあれやこれやの報告会を」
「仕方ないわね、じゃあまずは封印を解いた私から。魔人のシンリーなら知ってると思うけど、アカリは街一番の巨大な教会の中で封印された状態で祀られていたのよ。そしてその時の封印の結晶を私が魔力解放で砕いて、封印からも解き放ったんだわ」
シンリーの仕切りで、いよいよアカリに関する情報の交換会という建前の、己の関わりの経験を語る自慢会が幕を開けた。
そして最初に口火を切ったのは、当然封印を解いた張本人であるマリナだ。
「今更なんですけど、何で義姉さんは兄貴の封印を解いたんですか?」
「この世界の危機を救う手助けをしてもらうためよ。初代勇者マリス様の残した日記によると、アカリは勇者伝説に語られている様な極悪人ではなく、人や魔獣の為に己を犠牲にしようとする人格者って記されてあったの。それを読んだ私はあいつに賭けようと思って」
セロルに今更ながらの疑問をぶつけられたマリナは、ちょうど一年ほど前実家で発見したマリスの日記に書かれていたアカリのことを語った。そしてそんな人物なら世界を救う鍵になると判断し、封印を解いたことまで。
「ふん、自分達の世界の不始末をダーリンに任せるなんて、本当に手に負えない連中ね」
「人任せにしてるのは申し訳ないと思ってるけど、でもアカリの封印は私が解いたんだから、そこは感謝してくれてもいいんじゃないかな?」
「はぁ?感謝?誰がそんなことするもんですか。それを言うならダーリンを封印したのはあの憎い勇者なんだから、その尻拭いを子孫がするのはむしろ当然のことよ!」
「ちょっ、二人とも落ち着いて。今そこの議論をしてたら話が一向に進まなくなるからさ、今は誰が悪いかは置いておこうよ……!」
アカリを利用しようとする発現が癪に障ったのか、シンリーはマリナに噛み付いてきた。そして再び両者はどちらが悪いのかという論争になるのだが、今そこを言い争っても何の解決にもならないだろうと、間にセロルが入ることでどうにか中断させる。
「ちっ、分かったわよ。その話は聞かなかったことにしてあげるから続けなさい」
「しょうがないわね。それでまぁ私はアカリにそういうお願いをしたんだけど、何せあいつの知識は四百年前で止まってるから、まずはそこをどうにかしなきゃと思ったのよ」
「あっ、それで兄貴を学園に入学させたってこと?」
「そうよ、学園なら世情も学べるしその上で私もいるから監視も楽だしで一石二鳥だったってわけ。でも実際には私の監視なんか無意味な程に、あいつは好き放題やってたけど……」
セロルの仲裁のおかげで渋々納得した両者は、再び報告を再開した。学園へ入学までの経緯を語ったところでマリナの報告は完了である。
そしてここからは、おなじ五組のクラスメイトであるセロルとネネティアの番であった。
「じゃあ次は同じ五組で部隊員である僕達が話すよ」
「ではまずは私から。アカリ君との出会いは入学試験の時でした。彼は私が複数人の受験生に襲われていた時、その人達をあっという間に一人で片付けてしまったんです」
「ふぅーん、まぁダーリンなら当然よね」
「でも私はそのことに感謝してお礼を伝えようとしたのですが、彼は次の標的に私を定めて問答無用で倒されてしまいました。あの闘争本能の塊みたいな行動には、思わず面食らいましたよ……」
アカリの学園生活の話ということもあり、まずはネネティアが語り出した。彼女はアカリと初めて出会った時のことを思い出すのだが、その強烈な印象に今でも悲しい苦笑いが出てしまう。
「そう言えばあいつ、実技試験で満点を取れなかったから不合格だって嘆いてたわね。試験の仕組み上満点なんてほぼ不可能なのに」
「そ、そうなんだ。あはは、それはとても兄貴らしいね……」
「実際アカリ君は二八点取ってましたから、あと一歩だったんですよね……」
ネネティアが試験の話を持ち出したことで、マリナもアカリのバカ発言を思い出し笑ってしまった。平均三点程取れればいいような試験で、あろうことか最大値の三十点を目指していたという、あまりにも無謀な挑戦に。
「ラリヤ、それって凄いことなんですか?」
「凄いなんてものじゃないですよお嬢様。二十点越えすらこれまでいなかった試験で、その記録を大幅に塗り替えたんですから、あの男は本物の実力者です」
「そ、そうだったのですか。アカリ様は本当にお強いのですね」
「おー!さすがお兄ちゃん、すごーい!」
試験の凄さがイマイチ理解出来ていなかったカーリスは、ガーデニア学園の出身であるラリヤにそれがどれほどのものなのかを尋ねる。だが返ってきた回答は本心から驚愕していたものであり、その雰囲気からアカリがどれだけの偉業をなし得てきたのかを察した。
この中では一番幼いルトリィだけは、無邪気にアカリを賞賛していたが。
「うんうん、ダーリンの凄さが世間に浸透していく様は見ていて清々しいわね〜」
そしてアカリの武勇伝を聞き入っていたシンリーは、その内容に深く頷き嬉しさを噛み締めていた。
こうして、女性陣のアカリ報告会はまだまだ続くのである。




