五章 20.う〇ち
ミュレインの鑑定結果、俺とネネティアがテンス持ちであることが判明した。
俺の生き物に好かれる体質というのはまだ言われると納得出来る部分は多くあったが、ネネティアに関しては全く検討もつかない。彼女のテンスとは一体何なのだろうか。
「わ、私のテンスってどんな効果なんですか……?」
「あなたのテンスは運気に作用しています」
「う、運気ですか……!?」
「あぁー、なるほど!ネネティアが今まで不運だったのは、テンスが原因だった訳か」
ネネティアに一体どんなテンスが隠されているのかと思ったら、どうやらそれは運気のことらしい。すなわち、彼女の不運は単なる体質ではなくテンスの効果だったということである。
今回の旅では大きな発展は得られなかったかと思っていたが、思いもよらぬところで収穫が出てきた。
「でもいくらテンスと分かったからって、結局不運なだけじゃ何の意味も無いですね。むしろ今まで曖昧だった存在に、確固たる証拠が出来てしまっただけです……」
だがせっかくあった進展もそれが解決に繋がる訳では無い為、ネネティアはただ落ち込むばかりであった。確かに不運がテンスだと分かったからと言って、そのテンスを無くすことなど出来ないのだから、分かったからどうしたと言うだけである。
ようやく手に入れた新情報も、この先役立たせるのは難しそうだ。
「違いますよ。あなたのテンスは不運では無くて、運気に作用してるのです」
「えと、だから不運ってことじゃないんですか……?」
「違います、あなたのテンスは運気に作用している、すなわち運を操ることが出来るのです」
「……え?ええぇっ!?そ、それ本当なんですか!?」
「はい」
不運なだけのテンスじゃ何も役に立たないと落胆するネネティアだったが、続くミュレインの言葉で面白い程に驚きの顔に変わる。
そしてそれを聞いていた俺も当然驚いた。まさか彼女のテンスが不運では無く運気を操る能力だったとは、本当に凄い新情報だ。それはつまり、彼女の運気を良い方に操れれば、それだけでこれまでの問題を全て解決出来るのだから。
絶望的だと思っていたネネティアの不運に、突然希望の光が眩く舞い込んできた瞬間である。
「あ、あの、操るって具体的にどうすれば良いのでしょうか!?」
「それは知りません。私のテンスは他者のテンスを見極めるだけです。操り方は自分で見つけて下さい」
「そ、そうなんですか……」
もう不運に悩まされることは無いと分かってか、ネネティアは食い入るようにミュレインに操作方法を聞き入る。だがそんな懸命な彼女に対し、ミュレインの口から発せられる回答は偉く素っ気ないものであった。
まぁ今日あったばかりの他人にそこまで詰め寄られたら、嫌悪するのも当然の反応か。
仕方ない、ここはシンリーの旧友でもある俺が力を貸そう。俺から言えば多少はヒントをくれるかもしれないし、それにネネティアの不運解決には協力すると、前から約束してる訳だしな。
「なぁミュレイン、操作方法は分からなくても何か手掛かりになる情報を少しでもくれないか?」
「教えて上げなさいミュレイン。私からもお願いするわ」
「かしこまりました。あなたのテンスはより正確に言えば、運気を数値化させて運の貯金をする様なものです」
俺がもう少し詳しい情報をお願いするとシンリーも協力してくれ、ミュレインは更に詳しくネネティアのテンスについて解説してくれた。
「具体的にはどんな感じなんだ?」
「簡単に言えば、不運でいればその分使わなかった運気が貯まり、その貯まった分の運気を利用して一時的にに幸運になれるという仕組みです」
「不幸になって運気を貯める、ですか。それって私、現状恐ろしい程に運気の貯金ありません……?」
「ああ、多分自在に操れるようになったら向こう十五年くらいは超幸運になれるだろうな……」
ミュレインのテンス解説を聞いた俺とネネティアは、常に不運を受け付ける状態で生きてきた彼女の人生を振り返り、とんでもなく運気が貯まっている現状に震えた。
もしネネティアが運気を自在に操れるようになったら、彼女の人生は大きく変わってくるだろう。
「私の分かる情報はこの辺りです。そうですね、運を数値化して操るあなたのテンスの名は……運値、なんてどうですか?」
「うんち!?」
「ぶはっ、う、うんちか、なかなかいい名前だな。良かったじゃん、ふふっ……!」
「笑わないで下さいアカリ君!」
ネネティアのテンスの解説を終えたミュレインが最後に命名までしてくれたのだが、切り取り方が面白過ぎた。運値とはなかなか良いネーミングセンスしてるよ。
まぁ持ち主であるネネティアは当然不満そうで、笑いを堪えられない俺に全力で怒ってきているが。
「へぇー、ダーリンがテンス持ちなのかどうかさえ分かればいいと思ってたけど、なかなか面白いテンスが発掘されたわねー。運値か、凄くいいじゃない」
「うむ、運値という名前はともかく、その能力はかなり強いからね。使いこなせればきっと素晴らしい力になってくれるはずだよ」
「シンリーさんにプラチウムさんまで、もうその名前で確定なんですか……」
シンリーとプラチウムも二人してネネティアのテンスを賞賛しているのだが、当の本人は名前に納得しておらず不満げである。
でも正直今から運気操作だのとそういった無難な名前を出されても、「運値」という名前の衝撃が強過ぎて誰も他の名前で呼ばないだろう。ミュレインは特に悪気も無く言ったのだろうけども、彼女の一言がネネティアのテンスを大きく確定させてしまったな。
「気にするなネネティア、名前など所詮は飾りに過ぎない。大事なのはその中身でしかないんだ」
「ありがとうございますガゼル君。でも今だけは、自分の武器に自由に名前を付けれるあなたに言われると嫌味にしか感じないです……」
「なっ!そ、そうか。すまん……」
「ネネティアもだいぶ滅入ってるなー。こんな卑屈な姿は初めて見たよ」
落ち込んでいるネネティアをガゼルがフォローしようとしたのだが、その言葉は彼女の心には全く響かなかったらしい。
まぁ確かにガゼルは自分の武器には自由に名前を付けてはいるから、そんな奴から言われても気分は良くないか。ただあいつの武器名は厨二病チックで、それも如何なものかとは思うけど。
「はぁ、もういつまでも落ち込んでいてても仕方ないですね。この命名も不運だったんだと受け入れて、さっさとテンスを使いこなせるよう精進するだけです!」
「おぉ、復活したか。意外と早かったな」
「当然です。不名誉な名は与えられましたが、それでも私の不運の原因が分かったんですから、そこは感謝してるんですよ」
「まぁ確かにな。あとはテンスさえ操れるようになれば不運脱却も夢じゃないか」
運値という悲しい命名をされたネネティアだが、それでも自分の不運を解決する強い光明が見えたのだからと、嬉しそうな顔が戻ってきた。
確かに彼女のテンスは単純に不運という訳ではなく、運気を操れるそうなのだから、使いこなせればこれまでの人生が大きく変わることだろう。もうゴールはすぐこそに迫っているが、俺も最後まで協力は惜しまないつもりだ。
「しかし、初期設定で運気が最悪な状態になってるってのは、救いようがないよな」
「ですね、せめて通常の運気でいてくれれば多少は楽な人生でした……」
現状ネネティアは自分のテンスをコントロール出来ていない訳だが、デフォルトの状態が不運とは何とも不憫なテンスである。今まで悲しい運気を背負って生きてきたのだから、ここから先の彼女の人生が良い方向に転がることを祈るばかりだ。




