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38:もうひとりの自分…!?

「それならぁ…」


 それまで黙って成り行きを見ていたエルドアが、少し首をかしげて言葉をはさんだ。


「魔力供給補助のための吸血王の心臓『ランブルハート』をメインにして、移動速度増加の『スターリライト』、活動範囲増加の『イグニートディリル』をサブにしたらどうかしら? 属性は闇と雷が半々だからちょっと微妙だけど、両方と相性の良い風系の石を何か足せば、バランスも取れるでしょ? 色も紫と黄色だし、そこに青い色なんかが入ればきっと綺麗よぉ」

「なんだ姉ちゃん、ドワーフの精製技術に詳しいのか?」

「単に宝石が好きなだけよ。本職のドワーフさんには適わないけどネ」


 驚いたようなナザックに、エルドアは肩を竦めてウィンクする。

 宝石が好きなだけと言ったが、リアンはエルドアの気質もその博識ぶりも既に知っている。恐らく今の言葉は彼女の謙遜でしかなく、本当はナザックすら知らないことまで熟知しているのだろう。リアンは角の立たないエルドアのサポートをありがたく感じた。


 エルドアは残りの宝石は、跳躍力が上がる風属性の石を勧めた。色は青と緑のちょうど中間。石自体のグレードや効果は他のものに比べて劣るものの、機動性を重視したリアンのコンセプトに合うこと。また、リアンの使役しているどの魔物とも相性が良いためのチョイスらしい。

 それを聞いてナザックは納得したものの、なおも低いうめき声を上げる。


「しかし4つかぁ…。嬢ちゃん達がそんなバケモノ級の石を集められるかどうかは別として、そんだけ扱うとなると耐えきれる魔術媒体が思い当らんなぁ」

「それならセシリアクォーツがあるわ。これなら不足はないでしょ?」

「何っ!? セシリアクォーツだと!?」


 エルドアの言葉に、ナザックの目がくわっと見開かれる。


「ええ。最近人に譲ってしまったばかりだから、量は少ないけれど。――ほら」


 エルドアは虚空に手を伸ばすと、自分の空間から片手に収まるほどの虹色に輝く石の塊を取り出してきた。

 そのまぶしさにナザックだけでなく、ユイニャとリアンまでが目を丸くする。


「エルドアさん、なんですかその光る石…」

「石じゃねぇ! 嬢ちゃん、…これこそ魔術媒体の最高峰と呼ばれるセシリアクォーツ。別名『魔素結晶』だ。…俺もこんなデケェ塊を見たのは初めてだぜ…」

「魔素結晶…」


 宝石マニアのエルドアが持っていることに驚きはしないものの、リアンの目を惹きつけるのはその輝きだ。

 表面を流れる輝きは実際の光だけでなく魔素の光も混ざり合っている。魔石にも似ているが、それらとは比べ物にならないほど濃密な魔素。なるほど、魔素結晶と呼ばれるわけである。様々な色に変化しながらゆらめく魔素を吐きだすその不思議な鉱石の美しさに、リアンはつかの間魅入った。


「これがあれば媒体の方は問題ないわよね」

「ああ、もちろんだ。あとは肝心の素材だが…」

「そっちは問題ないわ。大事な子達のためだもの。ね? リアンちゃん」

「はいっ! 頑張って取ってきます」


 エルドアの言葉に、リアンは大きく頷いた。

 ここまで御膳立てをされたのだ。後は自分の役割である。

 目標の石と倒すべき魔物を教えてもらうと、リアンはエルドア店を後にした。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 店を出た後、リアンとエルドアは別行動をすることにした。

 エルドアの行先は冒険者ギルドだ。もう少しガウェインから、今の世界の情勢について話を聞いておきたいらしい。

 リアンもローレンの街に来て今まで自由時間がなかったため、色々見て回る良い機会だと魔物達を連れて近くを散策することにした。


 人々の雑踏に紛れ、フェンとマルガと共に石畳の道をゆっくりと歩く。狼の姿をした彼等の耳にはシンプルな金のリング。魔術的な効果があるわけではないが、一応これを身に着けていれば街中は歩かせても大丈夫らしい。リアンが右の手首にはめている細い金のリング同様、ナザックの店で仮のアクセサリーとして買ったものだ。

 リアンはこれまで魔物達とこうして行動する機会がなかったため、初めての体験に妙に気分が高揚していた。ペットと一緒に散歩している気分にも似ているが、念話が騒がしいので子供を連れ歩いているという方が近いか。他の魔物も興味が募るのか、リアンの肩にはフィルギアが。そしてウルフェン達の背中にはイタチ型のラタトスクがちょんと乗っている。


『リアン、ナンカ浮イテル』

(あ、風船だ。こっちの世界にもあるんだ~)

『フウセン? 何ノタメノモノ?』

(ん~…、たぶん単純に子供が見て楽しむものなんじゃないかなぁ。…もしかして、欲しいの?)

『……チョット』


 どうやら魔物にも人間の子供にも似た物欲や好奇心といった感情があるようだ。

 リアンはリュート村にいた頃は見ることがなかった雑貨や小物を見て歩き、魔物達の興味を引くものがあればそれを買った。特に人の作った民芸品に興味を示したのはラタトスク達だ。元々ポーション作りを手伝わせていたこともあり、人の使う道具に慣れているからかもしない。背を一生懸命伸ばして指先で店先のオブジェをつつく様は、傍から見てもとても愛らしかった。

 落ち着いたら、リュート村の自分の屋根裏部屋を彼ら向けに模様替えしたりしてもいいかもしれない。


(それにしても、こんなにゆっくりしたの、久しぶりかも…)


 異世界に飛ばされて早数か月。

 ようやく冒険者としての資格も得て、当面の金銭的不安もなくなった。

 時に薄氷の上を進むような場面もあったが、なんとか安定した生活を手に入れることが出来た。

 リアンはゆっくりと流れる雲を感慨深く見上げると、そろそろ赤みがかってきた日差しが眩しく手でさえぎった。

 ――だが、


「あ…」


 その声に振り向いたのは、どこかで聞いたことがあったからなのか。それとも虫の知らせというものだったのか。あまりにかすかな、ともすれば街のざわめきに消えてしまいそうな声だったのに、リアンは何かに引かれるようにそちらへ顔を向けた。

 そうしてゆっくりと目を見開く。

 それまで街を探索していたのどかな空気。それ自体が凍りつくような衝撃と共に。


「…ぇ……」


 自分の声とも思えない、ひどく掠れた声。

 リアンの視線の先にいたのは、鏡のようによく似た自分の姿だった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 汚れた銀髪。紫色の瞳。

 小柄な、まだ少女の域を抜けきっていない体躯。


(―――…な、…なんで、…ここに、私の)


 あまりに異様な事態に、リアンの頭が混乱する。

 その姿は遠く小さかったが見間違えるはずがない。こちらの世界に来てから、窓や水面ごしによく見てきた顔。今の自分の姿そのものだからだ。


 ボロボロの簡素な服。痩せて筋張った手足。たまたま似た人間同士が出会っただけかとも思ったが、恐らくそれは違う。何故なら相手が自分を見つめる目が、自分以上に大きく見開かれているからだ。

 そしてそこに浮かぶのは単純な驚きだけではない。

 ――自分を見て、相手は明らかに動揺し、そして何かに恐怖していた。


「え、ちょっと…」


 だが、リアンが一歩踏み出したところで、少女は弾かれたように身を翻してしまう。


「っ、……待って! お願い!!」


 思わず叫ぶが、直後2人の間を通行人が遮り、姿が途切れてしまう。恐らく走って逃げたのだろう。一番移動速度の早いフィルギアがその金色の翼で追いかけるが、途中見失ったようで、しばらくするとリアンの元へ舞い戻ってきた。

 リアンはその場に茫然と立ち尽くすと、やがて額を両手で覆った。街の活気に満ちたざわめきも、もはや耳には届かない。


 足元から、ぞっとするような冷たい空気が這いあがってくるのを感じた。

 心臓がどくどくと脈打っている。


(あれは、…あの姿は、間違いなく私と同じ“物”だ)


 一目見てリアンにはわかっていた。

 瞳、髪、顔、身体。…その全てが、まるで鏡にでも映したかのように自分と全く同じ形をしていたと。

 だが王女に双子の姉妹がいたなどという話は聞いたこともない。

 何故王女の姿をした人間が2人もいるのか。もしくは彼女こそが本物の王女なのか。ならどうして逃げる必要が…?


 神父が言っていた生贄の話。

 国が何か月もかけてこの世界へ転送したという話。

 忘れかけていたそれらが、ぐるぐると頭の中を巡り眩暈を起こす。


(彼女は一体、何者なの…。それに、どうして私から逃げたの…?)


 だがいくら心で問いかけても、それに答えてくれる者はいない。

 リアンは改めて気付かされた自分の立場を苦さと共に思い出し、唇をきつくかみしめた。



お読みいただきありがとうございました。

面白かったらブックマーク、評価よろしくお願いします。更新は月水金17時予定。

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