37:なければ取ってくればいいんですよね?
「素材を取ってくる? 原料となる宝石を持ってくれば、作ってもらえる…ってことですか?」
「その通りだ!」
リアンは唇に指を当てて思案した。
確かに問題が素材だけなら、それを自前で用意してしまうのが一番早い。言うまでもなく自分は冒険者なのだから、魔物との戦闘もやぶさかではない。
問題はその素材の持ち主だが。
「ナザックさん。どの程度のランクの宝石なら、ウチの子達の負荷に耐えられます?」
「そうだなぁ…、ある程度は強い魔物が落とす結晶核がいいな。迷宮の下層にいるくらいの…」
「あら、ならやっぱり災害級を狙った方がいいんじゃない? リアンちゃんとこの子、これからまだまだ強くなるでしょ?」
「さ、災害級!?」
さらりと告げるエルドアの言葉にナザックが目を剥く。
「お、おいおい。いくら嬢ちゃん達が強くたって、そりゃ無理な話だ。災害級ってなぁS級冒険者くらいにならないと…」
「大丈夫よ、私達S級だもの」
「ハァッ!?」
ナザックの顎が、今度こそかくんと下に落ちる。
魔物がいくら強いとは言え、リアンとエルドアのような小柄な女性がまさかS級冒険者だとは思ってもみなかったのだろう。隣のユイニャまでもが口をぽかんと開けて、まじまじと2人を見ている。
リアンはその視線をこそばゆく感じたが、先ほどのエルドアの言うとおり、リアンの従える魔物はエクストラレアモンスターが多く、成長の予測が立てづらい。せっかく作ったのに壊れてしまっては二度手間だし、ある程度のリスクは冒しても今のうちに良いものを作っておいた方が良い気はした。
「嬢ちゃん達がまさかS級とはなぁ…、世の中、本当に見かけはアテにならんもんだな…」
「わかったら、最高級の素材について教えてもらえる?」
「おう、ちょっと待ってな」
ナザックは奥から一冊の大きな本を取り出すと、カウンターに置いてページをめくった。
リアンとエルドアが覗き込むと、そこには様々な素材の絵が色鮮やかに描かれている。
「宝石や素材にはそれぞれ効果がある」
「素材そのものに、ですか…?」
「ああ。オーソドックスなものだと、魔物の攻撃力を上げたり防御力を高めたり。逆に召喚師の力を高めるものもある」
「へぇ…色々あるんですね」
「変わったものだと、魔物と意思疎通が取れる距離を伸ばしたり、行動範囲拡大。場合によっては召喚師の命令に絶対服従なんてものまである。大体召喚師と魔物の力量は同じくらいになるはずだから、契約がこじれた時くらいしか使わないけどな」
「なるほど…、それならまず、素材よりも効果だけ先にざっと教えてもらえますか? 取りに行けそうかどうかは、それから決めます」
「確かにその方がいいな」
リアンの言葉に頷くと、ナザックはぺらぺらとページをめくり効果を説明していった。
ドラーフから語られる話を要約するに、基本的にアクセサリーの効果は、『魔物の肉体強化』。『特殊効果付与』。そして『召喚師との関係性の向上』の3つに絞られているようだった。そしてそれらを互いに身に着けることにより、意思の疎通が密になるのだとか。
召喚師が従えている魔物がアクセサリーを付けることで街を自由に行動できるのは、それだけそれら装備により信用性が上がるということなのだろう。
「ちなみに、召喚師に一番人気があるのはどんな効果なんですか?」
ふと気になりリアンがそう尋ねると、ナザックは「ああ」と言って再びページをめくった。
そこには鮮やかな紫色に輝く宝石の絵が描かれている。
「一番人気があるのはやっぱりコレだな。…闇属性の敵が落とす素材だから入手が難しくてつけてるヤツは滅多にいないが。魔物に奪われ続ける魔力消費量を抑えるヤツだ」
何の気なくそのページを覗きこんだリアンだったが、最後のその言葉に思考が止まる。
今、ナザックは何と言った?
「―――魔物に、…魔力を奪われる…?」
「ああ。召喚師だったら、魔力を常に魔物達に与え続けなきゃいかんだろ? まさかこれだけの魔物を従えていて、魔力消費量ゼロなんてこたぁねえだろ」
「……えっ…」
口ごもるリアンに、今度はナザックが目を丸く見開く。
「……おい、嬢ちゃん…? まさかとは思うが…」
「……私、今知りました…」
「おいおいおいおいっ!」
ナザックの言葉に、リアンは今度こそ沈黙した。
そういえばおかしいと思っていたのだ。自分には魔素循環という特殊スキルがある。これによって常に周囲の魔素を取り込み、自身の魔力は限界値を超えて常に回復している、…ハズだ。だがここ最近その傾向がなかったのである。街中ならともかく迷宮、それもエルドアやガウェインの近くにいても、なお魔力が増えることがなかったのだ。
それを今までなんとなくの違和感で済ませていたが、原因がようやく思い当りリアンは得心した。
自分は魔物を使役するにあたって、既に対価を払っていたのだ。単純にそのことにリアン自身が気づいていなかっただけで。
(じゃあ、魔素循環で得てる魔素とフェン達に吸われていく魔力が、今はトントンってこと…?)
ちらと視線でステータス画面を開くと、魔力量は最大値を保持しているもののそれ以上は増えていない。
やはり過剰分が魔物達の供給に使われていたようだ。
「お前さんなぁ…、魔力がゼロになれば召喚師自身だって危ないんだぞ!? …よく今まで気づかずに無事でいたもんだ」
「自分でもびっくりです…。相性が良いと魔力を消費しないとか、そういうのあるんですか?」
「従える魔物が強いほど、必要魔力量も増える。相性がいいとはいえこのクラスの魔物だ。吸われる魔力は少なくないはずだぞ」
「そう、なんだ…」
(ねぇねぇ。フェン達って、今のところ私の魔力で足りてるの?)
今更明らかになった新事実に、リアンは驚きを抑えつつ慌てて魔物達にリサーチする。
『ン~…イツモハ平気。デモ、戦ウ時ハ足リナイコトアル』
『リアンニ無理サセタクナイ、ダカラ手加減シテル』
『力使ウト、魔力必要ハ、ホント』
ウルフェンだけでなく他の魔物達のざわつきも聞こえる。どうやら彼等がリアンから魔力を享受しているのは本当らしい。だが魔力を使いすぎるとリアン自身が倒れてしまうことを察して、彼等は自分達が魔力を使いすぎないようセーブしていたようだ。
(私、バカだわ…)
リアンは信じられない思いでがくりとうなだれ、カウンターに両手をついた。
召喚師としての基本的な情報を知らなかったということもそうだが、今まで自分を助けてくれていた彼等にここまで気を遣わせてしまっていたというふがいない事実が、リアンを落ち込ませた。
しかも彼等は今は魔力をセーブをしているから存分に力を奮うことが出来ないと言う。ならばそれは大問題だ。彼らの躊躇はいざという時、戦局に影響を及ぼす。
『リアン、怒ッテル?』
(ん? 怒ってないよ。ただちょっと自分に呆れ果ててるだけ)
『ソウ?』
いつもはそっけない黄金毛のマルナガルム、――通称マルガが不安げにすり寄ってくる。
言葉を介するようになり、彼等は今や戦闘だけでなく精神的な助けにもなっている。自分もそれに主として答えなければ。
この世界の常識は都度身に着けていけばいいと思っていたが、どうやらそうも言っていられないらしい。
(この子達が魔力不足を感じてるなら、この紫色の石を見つけてくればいいのよね。…私とこの子達の消費魔力量が減れば、出来ることが増えるはず)
だがそこまで考えた時、リアンにふとある考えが浮かんだ。
「あの、ナザックさん」
「なんだ?」
「魔力消費量を抑える宝石があることはわかりましたけど、距離が離れても意思疎通が出来る宝石とかもあるんですよね?」
「ああ、あるよ。情報屋の召喚師とかがよく使ってるヤツだ」
「なら、それと移動速度が上がる宝石があれば教えてください」
「おい、嬢ちゃん。そんなにいくつもあっても…」
「…あっても…?」
「……いや、待て。…待てよ…」
ナザックはそこまで言うと、隣にいるユイニャを見た。
ユイニャはナザックとフェンリル達を交互に見つめしばし考え込んでいたが、やがて顔を上げるとひとつこくりと頷いた。
「いける…、か?」
「この子達なら、たぶん大丈夫…、思う…」
「マジか」
リアンは二人の会話に、自分の考えがあながち的外れでもなかったことを確信した。
つまり、
「一体の魔物に、複数の石を使ったアクセサリーを付ける。…こんなことは前代未聞だぜ」
ナザックが感嘆交じりの声で呟く。
「やっぱり不可能ではないんですね?」
「ああ。前に自分の魔物にアクセサリーを2つつけた貴族を見かけたことがある。そいつぁファッションのつもりだったんだろうが、魔物自体がある程度強ければ、…あとはアクセサリーとの相性が魔術的に良ければ、無理な話じゃない」
「なるほど…」
リアンは具体的になってきた話に、ようやく眉を上げて頬を緩めた。
入手が難しいとは言え、目標は高い方がいい。他でもないフェンリル達のためなのだ。彼等が今より快適に過ごせるのなら、そのために骨を折ることなど今のリアンには造作もなかった。
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