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五章 24.逃走のプロ

 マリナが去った後、俺は再びシンリーの拘束により自由を奪われた。


「おいシンリー、べつに俺はどこにも行きやしないからこれ外してくれよ」

「ダメよ、ダーリンはもう絶対離さないって決めてるんだから」

「いや、だからってこれはさすがに過激過ぎるだろ……」

「そんなことないわ、これでダーリンと一生一緒にいられるんだから安いものよ」


 元凶であるシンリーに説得を試みるも、残念ながら俺の言葉は彼女には届かなかった。それ程までに、四百年という月日は彼女の心を苦しめ続けていたという証拠である。

 これが俺が封印されたことによる弊害であるなら、彼女の全て受け入れるのが正解なのだろうか。


「シンリー様、アカリ様が大切なお気持ちはよく分かりますが、それでもこのままでは色々とお楽しみが出来ないのでは?」

「ふむ、それもそうね。分かったわ、それじゃあ首を繋いでおくだけで勘弁してあげる」

「おぉ、開放感はかなりマシになったな。でも何だろう、より屈辱さが増してる気がする……」


 俺がどう対応するべきか悩んでいると、ミュレインが助け舟を出してくれた。しかしお楽しみとは何だろうか、そこに非常に嫌な予感を覚えるのだが。

 あと、首だけ繋がれると奴隷やペットみたいで腹が立つから、これも出来ればやめて欲しい。


「ふふふっ、もうこれでダーリンはどこにも行けないわよ。これから私と空いた時間をたーぷっりと埋めていきましょうね」

「怖い怖い!目の光が消えてるよ!」

「痛くしないし、もし痛くてもすぐ治癒してあげるから大丈夫。安心して私に全てを委ねて……」

「それって結局痛いってことじゃん!頼むから勘弁してくれ……!」


 シンリーは何かスイッチが入ってしまった様で、明らかに異様な雰囲気を纏いながら俺にじわじわと擦り寄ってくる。目からは光が消え明らかに危ない方向に堕ちている感じだ。

 このままだと俺の大切な何かが奪われる気がする。だからそうなる前に、どうにかしてこの場を脱出しなければ


「クウー?(アカリ何してるのー?)」

「おぉクウ!いい所に来たな!」

「ちっ、厄介な魔獣が現れたわね」


 どうにかしてシンリーの魔の手から脱出しなければと考えていた矢先、我が親愛なる相棒であるクウが登場した。口には食べかすをこさえ満面の笑みを浮かべ、幸せそうなあの表情から察するに、どうやら十分に食事を楽しんできた様子である。


「クアッ!(むっ、シンリー!アカリをいじめちゃダメだよ!)」


 楽しげな雰囲気で飛んできたクウは、俺がシンリーによって首だけ拘束されていることに気づくと、すぐさま怒り彼女に抗議しだした。さすがは俺の相棒、状況を見ただけで俺が虐待されていることを察知するとは見事である。


「ふん、いじめてるわけないでしょ。これは私とダーリンの愛の形なの!お子ちゃまな小竜は黙ってて!」

「クウゥー!(クウはお子ちゃまじゃないー!)」

「そうだクウ!お前の力で助けてくれ!」

「クアッ!(うん、すぐ助けるよアカリ!)」


 シンリーに子ども扱いされたクウはより一層怒りを増し、俺を助けるため彼女に向かって襲い掛かる。この場で唯一、シンリーという脅威に対抗する力を持っているクウならば、この魔の手から俺を奪還することも容易だ。


「くっ、このっ!ちょこまかと動き回ってずるいわよ!」

「クウー!(へへーん、そんな攻撃当たらないよーだ。それっ!)」

「あー!ちょっとクウ!ダーリンを返しなさいよ!」


 シンリーの放つツルのムチを鮮やかに回避したクウは、そのまま空間魔法を駆使しあっという間に俺を拘束から脱出させてくれた。


「サンキュークウ、さすがは俺の相棒だ」

「クアッ!(当然だよ!)」


 空間魔法によって無事シンリーの拘束から解放された俺は、助けてくれたクウの頭を優しく撫でて感謝する。

 再び手に入れたこの自由、もう何としても手放してなるものか。恐らくシンリーはしつこく俺を狙ってくるだろうが、どうにかして逃げ切ってやる。


「よし、このまま逃げるぞクウ!」

「クウー!(うん、それがいいよ!)」


 俺はクウを肩に乗せると、そのまま一目散にシンリーから逃げる様に反対側へ走り出す。そしてそれと同時にクウがワープホールを出現させて、瞬く間に距離を稼いだ。

 このままシンリーとは一旦距離を置いて、あいつが落ち着くのを待つとしよう。











 ――











 クウの妨害によってアカリを取り逃してしまったシンリーは、怒りの形相で逃げた先を強く睨みつけた。


「本当に厄介ねクウは……!でもこの森で私から逃げられるなんて思わないことよ」


 大切な人を攫っていく伝説竜に怒りをぶつけながらも、森は自分の縄張りとばかりにシンリーはアカリを追おうと構える。

 だが、そんな彼女の行動を止める様に側近であるミュレインが話し掛けてきた。


「シンリー様、御客人がいらっしゃいました。如何致しますか?」

「はぁ?そんなもの無視よ無視!ダーリンを奪い返す以外に優先することなんて無いわ!」

「ふぅーん、いいのかな魔人様?僕達はあなたの言うダーリンの情報を沢山持ってて、そのお話をしに来たんだけどな〜」

「……なんですって?」


 急な来客などアカリを探すことに比べたら優先度は月とすっぽんの様に違う。シンリーはそう判断するとバッサリ切り捨てようとするのだが、ミュレインの言うところの客人はそんな彼女を煽る様に挑発した。

 そしてその発言はシンリーにとっても無視することの出来ない内容である為、先程までの優先度が大きく揺らいだ。


「随分と偉そうなことを言うじゃない、勇者一族の分際で」

「あはは、でも魔人様がいない間僕達が兄貴とずっと一緒にいたっていうのは事実だからね。興味あるんじゃない?兄貴が復活してからの話」


 そう、シンリーの前に現れたのは勇者一族でありアカリの部隊員でもあるセロルだった。そしてそのすぐ横にはカーリス、ルトリィ、ネネティアが並んでいる。彼女らはマリナからアカリが身動きが取れなくなっているという情報を聞き、助ける為に参上したのだ。


「私達は魔人様の知らないアカリ様のことを知っています。気になりませんか?」

「あたしもお兄ちゃんのお話いっぱいあるよー!」

「私はあんまり乗り気では無いんですけど、アカリ君には借りもありますから協力します」


 セロルに続くようにカーリスとルトリィが順に発言し、最後にネネティアもあまり気は進まない様子ではあるが、シンリーの前に立ち塞がった。


「生意気な小娘達、本当は今すぐ消してあげたいけどそれをするとダーリンに怒られるのよね……」


 生意気な発言をしてくるセロル達を前にシンリーは本気の殺意が湧いてくるが、それでもそんなことをすればアカリとの関係が本当に崩壊することはよく理解していた。だから迂闊に手を出せない歯痒い状況に余計苛立ちが募る。


「シンリー様、ここは彼女達の話を聞いておくのも一興では無いでしょうか?」

「……はぁそうね、悔しいけど封印が解かれてからのダーリンの様子は気になってたし、仕方ないからここはあなた達の口車にに乗せられてあげるわ。ダーリンならまた後で追えばいいだけだし」

「そうこなくっちゃだね、それじゃあ早速あっちの席に移動して――」

「……待って、その会私も参加させてもらう」


 上手くシンリーを誘導することに成功したセロルは、内心ほっと安堵するとそのまま宴会場近くの席へ誘導しようとする。

 だがそんな中に、この場において最も面倒事を呼び込みそうな危険人物であるリリフィナが乱入してきたのだった。


「リリフィナ、いいけど面倒だけは起こさないでよ」

「……先輩に迷惑掛けるつもりはない。あなた達には知らないけど」

「はぁ、言って聞く相手じゃないか。仕方ないなぁもう……」


 リリフィナの参加をセロルはあまり良く思わなかったが、それでも自分の言うことを聞くような相手では無いことは十分に理解していた為、諦めて参加を認めるしかない。

 こうして、アカリが逃走する中女性陣達で新たな戦いが始まろうとしていた。


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