五章 15.森の中の隠れ里
今後俺達の旅にはシンリーが同行することとなった。元々彼女が森に篭っていたのは俺の封印を解く研究をする為だったのだから、目の前に俺がいる以上森にこもる理由も無くなったのだろう。
だが彼女が今後同行するとなると、俺達の旅はまた一段と騒がしくなりそうな予感だ。
「シンリー様!ご無事ですか!?」
「ん?ああ、あんた達どこ行ってたのよ」
「申し訳ございません、侵入者の奇っ怪な術で森の外へ飛ばされておりました……すぐにこの者達を排除致しますのでしばしお待ちを!」
シンリーとの再会にも一段落した頃、森の外に飛ばしていたあの人型魔物達が再び戻ってきた。
そして敵部隊の姿を見て俺もようやく大事なことを思い出す。そう言えばこいつらとシンリーにどんな繋がりがあるのかを聞かなければいけなかったんだ。その回答次第では、俺はシンリーと敵対する可能性があるのだから。
「あれだけやったのに懲りない奴らだな。ならまた相手してやるからかかってこいよ」
敵部隊が臨戦態勢に入ったので、ひとまず抵抗の為に俺も警戒心を高める。先程までの戦闘で奴ら全員よりも俺の方が強いことは分かりきっているのだが、それでも奴らが戦うというのなら徹底的にやるだけだ。
「これ以上あなた達の好きにはさせませ――あれ?あなた、先程よりもずいぶんと頬が腫れていますね。何かあったのですか?」
「うるせぇな!そのことはほっとけ!」
再び戦闘を開始しようかという時に、敵の隊長が俺の頬がやけに腫れていることに気がついた。一応俺達は敵同士だというのに心配げに尋ねてきてこいつも結構天然な奴だな。
だが正直ほっぺたのことは今は触れてほしくないのでやめてくれ。
「?よく分かりませんが、手負いでも容赦はしませんよ!」
「上等だ、返り討ちにしてやる――」
「待ちなさいお前達!」
敵の隊長が仲間達に指示を出しとうとう動き出した。だから俺も戦う為に走り出そうとするのだが、それを止める高い声が森全体に響き渡る。
声の主はシンリーで、彼女は俺達の間に巨大なツルを何本も出現させ進行を妨害してきたのだ。
「シンリー様、何故止めるのですか?彼らは侵入者ですので排除しなければ……」
「もうその必要は無いわ。その連中は私の客人だから丁重にもてなしなさい」
「なんと、シンリー様の御客人でございましたか。これは失礼致しました」
戦闘を止めに入ったシンリーに疑問を持つ敵の隊長だったが、その理由を聞くと一瞬にして戦意を消失した。先程まで剥き出しだった敵対心が嘘の様に無くなっており不気味ですらある。
そのことからシンリーへの忠誠心の高さが伺えるのだが、それでもこの切り替えの速さは異様だ。そもそも何故人型魔物達は、そこまでシンリーを慕っているのかが気になるな。
「それじゃあダーリン、いつまでも立ち話もなんだし村へ案内するから着いてきてちょうだい」
「あ、ああ……てか、え?ちょっと待ってくれ!お前達はどういう関係なんだよ!?」
「細かい説明は村に帰ってからするけど、簡単に言うとこの子達は皆私の実験体ね」
「じ、実験体……?」
状況の変化についていけていない俺を置いて、どんどんと話を進めていくシンリーに待ったをかける俺だったが、彼女の返答に俺は余計に頭が混乱した。実験体って一体どういうことなんだよ。
「よ、よく分からないけど、取り敢えずお前達は俺達の敵じゃ無いってことか……?」
「何当たり前のこと言ってるのよ。私がダーリンの敵なわけないでしょっ」
「そ、そうか、なら今はそれで良しとしとくよ……」
「さぁ、気を取り直して村へしゅっぱーつ!」
取り敢えず、シンリー達は俺達の敵ではないという確認だけは出来た。最悪再び争うことも覚悟していた為、そうならないだけでも助かったと思っておこう。
そうしてまだまだ分からないことは多くある中、シンリー達に誘導されて俺達は彼女の言う村へと向かうのであった。
――
森の中を歩くこと約数十分、やがて俺達は木造建築が点々と建ち並ぶ彼女達の村へやって来た。
「凄いな、ほんとに森の中に隠れ里がある。噂通りじゃんか」
「噂?どういうことよ?」
「タマクモでは森に人が住んでいて村があるって噂が流れてたんだけど、まさにその通りだなって」
「ふーん、そんな噂が流れてたんだ。まぁ別にどうでもいいけど」
街で流れていた噂など所詮はほとんどが現実味の無い妄想だと思い込んでいたが、意外なことに間違っては居なかった。こうなってくると他の噂も信憑性が出てくるな。
後あった噂だと人攫いか。いや、これはさすがに嘘だろうな。人間嫌いのシンリーがわざわざそんなことをする意味が無い。
「シンリー様、お帰りなさいませ。その者達は村へ招待してよろしいのですか?」
「えぇ、私の客人だから問題は無いわ」
「かしこまりました。それでは皆様、歓迎致します」
街の噂と現実の擦り合わせをしていると、何やら不思議な目をした女性が俺達の前に現れて歓迎してきた。目と言うよりは、そこに覆われている器具と言うべきか。魔石で出来たバイザーらしきものを装着しており、視線がはっきりせず表情が読めない為、何を考えているのかよく分からない。
「アカリ、本当にここに入って大丈夫なのか?」
早速案内の元村へ入ろうとすると、ガゼルが不安そうに俺にそう問い掛けてきた。周りを見てみると他の面々も若干緊張している様子で、明らかにこの場所を警戒している。
確かに彼らはつい先程までシンリーとも戦っていた為、すんなり味方とは受け入れられないのだろう。彼らの不安を削ぐ為にも、ここは俺がちゃんと間に立っておかないとだな。
「シンリーはあんな性格だが信頼出来る奴だから安心していいと思うよ。まぁもしものことがあればクウに頼んで脱出するから心配すんな」
「クウー!(任せてー!)」
皆の不安を取り除く為にも、いざと言う時の脱出手段も伝えておく。緊急時の対策があるのなら、ある程度心にも余裕が出てくるだろう。
移動中に融合解除しておいたクウも、頭の上で任せておけと言わんばかりに可愛く鳴いた。
「あそこが私の研究室なんだけど、狭いから集会所を使うわ。借りてもいい?」
「もちろんでございます。ここにあるものは全てシンリー様のものなのですから」
「どうもね」
シンリーはツリーハウスの様になっている自室を指差しつつも、そこは狭いからと集会所へ誘導してくれる。確かにパッと見た感じではあまり広くは無さそうなので、あんな所にすし詰め状態にされなくてよかった。
「……しかし、よくよく見てみると村の人達は全体的に若いのが多いな。老人とかが全然見当たらない」
「それもちゃんと理由があるのよ。集会所に着いたら説明するわ」
「分かったよ」
村の中を見渡していると、ふと年齢層が全体的に若いことに気がついた。老人とかは皆の別の場所に居るのかとも思ったが、シンリー曰くそれにも理由があるらしい。
森の中に隠れるように存在していることや年齢層が偏っていることなど、この村には色々と秘密が多そうだ。
「とうちゃーく、ここが私の村の集会所よ」
「壁は無くてバカでかい屋根と演説台みたいなのがあるのみか。まんま集会るだけの場所って感じだな」
「ふふっ、効率重視に造ったからね〜」
案内されて到着した集会所は、屋根と柱が目立つ非常に簡単な造りになっていた。こんな森の中なら外へ情報が漏れる心配も無いだろうし、正に機能性のみを追求したって感じである。
「さてと、それじゃあ何から話そうかしら」
「なら取り敢えず、シンリーがこの場所で具体的に何をしていたか教えてくれるか?さっき言ってた実験体とか気になってたんだ」
「分かったわ、それじゃあ私がこの世界に戻って来てからの経緯を色々と説明するわね」
演説台に登ったシンリーが質問してきたので、まずは彼女がこの場所で何をしていたのかを聞くことにする。それが俺達がここに来た一番の目的でもあるからな。
こうして俺達は、シンリーの村で腰を休めるとじっくりと彼女の研究成果を拝聴するのだった。




