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五章 21.敵だった隊長

「さてと、それじゃあ私からの話は以上よ。せっかく再会したんだからこれから楽しみましょダーリン!」


 これでもう話すことは全て話したとばかりに、シンリーは俺の腕に思い切り抱きついてくる。幼い見た目とはいえ中身はしっかり大人なのだから、こういう行動は控えて欲しいと常々思ってはいるが、そんなことをこの魔人に言ったって無駄な為俺は諦めて受け入れた。


「楽しむって、何するつもりだよ……」

「ふふっ、それはまぁ色々よ。取り敢えずはこの村を案内してあげるから着いて来て!」

「色々か、先が不安になる発言だな……」


 色々の中に含まれている不安要素に若干滅入りつつも、俺はやたら上機嫌なシンリーに腕を引かれて集会場を後にした。他の面々もそんな俺達につられて集会場から出てくる。


「シンリー様、客人とのお話し合いは無事終わりましたかな?」

「えぇ、これこら彼らの歓迎用に宴会の準備でもしてもらえる?」

「かしこまりました。すぐに手配致しましょうぞ」


 集会場を出ると早速、武人のような闘気を身に纏った和の雰囲気を放つおっさんが出迎えてきた。勝てはするだろうが、戦ったらなかなかいい勝負が出来そうな相手である。マルク先輩とほぼ同じぐらいの強さかな。


「あの男は何者なんだよ?随分と強そうだけど」

「彼は保安部隊の大隊長を任せているラーズよ。この村じゃ多分ミュレインの次くらいに付き合いが長いわね。実力は私を除いたら村一番じゃないかしら」

「へぇー、そんな凄い奴に宴会なんていう雑用押し付けるのかよ。てか別にそんな気を遣わなくてもいいんだけど……」

「何言ってるのよ、せっかくダーリンと再会出来たのにそれを祝わないなんて考えられないわ!」


 ラーズという名の男は保安部隊の大隊長とかいう、よく分からないけど結構偉そうな位の人だった。そんな人に雑用を押し付けるとは、シンリーも随分と適当な役目を与えるものだ。

 そしてわざわざ宴会とかそういうのも開かなくていいと言ったんだが、やらないなど有り得ないと逆に怒られてしまった。なぜ迎えられる側の俺が怒られたのかは謎である。


「あっ、そう言えば、まだこの村の平均年齢が低い理由を聞いてなかったな。何でなんだ?」

「それはね、さっきも言ったけどこの村にいる連中は皆最初は赤ん坊だったのよ。だから最大でも研究してきた四十年分以上の年齢の人間は、ここには居ないってわけ」

「ああーなるほど、確かに言われてみればすぐ分かることだったな」

「みんな若いからって、他の子に色目使ったらダメだからね!」

「使わねーよ!」


 今更だが再び村を見渡していて平均年齢が低いことに気づき聞いてみのだが、その答えはえらく単純明快であった。言われてみればその通りで、当たり前のことである。

 そしてついでみたいな感じでシンリーに謎の釘を刺されてしまったが、そんなことする気はさらさらないので勘弁して欲しい。


「他にも色々と見せたい所があるから着いてきてー!」

「あいよ、分かったからそんなにはしゃぐなって」


 そうして俺達一行は、舞い上がっているシンリーに楽しげに、村の中をあちこち案内してもらうのだった。












 ――



 










 シンリーに連れられて俺達は、この村で暮らす人々の生活様式をたっぷりと学ばせてもらった。

 食料の調達方法から生活面のインフラの解説など、村を一から作っただけあってなかなか面白い話を沢山聞かせてもらい、気が付けば辺りは夜となっている。


「シンリー様、宴会の準備が整いましたぞ」

「ありがとうラーズ!さぁ楽しみましょダーリン!」


 夜に差し掛かった頃合を見計らうように、大隊長のラーズから宴会の準備が整ったとの報告が届いた。準備の筆頭から完了の報告まで全てするとは、本当にお偉いさんのすることなのかと疑いたくなる仕事ぶりである。

 ともかくせっかく用意してもらったもてなしなのだから、精一杯楽しませてもらおう。


「皆―、杯は回ったかしら?それじゃあ、ダーリンと再会出来た今日という記念日を祝して……かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」


 宴会場へ案内され飲み物を受け取ると、早速シンリーが中央から乾杯の合図を出し、森の中の村での宴が始まった。口上が物凄く個人的過ぎる気がするのだが、村の連中は全く気にしていない様子で受け入れている。誰も違和感を覚えないこの会場が異様だ。俺の仲間達だけが苦笑いしてるし。


「クウー!(ご飯食べてくるねー!)」

「おう、あんまりはしゃぎ過ぎて皆の分まで食べるなよー」


 宴会が始まると、クウが一目散に沢山並ぶ料理を狙って飛んで行った。クウが喜ぶ姿を見れるのは嬉しいが、それで周りの雰囲気を壊す訳にはいかないので一応軽く注意はしておく。ただその言葉に効果があるかは不明だが。


「さてと、俺も何か食いに――」

「ご無沙汰しております。少しよろしいでしょうか?」

「ん?ああ、あんたか。森の中では世話になったな」


 クウのことは気になりつつ、ともかく俺も早速この村の料理を楽しもうかと思ったその矢先、俺の所にとある人物がやってきた。森に入ってすぐ俺達を襲ってきた、あの時の部隊の隊長が。


「まさかあなたがシンリー様の探していた大切な方だったとは知らず、あの時はとんだ御無礼を致しました……」

「はは、それを言うなら俺もお前らは完全に敵だと思って戦ったんだからお互い様だ。気にすんなよ」

「ありがとうございます」


 この隊長は随分と礼儀正しいみたいで、俺達に攻撃してきたことを謝るためにわざわざ俺の元に来たようである。

 というかこの村の人達は基本的に礼儀正しい奴ばかりだ。それだけ全員がシンリーのことを慕っているということの証なのだろうが、ここまで統率のとれた集団は見たことがないので相当に凄いことである。

 俺の仲間達も俺のことを慕ってはいるが、纏まりは一切ないからな。


「改めて俺はアカリだ、これからしばらく世話になるからよろしくな」

「はい、私はダーチェルです。シンリー様共々、末永くよろしくお願い致します」

「末永くって、まるで嫁入り前の台詞みたいだな……まぁ真面目には考えないでおく方が吉か」


 ダーチェルの言葉は聞く人が聞けば誤解を招きそうな言い分であるが、本人の様子からしてそういうつもりは無く完全に無意識なのだろう。俺もシンリーの作ったこの村の連中とは長く仲良くしていきたいので、彼女の申し出を深く考えずに受け入れる。


「あら、ダーチェルと何を話してるの?」

「改めて挨拶してただけだよ。森で会った時は敵対してたからな」

「言われてみればそうだったわね。あっそうだ、ダーリンのことで聞きたいことがあったんだけど、彼女達の部隊の強さはどんな感じだった?」

「強さ?何でそんなこと聞くんだよ」


 ダーチェルと軽く挨拶を交わしていると、乾杯の挨拶を終えたシンリーが俺の元にやって来た。そして何故か突然ダーチェル達の強さを気にしだしたのだが、一体どういう理由があるのだろうか。


「この世界には私達から大切なものを奪おうとする連中が多過ぎるのよ。そんな奴らから自分の身を守る為には、どうしても力が必要なの」

「なるほどな、確かに大切なものを守る為には力は必要か。特に魔物なんて言う訳の分からない存在までいるこの世界じゃ……」

「うん、だから私はこの村の仲間達を少しでも強くしようと思ってて、それで戦ったダーリン達から見た感想を聞きたいってわけ」

「了解だ、なら俺も出来るだけ協力するよ」


 シンリーはこの村の連中が理不尽な暴力に負けないように強く鍛えようとしているらしい。その心意気は立派だしその気持ちから彼女の優しさが十分に伝わってくる。

 だから俺もその想いには全力で応えるつもりだ。


「まずダーチェル達の部隊の連携は見事だったよ。シンリーの迷いの効果も上手く活かせていたから、森の中じゃ俺達もだいぶ苦しめられた」

「そう、その辺には力を入れてきたから当然ね」

「だが一歩森の外に出ればその強さは半減する。霧さえなければダーチェル達の連携は見切りやすいし、簡単に殲滅されるだろうな。まぁ相手が俺とクウだったから、あんまり参考にはならないかもだけど……」


 俺はシンリーの要望通り、ダーチェルらの感想を彼女達に伝えた。ただそれは相手が俺達だったからそういう結果になったのであって、他の人間や魔物達とならそれなりに善戦はするだろう。

 だが、それはつまり彼女らの強さが有象無象には通用しても、本物の強者に出くわした時には無力になるということの証明であった。そして大切なものを守るという目標があるのなら、その課題は絶対にクリアしなくてはならない。

 強くなるというのは、それだけ難しい問題である。


「ありがとうダーリン、今回の騒動はダーチェル達にとってもいい教訓になったわ」

「はい、とても勉強になりました」

「それなら何よりだよ。また何かあった頼ってくれ、俺でよければ練習相手ならいつでも務めてやるからよ」


 シンリー達は今の自分達の実力を素直に受け入れ、次へ繋ぐ為の糧としている。これならこの村の部隊はきっともっと強く成長していくだろう。


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