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五章 16.黒い世界

 村の集会所に到着した俺達は、まずシンリーがこの森で何をしていたのか、どういう研究をしていたのかを聞くことにした。


「私がこの森に来たのは今から約四十年程前ね。他の魔人達が何をしているかは知らないけど、私は自分の力でダーリンを取り戻したかったから、研究の為にここに篭ったのよ。一応ダーリンの創った世界でも封印を解く方法は探してたんだけど、あそこじゃ情報が少な過ぎたから皆でこっちに来たの」

「そうか、俺の為にわざわざありがとうな」

「いいのよ、私はダーリンの居ない世界でのうのうと生きるなんて耐えられなかっただけだから」


 シンリー達がこの世界に来た理由は、俺の封印を解く方法を探す為である。このことは他の魔人達からもある程度は聞いていたので多少は把握している。しかし俺一人の為にずっと研究を続けていたなんて、本当にありがたい話だ。

 シンリーは口は悪いしすぐ暴力は振るうけど、その分仲間思いな優しいやつである。


「それでダーリンは巨大な魔力が凝縮された結晶の中に封印されていたでしょ?私はこの世界に来てそれが魔石とよく似ているなって感じて、それから魔石を消滅させる研究を始めたってわけ」

「魔石の消滅か、それは凄いな。実際はどこまで出来るようになったんだ?」

「全然よ。最初は魔石を応用した小道具を作成していって、最近は魔石には弱点があることを発見したくらい」

「弱点を発見したのか!?凄いじゃないか、それは十分な功績だと思うんだが……」


 魔石に弱点があるのなら、そこをピンポンで突けば魔物を一瞬で消滅させることが可能ということである。そんな凄い発見をしたというのに、何故シンリーはそんなにも浮かない顔をしているのだろうか。


「こんなの大した功績じゃないわ。弱点と言っても、魔石は特定の箇所に自身の魔力を流し込めば煙のように霧散するの。でもその場所が魔石によって全く違くて、規則性が一切無いから当てずっぽうで流し続けるしかないのよね」

「な、なるほど、それじゃあ魔物との戦闘中に探すのは厳しいのか……」

「そういうこと。戦ってる最中に針の穴に糸を通す様な細かい作業をするくらいなら、魔物そのものを倒した方が断然楽だから」

「うーむ、何か使えそうな気がするんだが、何とも惜しい感じだな」


 どうやらその弱点は魔石によって位置が全く異なるらしい。そんな場所を戦ってる中で探すくらいなら、魔弾でもぶち込んで倒しきった方が遥かに効率がいいということか。

 それに自身の魔力を流し込むというのも、この世界じゃ勇者一族以外はほとんど出来る奴は居ない。条件が厳しい上に難易度も高いとなると、実戦で使うには無理がある代物だ。


「まぁでも、私の目的は魔物を滅ぼすことじゃ無くてダーリンを復活させる為だったから、それなりの進歩だったけどね」

「確かに俺の封印でもその弱点さえ見つけられれば、解放されてた可能性はあるのか。凄いなシンリー!」

「へへーん、まぁねー」


 シンリーの研究は一から十まで俺の封印を解く為だけに行われていたものだ。そのことから考えると、目標達成は意外と近い場所にあったのかもしれない。まぁ今となってはそれも分からぬままであるが。


「少しいいかい?先程シンリー君が言っていた小道具というのが気になるのだが……」

「ああ、それならあなた達ももう何度も見てるはずよ。例えばこの子の目に着けてるこれとかね」


 シンリーの研究成果に感心していると、プラチウムが質問してきた。対する彼女は、説明しながら先程からずっ後ろに立っている一人の女性を指差す。

 村に入って出迎えられてから、常にシンリーの傍に仕えているのがずっと気になっていたのだが、彼女は側近か何かなのかな。


「ふむ、その目に装着しているものが、君の開発した小道具ということか。どういう効果があるんだい?」

「この子は生まれつき目が見えなかったの。だからこらは魔力を通して視覚情報を得る為の補助具よ」

「な、何と、そんな便利な物を開発したのか……!これは驚いたね……」

「ふん、機能だけ聞くと便利には思えるけど、残念ながら実際はそうでも無いわ」


 どうやらシンリーの傍に仕えている女性が装備しているものは、彼女に視力を与える為のものらしい。しかしそんな凄い発明をしているというのに、何故かシンリーはやけに冷めた表情をしていた。


「何か裏があるのか?」

「えぇ、これは装備していると言うよりは、体と一体化してると言った方が正しいわ。言わば彼女の体に、魔石で出来た道具を埋め込んで体の一部になる様に結合してるってこと」

「なっ、ま、魔石と体を融合させたってのか!?」

「ダーリンと魔獣達の融合とは比べ物にならない程に劣化品だけどね。一度結合させた魔石は彼女達の体の一部となって、もう取り外すことは出来ないわ」


 あまりにも衝撃の大きい内容に、プラチウムとシンリーの会話に俺は思わず割り込んでしまう。

 なぜなら、シンリーの開発した便利な小道具のデメリットは想像を絶する程に衝撃のものであったのだから。どうやら彼女は、人工的に人と魔石を融合させたということである。


「じゃあ、さっき俺達と戦ってた連中も似た様な感じなのかよ……」

「そうよ、彼らはそれぞれ体の一部が欠損していたから、それを私が補填してあげたの。手や足の形に加工した魔石をくっつけることでね」

「だからあいつらは、全員魔石を用いた戦闘をしてきたって訳か……」

「そういうこと。一度くっつけたら後は体内に流れる魔力と馴染んで、次第に最初から体の一部だったみたいに、本物の手足の如く自由に操れるって訳よ」


 シンリーは淡々と俺達が戦ってきた連中の解説を始める。

 最初にシンリーが彼らのことを実験体と呼んでいた意味が今ようやく分かった。この村に暮らす人間は全員、体に何かしらの障がいを持っていた為、それを彼女の研究によって補填した集まりだったと言う訳だ。

 となるとメルト達とは特に関係は無さそうである。まぁあいつらもシンリーと同じ手法を受けた連中かもしれないが。


「あの、こんなに沢山の人達一体どうやって集めたんですか?まさか街の噂通り本当にあなたが攫ってきたとか……」

「そんな訳無いでしょ。むしろ逆よ、あの街の連中が何かしら欠損のある子どもを森に捨てていくから、私が再利用してあげてるの」

「捨ててる?な、何でそんなことを……」

「今のご時世ではよくある話だよ。魔物が蔓延るこの世界では、己の身すらも守れない人間は簡単に魔物の餌食となる。だから、産まれた時からこの先生きていくのが厳しい程の障がいを持つ子供達は、親の手によって殺されるのさ」


 ネネティアがどうやってこれだけの数の人間を集めるのか疑問視したが、カラクリは非常に単純だった。噂を流していた街そのものが、この森の現状を生み出す原因を作っていたのだ。

 なんてことない簡単な話である。簡単で残虐で、そして途方も無い程に不快な話だ。

 プラチウムは区長という職業柄、そういった事情をよく把握しているのだろう。酷く乾ききった覇気の感じられない瞳で、この世界の黒い部分を無感情に語ってくれた。


「ほんと迷惑な話よ。この森で一人静かに研究してたら、あの街の連中はまるでゴミでも捨てるみたいに子どもを次々と置いていくんだから。だから勿体ないから私が実験台にしてあげたの」


 シンリーの言い分はかなり酷いものではあるが、行動を責めることなど俺には出来ない。それをするなら、大元の捨てた親達を咎めるべきであるし、もっと言うならこの世界そのものが原因なのだから。そんな状況で下らない私情を挟んでも仕方ない。そんなことは十分に理解している。


「ふざけるなよ……」


 だが、それでも俺はシンリーのその発言が無性に許せなかった。俺の怒りは自分勝手な理不尽なものである。

 だがそれでも、俺はどうしてもこの感情を抑えることが出来ない。昔からの知り合いが人間をまるで物のように扱うその態度が許せず、思わず彼女に反論するのだった。


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