五章 14.シンリシンサ 後編
またもシンリーより強烈なビンタを受けてしまった。これで四度目だ。もう治療もしてくなくなってしまったので、俺の頬は先程から赤々と燃えたぎっている。
これ以上受けたらほっぺたが取れてしまいそうなので、これ以上は何としてもシンリーを刺激しないよう注意しなければ。
「はぁ、もういいわ、子供扱いされてもあんまり意味ないしね」
「あれ?それじゃあ俺殴られた意味無くね……?」
「それはあれよ。そんな気分だったの」
「無茶苦茶な理論だ……」
殴った当の本人は、何故か一人納得しむしろ受け入れてしまっていた。それじゃあ完全に俺の殴られ損である。
まぁ今更そんなことを愚痴愚痴言っても仕方の無いことなので、そういうものだと受け入れるしかないのだが。
「さてと、それじゃあ次はあなたにしましょ。あなたは何でダーリンと一緒にいる訳?」
「それはもちろん、私が王子様の下僕だからですよ先輩!」
気を取り直してという風に、シンリーは次のターゲットにリリフィナを定めた。そして恐らくそこは一番ヤバい答えが帰ってくるところである為、シンリーもそれなりに苦戦するだろうな。
「下僕?何ふざけたことを言ってるのよ。てか何で私が先輩な訳?」
「それはもちろん私が王子様の下僕で、同じ配下である魔人様方は私にとって先輩に当たるからですよ!」
「あなた少し頭がおかしいんじゃないの?戦闘の時も変なことしてたし、ダーリンの傍に危険人物は置いておけないわ」
リリフィナの奇抜な発言に不信感を覚えたシンリーは、彼女を危険人物と判定した。俺からしてみれば魔人達も同等の存在だと思うのだが、また殴られそうなのでそれは黙っておく。
それにしても、やはりシンリーでもリリフィナ相手には会話が成り立たず手を焼いている様だな。
「そんな!私は常に王子様を第一に考えております!どうかお許し下さい魔人様!」
「その王子様って呼び方も気持ち悪いのよ。あなたのダーリンを自分のものにしようという奥底の欲望が透けて見えるわ」
「ゔっ、そ、そんなことは無いですよ〜……!」
「図星ね、分かりやすい奴」
どうにかシンリーに取り入ろうと奮闘するリリフィナであったが、あっさり本性を見抜かれて切り捨てられてしまった。
リリフィナは顔立ちだけは本当に美人なのに、中身が残念過ぎて面白い程に釣り合ってないんだよな。そして魔王が大好きという奇特な趣味を持っているせいで友達もいないし、空回りし続けてて結果ひとりぼっちみたいなポジションになってる。
「それじゃあ最後はあなた達の番ね。二人はどうしてダーリンと一緒にいるの?」
「私が元々魔王を復活させたのは、この世界を救って欲しいからよ。だからその任を果たしてもらうために近くで見続けてるの。封印を解いた責任もあるしね」
「私はただマリナに着いてきてるだけだから気にしなくていいわよ〜」
最後に問い掛けられたのはマリナとセルシー先輩だった。セルシー先輩は当たり障りのない受け答えをしている為恐らくシンリーもそこまで噛みつきはしないだろう。
そうなるとやはり問題となるのはマリナか。俺を復活させた張本人であり彼女はその目的もはっきりとしているが、それ故にシンリーの琴線を逆撫でする可能性は非常に高い。
「この世界を救う?ふざけたこと抜かさないで。お前達人間がこれまでしてきたことを考えれば、こんな世界滅びた方がましよ……!」
「私がしてきたこと?」
「えぇ、魔獣を金儲けの手段としか見ず、獣人族を奴隷としてか見てこず、自分本位に生きてきた報いが今来たってこと!だからそんなことの為に私のダーリンを巻き込まないでよ!」
シンリーは基本的に人間が嫌いだ。それは彼女の過去に原因があり、それが彼女を森に篭らせてしまったことにも繋がっている。
だからそんな嫌いな人間のいるこの世界を救う為に俺を復活させたという、マリナのその目的が許せないのだろう。
「た、確かに何百年か前にはそういうそんな歴史があったのは知ってるわ。でも今は世界そのものの存亡の危機であって、アカリ本人も救うのに協力してくれるって言ってるのよ。それの何が問題あるわけ?」
「そういう自分勝手な考えが嫌いだって言ってるの。そんな歴史があった?何勝手にもう過去の過ぎたことみたいに扱ってるのよ。お前達人間が変わらないから、ダーリンが世界を創造して移住させる以外に、獣人族達を救う方法が無かったんじゃないの!」
「で、でも……それは……」
「落ち着けシンリー。俺達にとっては実体験のものでもマリナ達はもう過去のことなんだよ。そして歴史に埋もれるようになったのは全て両者を隔離した俺の責任だ。彼女らにはなんの罪も無い」
マリナとシンリーは共に世界の為を思い己の意見をぶつけ合っていた。随分とスケールの大きい話ではあるが、実際に俺は世界に干渉出来るだけの力がある為全く他人事ではない。
だが、だからこそ彼女らの口論をこれ以上続けさせる訳にはいかなかった。どちらの意見も間違いではなく、そしてそれを成すのはこの俺自身なのだから。二人が言い争う必要など全くない。
「ねぇ、ダーリンはどうしてこんな酷い世界を救おうと思ったの……?」
「それはまぁ、封印を解いてもらったって恩もあるけど、俺は四百年前の友達が暮らしていたこの世界を救いたいんだよ。それに今も新しい大切な仲間達に出会えたからな!」
「……そっか、分かったわ。ダーリンが納得してるんなら、もうそのことに関しては私は何も言わない。でも私はこんな世界嫌いだけどね」
「それで十分さ。ありがとうなシンリー」
俺自身が人間だからというのもあるが、俺はこの世界を滅んで欲しいと思える程嫌いではない。今も昔も大切な仲間達が暮らしてきたこの世界を守る為なら、俺は喜んで体を張れるってもんだ。
シンリーは基本的に俺の見方でいてくれる為、俺がしたいことに強く否定はしてこない。我慢させてしまうのは申し訳ないが、必ず悪いようにはしないからそれで許してもらおう。
「まぁでもそれとこれとは話は別よ。これであなた達の審査は全て終了ね!それじゃああなた達がダーリンに相応しいかどうか結果を伝えるわ!」
「ああ、そう言えばそんな理由で全員を問い詰めてたんだったな」
俺がこの世界ですることをシンリーは納得してくれた。だがそれと彼女達が今後も俺と同行していいかは、話が別らしい。正直何でシンリーにそんなことを決められなければいけないのかは謎だが、まぁ一旦は最後まで話を聞いてみよう。
「それじゃあ今後ダーリンと行動を共にしていいのは……この私よ!それ以外は全員失格、相応しくないからこの場からとっとと立ち去りなさい!」
「「「何でだよ!」」」
「まぁ、そんなことを言う気はしてたよ……」
シンリーの審査結果に全員が揃って突っ込みを入れる中、俺だけは結果が薄々見えていた為ため息しか出てこない。この魔人が真面目に審査なんかする訳ないんだよ。
「はいはい、それじゃあこれで茶番は終わりな。もう満足しただろ?」
「茶番じゃないわよ!私は本気だからね!」
「そんなこと言ったってお前の独断で決めさせる訳ないだろうが。第一俺とお前だけで行動してたら世間知らずと引きこもりって組み合わせになるんだから、一瞬で路頭に迷う未来が見える」
一応半年はこの世界で暮らしてきたが、それでも四百年前の知識がほとんどである俺と、方や森で永遠と引きこもっていた奴の組み合わせなど最悪でしかない。絶対何も出来ないまま何年も経過する気がする。
「でも仲間に女がいっぱいいるのは許せないわ」
「はぁ、じゃあもうそんなに気になるならお前も一緒に来るか?まだ会ったばかりでお互いのことなんか大して理解してないんだし、近くにいれば俺達の関係もよく分かるだろうよ」
「……なるほど、確かにそれもそうね。ダーリンの側にいて私がちゃんと監視しておけばいいってことか!」
「いや、監視しろとは言ってないが……」
もうここでごちゃごちゃと議論するのも疲れてきたので、面倒臭いからシンリーも旅に同行するよう勧めてみたのだが、これに彼女は思いの外簡単に乗ってきた。まだ妙な目論見はあるみたいだが、ひとまずはこれで解決だろう。
「それじゃあこれからはまた一緒に居ようねダーリン!」
「ああ、こっちこそよろしくな」
ともあれこうして、新たに俺達の旅に森の魔人シンリーが同行することとなったのである。




