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四章 46.真の実力差

 せっかく丸く収まりかけていたというのに、問題を起こした張本人が何故か話をひっくり返して来た。こいつは何がしたいのか全く分からないが、そこまで馬鹿にされては俺も黙ってはいられない。


「おいラリヤ!さっきも説明したが、アカリ君は我らシュナーベル家にとってとても大恩ある人物なんだ!今すぐ謝罪しろ!」

「はい、あの事件を救ったという話は聞きました。ですが到底信じられませんね、我らとやり合っていた時の彼は非常に弱かったというのに、主を救い出せるとはとても思えません」

「なっ、何を――」


 ラリヤの反論に区長が怒り狂いそうになっていたが、そんな彼を俺は止める。喧嘩を売られているのは俺なのだから、その対応は俺がさせてもらおう。


「なら逆に聞くが、お前達はあの事件の時何をしてたんだよ?直属の警護兵が何で区長を救出するあの場にいなかったんだ?」

「そっ、それは……我々は奴らに敗れ、気を失っていた……」

「おいおい、偉そうなこと言っておいて守れてないのはお前の方じゃねぇかよ。弱い奴は黙ってろよ」

「その我らよりお前の方が弱かっただろうが!」


 だんだんとラリヤが何故こうも俺に噛み付いてくるのかが分かってきた。どうやらこいつは俺を散々ボコボコにしていた影響で、自分より弱い奴が区長を救ったという話が信じられなくなったのだろう。


「ふん、どうせ奴らを倒した時も運良く敵が弱っていただけに違いない。でなければ我らが負けた相手にお前が勝つなど有り得ないからな」

「くははははっ!運良くか、運だけであんな化け物共に勝てたら苦労はしないんだがな。それにしても、そこまで言われたら俺も黙ってはいられない。なら本当の力を教えてやるから表出ろよ」

「何?そんな治りかけの状態で私とやり合うというのか?」

「お前程度にこんな傷無いも同然だよ」


 いくら言葉で説明しようともこの女は納得することは無い。そう感じた俺は、これ以上無駄なことを語るのは止め、実力をもって全てを教えてやることにした。


「ふん、ならば私が勝利したら二度と主様に近づくことは許さんぞ」

「お前こそ負けたらきっちり下僕にしてやるから覚悟しとけ」


 この時を待っていたとばかりに、ラリヤは謎の条件を突き出して不敵な笑みを浮かべ出した。恐らくはもう勝利を確信しているのだろう。ならその性根はきちんと叩き潰して、どちらが上かしっかり証明してあげなければ。


 そうして俺とラリヤの決闘が決まり、俺達は再び外へと移動するのだった。












 ――













 外に出て構える俺達だが、その前に俺はちゃっかりクウとの融合を済ませている。なにせラリヤはあの人型魔物を倒した時の俺をご所望だからな。期待には全力で応えなければ。

 もちろん融合体はローブで隠してあるが。


「ふん、偉そうなことをのたまう割には、先程と何も変わらない――なっ!?」

「随分と軽いパンチだな。まさかこれで全力か?」


 先に動いたのはラリヤの方だった。彼女は俺の目の前まで距離を詰めると、そのままの勢いでついさっきまでいたぶっていた時と同じように拳を振るってくる。

 だが魔力操作で肉体を強化している俺に、最早一般人の拳程度が通用するはずも無い。俺は避けようとすらせず、顔面でその拳を受け止めてみせた。


「ぐっ、どうなっている?攻撃はさっきと何も変わらない、奴も特に大きく変化した様子は無いというのに、一体何が変わったというのだ……!?」

「まぁ魔道兵器に頼りきりのお前らじゃ、強さの本質には気づけないか」

『クアクアッ!(フレッフレッアカリッ!やっちゃえやっちゃえアカリー!)』


 顔面に拳を受けてもビクともしない俺にラリヤは驚愕し、俺の脳内ではクウの応援歌が響き渡る。俺がボロボロになってクウもだいぶ怒りを露わにしていたからな。分かりやすいリベンジの機会に昂っているのだろう。


「くっ、このっ!」

「無駄だ、もうお前の攻撃じゃ俺はビクともしねぇよ」


 ラリヤは明らかな苛立ちを見せながら連続で俺を殴りつけてくる。つい先程ならそのラッシュで俺は痣だらけにされていたところだ。

 しかし魔力を操作して全身を強化している今の俺にとっては、何の意味も無い攻撃である。そろそろ実力差を見せつけて、この不毛な戦いの幕を引くとしよう。


「くそぉ!何故私の攻撃が通用しなくなった!?」

「無知なお前に教えてやるよ。これが俺とお前達の間にある決定的な力の差だ!」

「がうぅっ!」


 相手は一応女性なので顔や腹は避け、薙ぎ払うように右腕に回し蹴りを浴びせてやる。その結果衝撃によって大きく吹き飛ばされたラリヤは、奇妙な断末魔を上げながら無様に地面を転がった。見事なまでに、つい先程まで俺がやられていた格好と同だ。

 ストレス発散の八つ当たりは良くないと思ってはいたが、いざやってみると思いの外スッキリするものである。これで俺の鬱憤もだいぶ晴らされた。


「なっ、い、一撃で動けなく、なるだと……!」

「おぉー、まだ意識はあるのか。普通に気絶させる勢いで蹴ったつもりだったんだが、さすがは区長直属の警護兵だな。優秀優秀」


 完全に意識を刈り取る気で蹴ったのだが、ラリヤは地面に這いつくばりながらも声を上げている。一応区長を警護するだけはあって、それなりに実力は兼ね備えているらしい。


「すまないアカリ君。これでラリヤも君の実力を理解してくれるだろうから、私の顔に免じて許してやってくれないか?」

「一発入れれて俺も満足だし、こっちはそれで問題無いぜ」

「ありがとう」


 もう勝負は着いたと判断したのか、区長が部下の失態を改めて詫びてきた。俺としてももうそこまで怒ってはいないので、これでこの件はお終いでいい。ただししばらく雑用だけはきちんとこなしてもらうがな。


「そういや俺、いつの間にか区長にタメ口で話してたな。ごめんなさい」

「いやいや、むしろその方が距離感が縮まって私は嬉しいよ。それにここだけの話、魔王様に敬語を使われては私も心苦しかったのでな」

「そう?まぁ区長がいいなら、せっかくだしもう敬語はやめることにするよ」


 イラついていたせいでいつの間にか礼儀作法がどこかへ行ってしまっていたことに気づき、俺はすぐさま謝罪した。だが区長も俺がタメ口で話してくれた方が気が楽ということなので、もうこの際だからやめることにする。


「それがありがたいよ。なら敬語をやめるついでに、是非私のことはプラチウムと呼び捨てにしてくれないか?区長なんて他人行儀な呼び方、私達の仲には相応しくないだろう」

「?いや、別にそこまで仲良くなった気はしてないけど、まぁ名前呼びがいいなら了解だ」


 敬語をやめることになり、区長は流れで呼び方も変えてきた。

 俺は別に区長とそこまで仲良くなったつもりは無いし、なんならお偉いさんとの絡みは面倒事が多そうだから出来るだけ距離を置きたい気でいたのだが、まぁ本人が望むならプラチウムと呼んでおこう。


「よしよし、これで外堀は少しずつ埋めていけているな。ルトリィとも仲良くなっているようだし上々だ」

「ん?何か言ったか?」

「いやいや、何でもないよ!ともかくこれからも娘共々よろしくなアカリ君」

「お、おう、わかったよプラチウム……」


 プラチウムが何やらボソボソと言っていたので何かと思ったが、それはただの独り言だったらしい。たどたどしく肩を組んで来て怪しさ満点だが、そろそろこの人との絡みも面倒くさくなってきたから適当に流す。


「さてと。それじゃあラリヤ、勝ったのは俺なんだから約束は守れよ?」

「……ああ、約束は約束だ。貴様がこの街で活動する間は、雑用でも何でもしてやる」

「なははっ!口は悪いがそれはそれで面白いから良しとしよう。これからよろしくな雑用担当っ!」

「ちっ、分かっている……!」


 負けてもなお態度だけは変わらないラリヤが面白くて笑いが込み上げてきた。心は屈せずとも従順に従うその矛盾性が非常にツボに来るな。

 ともかくこうして、俺は区長改めプラチウムと仲直りをし、この街での雑用係を手に入れたのだった。


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