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一章 11.魔王を復活させたのは間違いだった

 〜マリナ視点〜


 世界を救うためには強者に頼るしかない。

 この魔王の世界に来るまでは、そう思っていた時期が私にもあったわ。

 でもそれはもう違う。


「お、おかしいわ……」

「あ?何がだよ?」


 実際に魔王と手合わせして分かってしまった。この魔王という存在が恐ろしく弱いことに。

 いや、一般人と比べたら多少は戦いの心得があるみたいだけど、でもまるで私の足元にも及んでいない。

 あんなのが初代勇者様と渡り合った魔王とは、到底思えないわ。


「だって弱過ぎるでしょ!さっきの発言は何だったのよ!」

「はぁ?別に間違ってないだろ。戦ったら死人が出るぞって言っただろうが」


 えぇ、そんな子供みたいな……。

 確かに、一方的に戦いを挑んでおきながら相手を弱いと蔑むなんて、大人気ない対応をしているのは分かってるわ。

 でも、しょうがないじゃない。だって、まさか自分の心配をしてたなんて誰が予想するのよ!


「自分のこと言ってたのかよ!」

「当たり前だろうが。だから戦うのは止めとこうぜって言おうとしたのに、いきなり斬りかかって気やがって。お前俺を殺す気か」

「魔王が弱いなんて誰が想像するのよ!」


 だって魔王よ!「魔」の「王」なの。王がつく以上それなりの強さを期待したっていいじゃない。


「魔王だから強いってのはお前が勝手に思い込んでただけだろうが。俺の責任じゃねぇよ」

「はぁ……、確かにマリス様と渡り合ったと言われるくらいだから物凄く化け物じみた強さを持ってるんだと思ってたけど、どうやら私の勘違いだったみたいね」


 叫んだことでようやく勢いも落ち着いてきたけど、私の中にはまだ胸の内に妙なむかむかが残っていた。

 本当はこんなことを言うつもりなんてないのに、でもこの人に会うために私は半年も費やしたのかと思うと、どうしても我慢できなかったのよ。

 だから私は止まることなく、全てを彼にぶつけてしまった。


「分かった、そこまで言うなら俺にも考えがあるぞ」

「ん?考えって何――」

「クウゥゥゥゥゥウ!」


 魔王の考えとやらを是非聞かせて頂きたいと思ったところで、何がこの場に割り込んできた。

 今日の私の勢いならそんな乱入者一蹴してしまうところだけど、でもその者を前にしてそれは出来なかったわ。

 いや、その獣を前にしては。


「クウか!」

「クアァー!」


 何も無いところから突然その小さなドラゴンは姿を現し、魔王に妙に親しげに抱きつきだしたのよ。

 そして魔王はその竜を相手に、独り言をし始める始末。はっきり言って気味が悪いわ。

 まぁ気味の悪い魔王は一旦置いておくとして、問題はこのドラゴンね。可愛い顔をしてるけど、明らかにヤバい雰囲気を醸し出しているわ。

 このまま放置しておくと、私の身まで危険が及ぶ可能性があるわね。


「あのー、そろそろいいかな?さっきから何ブツブツと独り言言ってるの?」

「え?ああ、いや別に独り言じゃねーよ。俺は魔道具のお陰で魔獣の言葉の意味が分かるんだ」


 魔道具の力で話せるとか言い出したが、にわかには信じ難い。まぁ今はそういうことにしておきましょう。

 まずは平静を装って、あのドラゴンの詳細を聞き出さないと。


「そうなんだ。まぁそれはいいとして、その生き物なんなのよ?」

「こいつはクウって言うんだ。伝説の竜とか呼ばれてて、ちょっと凄い奴なんだぜ」

「えっ?それってつまり四百年間生きてたってこと!?」

「まぁ、そうなるな。でもクウなら当たり前だろ?」

「いや、当たり前とか知らないけど……」


 何が当たり前だか分からないけど、四百年も生き続けているというのはどう考えても異常だ。

 もしかしてあの竜こそが魔王の強さの秘訣なのかしら。


「殿ぉぉぉぉぉお!」

「今度は何!?」


 クウとかいう驚異的な存在だけで手一杯だというのに、またも乱入者が現れた。

 ただ今度はちゃんと人の姿をしてるようだけど、残念ながらまともなのは姿だけで、そいつもまたヤバいオーラを放ってる。

 こいつの周りの交友関係は一体どうなってるのよ!


「しかし、我々が知力を尽くしても解けなかった封印がなぜこのタイミングで解けたんぜよか?」

「ははっ、お前らは知力って柄じゃないだろうが。まぁここにいるマリナが封印を解いてくれたんだよ」

「むっ、そうだったか。魔人を代表して礼を言う、かたじけないぜよ」

「あ、うん、どういたしまして……」


 新たな脅威の登場に一人戦慄していると、なぜかその相手にお礼を言われてしまった。

 もう訳が分からないわ。


「何なの、この人達……」


 必死に平静を装っていたけど、それももう限界。さすがにこの状況じゃ動揺の一つくらいするわよ。







 ――







 その後も魔王とその周りでは色々なことがあり過ぎて、私の脳では処理しきれなかった。

 最初はただの凡人かと思ったけど、あれだけの数の魔獣を支配してるだなんてはっきり言って異常よ。

 やっぱりあの人望こそが魔王の力ということなのかしら。


「じゃあ頼むぞマリナ」

「はぁ……、もうどうとでもなれだわ。魔力解放!」


 魔王に頼まれて私は半ばやけくそ気味に魔力解放を発動させた。

 すると来た時と同じように空に黒い穴が開き、私と魔王、そしてクウとかいうドラゴンは一緒に吸い込まれていく。

 もうこんな世界、懲り懲りね……。


「痛っ……や、やっと帰ってこれたわ――」


 穴からの落下の衝撃で頭を打っちゃったけど、やっと帰ってこれたことを喜ぼうとした。

 だけどあいつがそれをさせてくれなかった。

 そう、魔王の世界へ行く直前まで戦っていたあのゴリラ型の魔物が。


「また……、またなのね……!」


 帰ってきて早々問題発生なんてついてないけど、そんなこと言ってる場合じゃない。

 こいつを相手にするなら、一瞬の油断も許されないのだから。


「魔王は行って。あなた達が逃げる時間くらいは稼いでみせるわ!」


 魔王の力については多少は認めてきてはいるけど、それでも今の状況じゃ足でまといであることに変わりわないわ。

 私が連れて来ちゃったんだから、せめて責任は持たないと。


「俺達の心配はいらねぇからお前こそ下がってろよ」

「で、でもあなた達じゃ……!」

「いいから下がってな。封印を解いてくれた礼に俺とクウの力、見せてやるよ」

「クウ!」


 私は死を覚悟してゴリラの前に立っているというのに、あの男は平然と私の横をすり抜けて前へと出て行った。

 ほんとに何なのよあいつ。そんなに死にたいの!?


「ウホホオオォー!」

「うおっ!結構速いな……!」


 え、なんで……?

 さっき私と戦った時と動きが違う……。


「へっ、魔力さえあればこの程度大したことない……ぜ!」

「ウホォッ!?」


 避けるだけじゃなく、反撃まで加えてるなんてどうなってるのよ……。

 さっき私と戦った時は手を抜いていたってこと?


「いくら魔力があるとはいえ、やっぱ俺だけじゃ火力不足だよな……。よし、クウ!融合するぞ!」

「クウッ!(やっと出番だー!)」


 眩しっ……!何よ急に、何であいつら急に光だしてるの!?


「な、なんなのあれ……」

「この感じも、久しぶりな気がするな……」


 う、そ……、何よあの姿は……。

 確か融合って言ってたけど、え?ほんとに言葉通りの意味なわけ?

 日記にもそんなことが書かれてた気がするけど、何かの表現とか暗喩とかそういう意味だと思ってた。でもまさか、そのまま言葉通りの意味だったの!?


「今度はこっちの反撃だ。覚悟しろよウホウホゴリラ」

「ウホッ!?ウホオォォー!」

「お前程度の攻撃なんぞ、もう動いて避けるまでもないな」

「ウボォッ!」


 何あれ!?何でゴリラの拳がゴリラ自身に跳ね返ってくるのよ!

 魔王はちょっと手を挙げただけなのに、何でそんなことになるわけ!?


「へっ、これがクウの能力だ。もうお前の攻撃は俺達には通用しねぇよ」


 クウの力って、なんて無茶苦茶な力を持ってるのよ……。

 あんなの反則じゃない!


「ウ、ウホオオォォォー!」

「無駄無駄、何度やっても結果は同じだ」

「ウ、ウホォー……!」


 私があんなに苦戦したゴリラをこんな一方的に……。

 はぁ、自信無くしちゃうわね。

 これって私達が弱過ぎるの?あいつが強過ぎるの?

 四百年前ってあれが普通だったのかな。もしそうなら私って一体……。


「さーて、お前如きを相手にいつまでも時間掛けてらんねーからな。そろそろ決めさせてもらうぜ!」

「ウホ、ォ……」


 あ、もうゴリラ倒しちゃった。

 私なんて逃げるので精一杯だったのに、あいつは赤子を捻るように随分と余裕そうだったわね。

 これもしかして、私とんでもない奴を復活させちゃったんじゃないの……?


「おーいマリナー、勝ったぞー!」


 なんかゴリラ倒した魔王が嬉しそうにこっちに手を振ってるわね。

 そんなに強さを自慢したいわけ?

 まぁおそらくあの顔からして何も考えてないんでしょうけど、それでもムカつくわね。


「……ぎよ」

「え?なんて?」

「強過ぎるって言ったのよ!」

「えぇー……、なんだよその無茶苦茶なわがままは」


 わがまま?何言ってるのよ。それを言うならあなたのその強さの方が、よっぽどわがままじゃない。

 相手の攻撃はそのまま返して、ついでに自分の攻撃も加えるなんて反則もいいとこよ!


 これは、最初に感じたのとは違う意味で、魔王を復活させたのは間違いだったんじゃないかと本気で思うわ。

 この先どうなるのかしら……。


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