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五章 18.未だ答えは見つからず

 それから俺達は、ミュレインにシンリーの情報をたっぷりと教えてもらった。

 森に捨てられる子供達を保護しては、その子用に体の欠損を補填する為の道具を造り、一人でも生きていける様に育て上げたこと。森の中でも快適に暮らせる様に木々を操り村を造り上げたこと。そんな優しく献身的な母性溢れるシンリーの話を、俺達は沢山聞いたのだった。


「はぁ、はぁ、やっと帰ってこれた……よくもやったわね、ダーリン……!」

「おぉシンリーおかえり。早かったな」

「おかえりなさいませシンリー様。ちょうど今御客人にシンリー様の偉業を伝えていたところでございます」

「ぐうぅー、余計なことを〜……!」


 ミュレインからシンリーの村での立ち振る舞いをあらかた聞き終えた頃、ようやく当の本人が帰還した。彼女は随分と息が上がっており、そのことからどれだけ走って来たのかが伺える。

 もしかしたら引きこもっていたせいで、体力が落ちていたのかもしれないな。魔人が体力落ちるかどうかは知らんが。


「ごめんシンリー、俺お前のこと疑ってたよ。本当は誰よりも心優しい奴だったのに魔人だってのに。すまなかった!」

「やめて!人間に優しい森の魔人なんて、そんなの私じゃないわ!ずっと築き上げてきた尊厳が崩れるからやめて!」

「謙遜すんなって、俺は優しいシンリーの方が好きだよ」

「え……そ、そう?な、ならそれでも悪くないかな〜……」


 昔からずっと人嫌いで通してきたシンリーにとって、人に優しくしている姿を知られるというのは恥ずかしいことなのかもしれない。

 だが俺はシンリーがそんな風に変わってくれたことが何よりも嬉しくて、ついつい本音が盛漏れてしまった。でもそのおかげでシンリーも自分の優しさを認める方向に揺らぎ始めていたので、これはいい傾向である。


「シンリー様、先程から気になっていたのですが、この御客人はまさか……」

「えぇ、私がいつも話していたダーリンが彼。私の生きる全てよ」

「やはりそうでしたか。おめでとうございますシンリー様、ようやく悲願が達成されたのですね」

「ありがとうミュレイン、あなた達もここまで私のわがままに付き合ってくれて本当に助かったわ」


 シンリーの怒りもどうにか抑えられた頃、ミュレインが何やら妙な疑問を口にした。悲願がということは俺の封印のことだろうが、どうやらシンリーは自身の研究の目的も村の仲間達に共有していた様で、手伝ってもらっていたらしい。

 さっきは随分と悪態ついたことを言っていたというのに、笑える程に仲が良いじゃないか。


「はぁ、なんだか変な感じになっちゃったけど、話を続けましょうか。それで、ダーリン達は他に聞きたいことは無いの?」

「おっとそうだった。話が脱線し過ぎて本題を忘れるところだったよ」


 シンリーの心温まるエピソードを聞いて満足してしまい、うっかり大事なことを聞き逃すところだった。

 俺達がここへ来たのは、シンリーの研究が魔物を殲滅する鍵になるかどうかと、後はネネティアの運気を上げることだ。どちらも中々の難題ではあるが、彼女からなら何かしらのヒントを貰えるかもしれない。


「それじゃあ早速一つ目だけど、シンリーは魔物を殲滅する手段を何か知らないか?」

「殲滅ね、それがさっき聞いたこの世界を救うってやつ?そんな無駄なこと止めた方がいいと思うけど」

「そうもいかないさ、俺はこの世界のことも好きだから守りたいし、それはシンリーも同じことだろ?」

「……まぁ、私にも少なからず守りたいものは出来たし協力はするわ。でもさっき言った通り、残念ながら私の研究では効率の悪い弱点を見つけたくらいしか無いわね」


 シンリーは基本的にこの世界そのものはどうでもいいと思っている様だが、それでもこの村の連中を守る為には魔物という存在は邪魔になる。だから渋々といった感じで協力を約束してくれた。

 だがそれでも、彼女の研究でも魔物を簡単に滅ぼす為の良い手段は知らないらしい。まぁ当然と言えば当然のことだが、これでまた振り出しである。やはり力ずくで全てを倒しきるしか、方法は無いのだろうか。


「そうか……魔物の打開策は、また別の方法を探していかないとだな」

「それ以外にはまだ何かある?さっきは一つ目って言ってたけど」

「ああ、もう一つはこのネネティアのことなんだ。ネネティアは生まれつきの不運体質で、今まで散々な目にあってきてな。だからそれをどうにかする解決策がないかと思って」


 魔物の件とは別に、ネネティアの不運をどうにか出来ないかという目的もあってここに来たので、そのこともシンリーに相談することにした。だが運というものは掴みどころのない存在である為、期待は非常に薄いだろうが。


「不運って、単純に運が悪いってこと?それは、さすがに私の研究でもどうにも出来ないわよ……」

「だよなぁ〜、やっぱりシンリーでも運気を上げるのは難しいか」

「そりゃそうよ、だって運っていうのは操ることが出来ないから運なんじゃない。それを上げようだなんて、さすがに私の研究でもどうにもならないわね」


 あれだけ凄い研究結果を出しているシンリーならもしかしたらとも思ったが、残念ながらそれは彼女でも不可能らしい。薄々分かってはいたことだが、もうこうなってくると本格的にパワースポット巡りをするくらいしか無さそうだ。


「ごめんネネティア、やっぱり運気を上げるのは想像以上に難易度が高いみたいだ」

「いえ、気にしないで下さい。そんなのは分かりきっていたことですから。根気強く頑張っていけばいいだけです、まだまだこれからですよ!」

「そうだな、また別の手段を試していくか」


 シンリーでも運気アップは出来なかった。未だ改善されず突破口も見つからない状況を申し訳なく思い謝罪するも、ネネティアは落ち込む素振りなど一切見せずむしろやる気に満ち溢れている。

 本人がここまで燃えているのだから、俺も諦めずにこれからも打開策を探していこう。


「ダーリンも随分と面倒なことばかり押し付けられているわね〜」

「そうかもな。でも何かしら目標を持って生きるのは楽しいし、その為に努力するのは俺嫌いじゃないから」

「ふふっ、そんな頑張り屋さんなダーリンも大好きよっ!」

「やめろバカ!いきなり抱きついてくるな!」


 シンリーが何やら同情の目線を送ってきたが、俺はこんな人生を何だかんだで楽しんでいると伝えた。だが結果何故か抱きつかれるという、意味の分からない返しをされてしまう。

 シンリーは中身は十分過ぎるほどに大人であるのだが、外見が幼過ぎる故に扱いが非常に困る。雑にあしらうと簡単に怪我をしてしまいそうな程にか弱く見えるのだ。

 まぁ実際は魔人だから、相応のことが無ければ怪我はしないのだけれども。


「それでダーリンの聞きたいことは今ので全部なの?」

「いや、まだ一つあるよ。俺達がさっき戦った連中は、シンリーが与えた道具で腕とかを魔石にしてるって言ってただろ?てことは、あいつらは別に魔物ではないのか?」

「何当たり前のこと言ってるの。確かに魔石が体と結合して体の一部になっているのは事実だけど、彼らはれっきとした人間よ」

「そ、そうか、俺はてっきり人型の魔物だと思ってたけど、それは違うんだな……」


 俺はつい先程シンリーから彼らの事情を聞くまで、ずっとこの村の連中のことを人型の魔物だと勘違いをしていた。だが体の一部となった魔石を自在に操ることは出来るが、ただそれだけで別に魔物になった訳では無いということか。

 そうなると、ずっと人型の魔物だと思っていたメルト達も、もしかしたら似た様な存在なのかもしれない。ただあいつらは敵対心を剥き出しにしているので、人か魔物かなどあまり関係はないが。


「メルト達がどういう存在なのか、もう少し色々と考える必要はありそうだな……」


 あいつらがこの村の人達と同じかどうかはまだ分からない。だがそれでも、シンリーから色々と聞いたことで少しは謎が解けてきたような実感を得るのだった。


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