四章 45.俺の評価おかしくない?
応急処置のお陰である程度回復し皆と雑談をしていると、区長が俺の元までやって来た。そして彼の後ろには俺をこんな有様にした張本人である女隊長らも並んでいる。彼女らの顔はやけに沈んでおり、そのことから俺が処置を受けている間に区長にこってりと絞られたであろうことが伺える。
「皆本当にすまないことをした。私がもっとよく状況を確認していればこんな事態にはならなかったというのに。全ての責任は私にある……」
「お兄ちゃんはあたしと遊んでただけなのに虐めるなんて、パパ嫌い!」
「ぐぬぅ、か、返す言葉も無い……!」
区長は一度全員に一瞥を向けると、改めて今回の件に関し深く謝罪してくる。
だが、そんな区長に向かって愛娘であるルトリィは非常に厳しい評価を下した。子供から放たれる直球の言葉には、区長も何も言い返すことが出来ず悲しげに顔を歪ませている。こういう時子供の言葉というのは強烈に響くのが通例であり、例に漏れず区長も相当効いている様子だ。
「はっはっは!確かにルトリィの言う通りだよな。俺は一人でいたルトリィを心配して一緒にいただけだってのに、誘拐犯扱いして縄で縛って随分な扱いをさせた上に、こんなになるまで暴行されたんだからよ」
「貴様ぁ、こちらが下手に出れば図に乗って――」
「お前は余計な口を挟むな!アカリ君の言う通り、全てこちらが悪いんだ」
「ぐっ、も、申し訳ございません……!」
俺はここぞとばかりに立て続けに先程やられた仕打ちを盛大に並べていく。非常に気分がいいのでつい高笑いまでしてしまったが、そんな俺の態度気に入らなかったのか、が女隊長は目付きを鋭くさせて口を挟んでくる。
だが、向こうに反論の余地が無いことは区長が一番分かっている為、即座に彼女を止めに入り叱りつけた。さっきまで俺をいたぶってた奴が抵抗出来ない状況というのは、なかなかにいい光景だ。
「で?この後はどうすんだよ。まさか言葉だけで終わりなんて、そんなつまんない話はさすがに無いよなぁ?」
「無論だ、アカリ君が望むものは全て差し出そう。同じ痛みを与えたいと言うのなら、それらも全て受け入れる所存だ」
女隊長に余計な茶々を入れられたが、気を取り直して俺は笑いながら話を続けた。ただ自分で自分の顔は見えないが、恐らく相当悪い顔をしていることだけは予想出来る。
「お兄ちゃん、ラリヤ達を虐めるの?」
「別にそのつもりは無いよ。いちいち殴り返すなんて面倒だし疲れるだけだから、そういう仕返しの仕方はしないから安心しろ」
「そっ、よかったー!」
区長が殴り返してきてもいいとか人聞きの悪いことを言い出したから、ルトリィが心配そうに俺を見上げてきた。女隊長は俺に暴行を加えた張本人とはいえ、幼女も世話になっている相手であろう為、そんな光景は見たくないのだろう。
無論俺もそんなストレス発散みたいな方法でこの一件を終わらせるつもりは無いので、ルトリィに心配いらないと微笑む。
それにしても、女隊長の名前はラリヤというのか。今更知ったけど、まぁ別に知らなくてもどっちでもいいな。
「なら、アカリ君は何が望みなんだ?出来るだけ君の要望には応えるつもりだよ」
「そうだな〜、何をさせてやろうか……」
報復目的の暴行は無しと明言すると、区長は改めて俺に要望の詳細を聞き出してきた。だが冷静になって考えてみると、特にさせたいことも思いつかないな。
俺は自分の失態に気づいた女隊長達の、悔しげな顔さえ見れれば正直満足だったし。
「あ、兄貴、さすがに子供の前なんだしやり過ぎは良くないと思うよ?」
「アカリ君の気持ちもよく分かりますが、ここは大人な対応を見せて下さい」
「同感だ、どうせお前のことだからこうなることを見越して、わざとやられていたんだろ?なら程々にしておかないと、冗談じゃ済まなくなるぞ」
「えぇっ!?お前らなんか、急に俺の評価悪くなってない……?」
どんな罰を与えようか悩んでいると、何故か仲間達から抑えめにしろと忠告を受けてしまった。一体どういうことだろうか、まさかあっち側に同情する程に俺は悪い顔をしていたのだろうか。
「皆の言う通りよ、今回の件も元はと言えばあんたが怪しい行動をしてたのが原因なんだから」
「確かにアカリ君は、傍から見ると悪人感が強いものね〜」
ガゼル達に便乗する様に、マリナとセルシー先輩まで小言を挟んできやがった。マリナなんかは俺にも悪い部分はあるとか言い出したし、セルシー先輩に至ってはもうただの感想じゃねーか。
でもそんな意見ばかり聞くと、自分が間違ってるのかと思えてくるから不思議なものだ。あれ、今回の件って結局俺が悪いんだっけ?
「お前らもかよ。なんかそこまで言われると、俺まで自分が悪かんったんじゃないかと錯覚してきた……」
「大丈夫ですよ王子様!私はどんな王子様になりうともお慕いしていきますから!」
「おい!それってもう俺が悪いことを認めてるじゃねーかよ!」
「あっ、ご、ごめんなさい……」
そしてリリフィナは、最早俺が悪いことを前提に何か言い出してきた。こいつは天然で言ってるのか、理解して言っているのか、本当に良く分からない奴だよ。何でこんな意味分からないのが、魔王を慕ってるんだか。
「アカリ様、一応私達のしてしまったことは何も変わりないのですから、そんなに悩む必要はないと思いますよ……?」
「ああ、我々はアカリ君にはきちんと謝罪させて欲しいんだから、何も気にする必要はないさ」
仲間達のせいで何が悪いのか分からなくなってしまった。そしてそんな俺を何故か区長達がフォローしてくるという、もう正直意味の分からない状況になっている。
「あーくそっ!じゃあもうお前らには、俺がこの街にいる間ずっと雑用をしてもらう!それが今回のことに対する罰だ!」
「そ、そんなことでいいのかいアカリ君……?」
「俺が知るかよ!もうどうでも良くなっただけだ!」
「わ、分かった……ならばこの街での雑務は全て私達が務めさせてもらう!」
頭の中が混乱してきて訳が分からなくなってしまった俺は、意味の分からない報復で話を無理やり終わらせてしまった。なんだよ雑用って、区長もそんなことでいいのかと完全に戸惑っちまってるし。
はぁ、これじゃ本当にただの殴られ損だったな。全く無駄なことをした。
「こうなったら荷物持ちとか、そういうことバンバン押し付けていくから覚悟しとけよ」
「もちろんだ。では彼らの身の回りの世話は任せたぞラリヤ」
「……嫌です、やはり私はこんな適当な人間の下になどつきたくはありません!」
やけくそになった俺はこれからめいいっぱい雑務を押し付けようと決心したのだが、その罰をあろうことか俺に暴行を加えてきたラリヤ本人が断ってきた。こいつ一体どういう神経をしてるんだか。
「おい、こっちが譲ってやってんのに嫌とはどういうつもりだ?」
「言葉通りの意味だ。主様にどう付け入ったかは知らないが、貴様のような悪人面をした危険人物とは関わりたくないと言っているんだよ」
「……ほほぉ、随分と馬鹿にしてくれるじゃねぇか」
「ふん、貴様のその化けの皮もこの場で剥がしてやってもいいんだぞ?」
せっかく纏まりかけていた話を、あろうことか向こうのやらかした人間が再び引っ掻き回して来た。これはもう、区長がどうこうという問題では無いな。
俺とこいつは馬が合わない、そのことが今回の一件でよく分かった。
しかし向こうがその気なら、俺ももう好きにさせてもらうことにしよう。




