五章 19.テンス測定
シンリーと再会し彼女の研究内容も十分に聞けた。これで森に来た目的は十分に達成しただろう。得られた成果は少ないが、これからまた情報集めから少しずつ頑張っていくことにする。
「さてと、それじゃあ俺達の聞きたいことはそれくらいだしそろそろ――」
「ああ待ってダーリン、私からも少しいい?」
「ん?もちろんいいけど、どうしたんだ?」
これで話は終わりとばかりに俺が立ち上がって移動しようとすると、シンリーがそれを制止してきた。どうやらまだ彼女の方からも何か言いたいことがあるらしい。
シンリーは突拍子も無いこと言い出して困らせてくるから、少し緊張しつつも再び腰を下ろす。
「実はこのミュレインのテンスがね、目視した対象がテンス持ちかどうか、そしてそのテンスがどんな効果を持っているのか知ることが出来るのよ。それでダーリン達のテンス測定をしてもいい?」
「へぇー、それは凄い能力……なのかな?てかそもそも、この世界の人間はどうやって自分のテンスを知るんだ?」
シンリーから突然、俺達がテンス持ちかどうか測定したいと言われたが、そこでそもそもマリナ達はどうやってテンスという存在を知ったのかが気になった。
何か測定用の魔道具とかでもあるのなら、ミュレインのテンスを測定するというテンスはあまりにも微妙な能力になってしまうだろうし。かと言って、無いなら無いでテンスなんて曖昧な能力、やたら目立つ特徴が無い限り見分けるのは困難だろう。
「あーそれはね、テンス持ちは皆自分の能力を能力判定ギルドに審査してもらって、それが通って初めてテンスと認められるのよ」
「能力判定ギルド?そんな組織まで存在するのか……」
「まぁとは言っても、あの人達も実際に対象者に能力を発揮してもらって、それを見て判断する訳だからあんまり正確じゃないのよね〜」
「そうそう。私やお兄さんみたいに分かりやすい能力ならすぐ認められるんだけど、自分の中で完結してる能力とかは認められないことが大半だったりするわ」
どうやらこの世界に存在するテンスという特殊能力は、それを判定する組織がいてそいつらに認められないとテンスにはならないらしい。正確に測れる道具などは無く、人の目で判断するとは何とも正確性に欠ける仕組みである。
「じゃあミュレインは、そのテンスを正確に鑑定することが出来るってことか?」
「そういうことよ。ちょっと試したいことがあるから付き合ってくれる?」
「ふん、本当にそんなテンスが存在するなんて、それこそ怪しいものね。本当かどうか、まずは私が確かめてあげるわ!」
シンリーの言う通りテンスを測れるというのなら、確かにそれは凄い力ではある。だがマリナはどうにも信じ切れていないようで、自らが実験台になると名乗りを上げた。
確かに俺達の仲間でテンス持ちはマリナだけだから、試すなら彼女が適任だ。
「シンリー様、いかが致しましょうか?」
「はぁ、仕方ないわね。じゃあまずは、その身の程を知らない馬鹿な勇者一族で試してあげて」
「かしこまりました」
反論してくるマリナを前にして、シンリーは仕方なく彼女から試すようミュレインに指示を出す。
するとすぐに、ミュレインがバイザー越しにマリナを凝視し始めた。目がどこにあるかは分からないが、バイザーが魔力で二箇所発光し始めた為、それが彼女の目であるのだろうと直感する。
「……把握しました。あなたの能力は、魔力を無に返す作用を持っていますね」
「おぉっ!」
「なっ、う、嘘でしょ……!」
やがて鑑定を終えたのかミュレインの目の輝きは消失し、その代わりに結果として見事にマリナのテンスを当ててみせた。
マリナの能力はまだこの場の誰にも話していないのだが、それをピッタリ当ててくるとは彼女の力は本物である。
「でも全ての魔力を消せる訳では無い。その力は人や物など行使した魔力にのみ反応し、魔力の塊そのものである魔物には一切通用しない。中途半端な力です」
「中途半端は余計でしょ!」
「はっはっは!いや、これは確かに凄いな。完璧に大当たりじゃんか」
「笑うな!」
マリナのテンスを見事に当てたかと思ったが、ミュレインの鑑定はまだ終わらなかった。魔力解放が魔物には効果が無いという弱点まで見抜くとは恐ろしい程の鑑定眼である。
そこまで細かい内容をこの場ですぐに口に出来たということは、彼女のテンスは本当に他者のテンスを見抜く力を持っているということだ。
ただ、あまりにも見事にマリナ当てるものだからつい笑ってしまい、マリナに鬼の形相で睨まれてしまった。
「ごめんごめん、でも本当に凄い能力だな。で、その力で俺達に他にテンス持ちがいるかどうかを調べてくれるってことか?」
「そういうことよ、ダーリンに会ったらどうしても一度確認しておきたかったから」
「了解だ、それならせっかくだしやってくれ」
「かしこまりました。それでは、失礼します……!」
シンリーが何を確認したかったのかは知らないが、面白そうなので俺達全員の鑑定もお願いすることにする。仲間内の誰かから新たなテンス持ちが見つかれば儲けものだし、やってもらって損は何も無いからな。
ミュレインは再びバイザーに魔力を込め目を光らせると、俺達をまじまじと凝視しだす。この光る眼に睨まれるのだけは、なかなか慣れなくて少し緊張感を覚えるな。
「……把握しました」
「ご苦労さま、どうだった?」
「はい、テンス持ちを発見致しました。シンリー様の読み通りでございます」
「そう、やっぱりね……」
そうしてしばらく待っているとミュレインのバイザーから再び光が消え、俺達の鑑定も完了したようだ。しかも結果はテンス持ちを発見したという驚きのものである。
一体誰なんだろうな、今まで自分のテンスにすら気づかなかった鈍感なやつは。
「誰がテンス持ちだったんだ?」
「あなたですよ。アカリ様はあらゆる生物に好かれるという特異な能力を持っておられます」
「んえっ!?お、俺かよ……!」
一体誰がテンス持ちなのかとニヤニヤしながら周囲を見ていたが、どうやら鈍感野郎は俺だったらしい。まさか自分がテンス持ちだとは全く予想していなかった為、驚き過ぎて変な声が出てしまった。
しかしあらゆる生物に好かれる能力か。確かによくよく考えてみれば、俺は産まれた時からずっと動物達に愛されて生きてきたんだよな。だから当たり前過ぎて気づかなかったけど、それは俺のテンスが作用していたってことか。
「でも唯一の弱点は、理性のある人間にだけは作用しないということですね」
「いや、そこは弱点じゃなくて感謝すべきところだろ。人間にまで好かれてたら、たぶん俺の人生は大変なことになってたと思う……」
ミュレインは人にだけは好かれない部分を弱点と言ってきたが、そこは唯一幸運だった所だと思う。もし動物達と同レベルで人にも好かれていたとしたら、たぶん俺は今この場にはいない。最悪産まれてすぐ誘拐にあって、取り合いになり殺されていた未来だって見えるのだから。
「やっぱりダーリンがやたらクウ達魔獣に人気があったのは、テンスの影響だったのねー。これで納得したわ」
「ああ、むしろ俺も何で今までその考えに至らなかったのかが不思議だよ……」
「クウー!(クウはそんな力関係ないー!)」
シンリーは俺の体質がテンスによるものであると予想していたらしく、ミュレインの結果に満足している様子だった。
だが俺の仲間内で唯一影響があるであろうクウだけは、自分はそんな能力の影響は受けていないと猛抗議してくるが。
「ははっ、分かってるよ。何があってもクウは俺の相棒だから気にすんなって」
「クアッ!(当然だよ!)」
実際にはクウも俺の体質の影響を少なからず受けてはいるだろう。でも初めて出会った時のクウは俺に敵意を向けて来ていた。魔物と人間以外で俺に敵意を向けて来た生物はクウだけだった為、もしかしたら本当にクウは体質が効いていないのかもしれない。
だが別に体質が効いているかどうかなんてものは正直どうでもいい。俺はクウと一緒にいれればそれで満足なのだから。
「さてと、それじゃあミュレインの鑑定もこれで終わりか?なら今度こそ――」
「まだもう一人テンス持ちを発見しています」
「えっ、まだいるの?誰だよそれ」
今度こそもう話は終わりだろうと思い立ち上がろうとしたのだが、ミュレインの発言が俺の動きを制止する。まさか俺達の仲間にもう一人テンス持ちがいるとは驚きだ。俺と同類の鈍感野郎は一体誰なんだろうか。
「そこにいる方です」
「わ、私ですか……!?」
「おぉ、まじかネネティア……」
誰がテンス持ちなのか気になりミュレインの指さす方向に瞬時に顔を向けると、そこにいたのはなんとネネティアであった。
どうやら彼女もまた、俺と同じくテンスを持っていることを知らなかった鈍感娘らしい。




