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42:得手不得手がありまして?

「でもちょっと待って。なんか様子がおかしいわよ」

「え?」


 魔物に対峙すべく岩陰に身をひそめようとしていたリアンは、エルドアの言葉に動きを止めた。見れば、周りにいるウルフェン達もいつものような警戒行動を取っていない。


「え、あれ…?」


 魔素の渦が赤と金にその色を変えると、やがてその中心から先ほどまで戦っていたロイヤルグリフィンの姿が現れる。だがそれはリアンが見たどの個体よりも少し小さく、巨大な猫に翼が生えたような随分可愛らしい姿をしていた。ロイヤルグリフィンの子供、…というより、ここまで小さければ最早亜種だろうか。


「ミャァアアアン!」


 バサッと羽をはばたかせるグリフィンを見て、リアンは目を丸くした。


(……何これ、フツーに可愛いんですけど…)


 生まれたてのロイヤルグリフィンは、高い声でひと鳴きすると、けふけふとむせたように口から火を吐きだす。

 鑑定するとその名前は『スモールグリュプス』。やはりロイヤルグリフィンとは異なるらしい。

 だがそれより問題なのは…、


『リアン、こいつ仲間にシチャえば?』


 …従僕化、出来そうなのである。


「風と火ね。属性もいいしテイムしちゃえば?」


 フェンの言葉に続いて、エルドアまで同じことを言いだす。

 だがリアンはためらった。


「あれだけロイヤルグリフィンを倒しておいて、この子を仲間にするって。…罪悪感ハンパないんですけど…」

「大丈夫よ。魔物にそういうのはないから、キニシナイキニシナイ」

『ダイジョブ、ダイジョブ』

「ほぁ、…みんながそう言うなら…」


 生まれたてのスモールグリュプスは、そのオレンジ色の瞳でリアンを見ると、小さい翼をはためかせよたよたと近づいてきた。よもや樹海内の魔物がテイム出来ようとは思っていなかったためリアンは戸惑ったが、火属性の魔物が仲間になってくれるのはありがたい。そして何より可愛い。猫のような顔立ちに一生懸命羽ばたかせる翼が、究極的に可愛いのだ。

 魔物とはいえ、敵対行動も取らずリアンに魅了されている姿を見て、こんな場所に置いて去れるわけもない。


「じゃあ、あの。これからよろしく…ね?」

「ミャァ!」


 ステータス画面を開くと空飛ぶ猫のようなスモールグリュプスと契約を結ぶ。

 こうしてまた一匹、リアンは強力な仲間を増やすことに成功したのである。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「エルドアさん、またさっきみたいなの相手にするなら、少し休みたいんですけども…」


 休む間もなく歩き始めたエルドアにそう言うと、彼女は赤い髪をひるがえして「大丈夫」と言った。


「次は私が相手をするから」

「ほぇ…? 巨人の魔術使いでしたっけ。強いんですか?」

「強いっていうか、…厄介ね。魔法耐性が強くてほとんど効かないの」

「魔法が、効かない…? そんな魔物いるんですか?」

「彼等はちょっと特殊でね…」


 そう言うエルドアの顔は、彼女にしては珍しく浮かない。

 思えば『巨人』などと言う魔物がいたことも初耳だ。確か、魔物はこの世界に存在する生物を模倣しているものが多かったはずだ。であれば、その巨人の姿の元となった者は…、


「リアンちゃんの考えていることは、概ねあってると思うわよ」


 巨人と呼ばれる魔物は、リアンの想像した通り人の姿を模しているという。

 しかも巨人の魔術使いというだけあって、巨人は他にも剣士や格闘家。中には僧侶と呼ばれる回復役までいるらしい。まるで人間の冒険者パーティのようだ。同じ種族ながら、異なる生態・役割を持ちコミュニティを築いている。魔物に知能はほぼないに等しいため、あくまでも『そう見えるだけ』なのだろうが、チームワークとも呼べる役割分担をして襲ってくるため、S級冒険者の中でも巨人を相手にするのは苦手な者が多いらしい。


「いつもは洞窟の中引き籠ってるし数が多いわけじゃないから、放置する冒険者が多いんだけど…」


 でも、ドロップは軒並み美味しいのよねぇ…とエルドアは呟く。


「倒す冒険者がいないから、レアリティが上がってるってことですか?」

「それだけじゃないわ。魔術師が落とす『イグニートディリル』と剣士系が落とす『マグヌスディリル』。通称ディリル系と呼ばれる石の効果はどちらも意思疎通範囲の拡大。離れた場所にいる相手と連絡を取りたい時、必須とさえ言われる宝石よ」

「…つまり、少しでも早く情報を取り合いたい時に必要。…ね、エルドアさん。それって私達冒険者よりもむしろ、国とかそういう人達の方が必要としてるんじゃ…」

「その通りよ」


 リアンのいた世界では電話やメール、チャットといった、オンタイムで離れた相手とコミュニケーションが取れる手段がいくつも存在していた。

 だがこの世界では違う。離れた場所にいる相手と連絡を取るには専用の魔法道具が必要であり、その有効距離もそう長くはないのだ。もしも今、この世界に通信手段が確立すれば、戦争の進め方。国の治め方。ありとあらゆる文化がきっと今より格段に発展するだろう。

 それに気付いている人間がもしいるならば、今から手に入れようとしているディリルと呼ばれる石はそれこそ喉から手が出るほど欲しいに違いない。


 巨人達がコミュニティらしきものを築いているのも、その石が影響しているのかもしれない。

 もしくは、巨人の習性により石が生み出されるのか。


「そんな大層なもの、私が手に入れてしまって大丈夫なんでしょうか…」

「私はイグニートディリルの名前が出た時に、流石リアンちゃんだって思ったわよ? 確かに召喚師にはこれ以上ないぴったりな装備だと思うもの。どうして世の召喚師がこれをつけないか不思議なくらい」

「―――でも、じゃあやっぱり私が…」

「だぁめ」


 自分で取りに行く、と言いかけたリアンの声をエルドアが遮った。


「魔法しか使えないから、足手まといっていうことなんですか?」

「適材適所ってあるでしょ? 魔法云々以前に、人とは相性が悪い魔物なのよ」

「…」


 じゃあここで待っててね、と言うとエルドアは相変わらずの軽い足取りで巨大な洞穴へと足を踏み入れていく。

 彼女にしては奥歯に何か挟まったような言い方だったが、リアンの戦力がエルドアより勝る点などどこにもない。リアンは言われた通り、魔物達とただ待つことしかできなかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「さて、と…。リアンちゃんは大人しくしてくれてるみたいね」


 夜目の効くエルドアは、巨大なほら穴の中を迷いもなく進む。

 奥から流れてくる独特の気配と魔素の密度から、ここには必ず巨人の集落があると確信していた。


 リアンを連れてこない理由は大きく2つある。

 ひとつは先程伝えたとおり、彼等の魔法耐性が異様なほど強いこと。

 そしてもうひとつは…、


「――ぅおgxrlhxw…」


 濁った声と共に、エルドアの気配を察したか巨人の姿が闇の中ゆっくりと現れる。

 だがそれは人を模したというには、あまりに異様だった。


 頭部はつるりとした卵型の塊が乗っているだけで、薄く開いた目と鼻は巨人のでっぷりとした腹部の辺りに大きくへばりついている。服も何も身にまとっていない下半身には、2本の脚の他にさらに2本の腕が。まるで人体をパーツごとに分け、それを粘土のように再び繋ぎ合わせたかのようだ。一体何をどうすればこんな物がこの世に生まれるのか。

 その上、土気色の巨大な唇から漏れ出る耳障りな音。


 エルドアは煩わしげに眉をひそめた。

 これこそがリアンを連れてこなかった理由。彼等巨人達だけが持つ特殊スキル『畏怖』である。

 超高度な精神汚染のひとつとされており、発狂や自失など与える効果は計り知れない。上位種族である竜、エルドアであれば耐えられるが、これを人間が防ぐことは極めて難しいとされている。

 彼女にそれら全てを説明しても良かったのだが、そうすれば彼等の見た目が如何に異様で醜悪かということまで詳らかにしなければならない。それを冒険者になりたてのリアンに全て伝えるには、少々刺激が強すぎるように思えた。


「こんな気持ち悪い生き物の存在、知るのはもう少し先でもいいわよね」

「xxgるぉfwうkg…」


 巨人は仲間を呼ぶと、小柄な身体を捕まえようと手を伸ばしてくる。

 それを大きな跳躍で避けると、エルドアは腰から下げた細身の剣をするりと抜いた。そしてそこに硬度増加と切断強化、そして高熱の魔法を立て続けにかける。やがて陽炎が立ち昇り周囲の空気を揺らしはじめると、赤い竜の化身は巨大な翼を露わにし巨人の頭よりも高く舞い上がった。


「はぁっ!!」


 エルドアはその身を紅蓮の炎に変えると、流星の如き速さで攻撃魔法もろとも巨人の身体を貫いた。



お読みいただきありがとうございました。

面白かったらブックマーク、評価よろしくお願いします。更新は月水金17時予定。

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