36:魔物用のアクセサリーがありません?
実技試験中はリアンもエルドアも最低限の食事しか取っていなかったため、冒険者ギルドを出た二人はひとまず腹ごしらえをすることにした。あれだけ長居時間迷宮内にいたというのに、ガウェインの力のせいでまだ日は高いままだ。
ギルド近くで見つけた定食屋は、昼時もだいぶ過ぎたというのに随分とにぎわっていた。よく見れば、その客のほとんどが冒険者。どうやらここはギルドから近いためか、冒険者同士の情報交換や交流の場になっているようだった。
(ところでフェン達って、小さくなったり出来ないの?)
リアンは食事が来るまでの間、ふと思い立って影に潜んでいるフェンリル達に聞いてみることにした。
迷宮ならまだしも、先程の冒険者ギルドのような室内では、巨大な体躯をした魔物達は連れ歩くのも一苦労だ。流石に不便を感じて尋ねると、フェンリル達は一斉に沈黙し、何やらぼそぼそと話し始めた。どうやら影の中でなにやら相談をしているらしい。
そうしてしばらくした後、
『――出来ソウ』
(お、ホントに?)
『ウン。本体ト分離シタ、別ノ肉体ヲ生成シタ。ヘイズノヤツモ出来タッテ』
言い終えると、リアンの影から3頭が姿を表す。
その姿は形もサイズも、角が生えている以外はまるで小型の狼だ。白銀、漆黒、黄金と特異な毛並みをしていても、大型犬ほどのサイズのためそこまで圧迫感も感じない。その上、魔素量までもがいつもよりかなり少ないように感じる。
周囲の客達は、突然魔物が現れたため一瞬視線を寄越したが、それがテイムされた魔物だとわかると再び自分達の会話に意識を戻していった。なるほど、この程度のサイズなら周囲の人間に怖がられることもないようだ。
『コンナ感ジ。ドウ?』
(すごいねみんな…。そのサイズならどこにでも一緒に行けると思う。ありがと!)
『ヨカッタ』
3頭はリアンの反応にはたはたと尻尾を振ると、影の中に戻らずその場に腰を落ち着けた。興味深げにきょろきょろと辺りを見渡している様子を見るに、もしかすると彼等も、影の中より外の方が本当は居心地が良かったのかもしれない。
それを見たエルドアは感心したように「ホント器用ねぇ…」と頬に手を当てて呟いた。
「これも難しいことなんですか?」
「リアンちゃんとこの子は分離したって言っているから、これはたぶん分身体ね。遠隔操作の出来る肉体、もしくは影と言ったところかしら? 普通の魔物には逆立ちしても出来ない芸当だから、すごいことよ」
「ほぁ…」
「まっ、分身とはいえ、その辺にいる冒険者よりは強いでしょうけれどね」
リアンはふふと笑うエルドアの言葉に、小さくなった従僕達を見つめる。身体のサイズが変えられたのは良かったが、付き合いが深まれば深まるほど彼等の生態は謎に満ちていく。一体彼等は何を基準にどのような成長を遂げるのだろう。自分を跳び越えて強くなっていく彼等を、果たして自分はこのまま制御し続けることが出来るのだろうか。
「食事がそろそろ出てくる頃合いよ、リアンちゃん。まずは食べましょ」
「あ、はい」
エルドアの声と同時に、どん!とテーブルに大皿が運ばれてくる。香ばしく焼きあがった肉のグリルに、温められたパンと野菜のスープ。リアンの悩みは、そこから漂う香りによって完全に中断された。
「ん〜いい匂いっ!」
「この店は美味しいって、巷の冒険者の間で人気らしいわよ」
「エルドアさん、ホントそういう情報収集に抜かりないですよね〜」
「だって少しでも美味しいもの食べたいじゃない? 何十年も寝てたし、起きても大体迷宮の中だし」
「それはまぁ…確かに」
前の世界では職場から外に出ることも稀で食事になど気を使う余裕もなかったのだが、リュート村でタルマの手料理を食べていた今ならわかる。毎日美味しい食事にありつけるというのは、この上ない喜びだ。
きゅうと鳴るお腹の音に急かされ、リアンは早速食事に手をつけた。スープを一口飲むと、自分が如何に空腹でいたのかを改めて思い知る。肉をパンで挟みソースをつけてぱくり。とたん、口いっぱいに広がる肉汁とソースの味にリアンとエルドアの頬が緩んだ。
「美味しい…幸せを感じる…」
「この店、正解だったわね…」
「はい…」
そうしてしばしの時間食事に没頭した2人は、空腹を満たすとようやく食後のお茶を飲んで息をついた。
エルドアは人間の女性にしては食べるように見えるが、その正体があの巨大な竜だと思うと小食に感じる。それを言うと、そもそも竜は食事が必要ないのだとエルドアは言った。どうやら魔素を吸収するだけで竜は生きていけるらしい。つまりこれら人間と同等の食事をするというのは、完全な娯楽。
だからせっかく食べるなら美味しいものが食べたいのよ、と不思議そうに尋ねたリアンにエルドアは笑って言った。
「さて。お腹も膨れたことだし、次はそのアクセサリーショップとやらに行きましょうか」
「はい。エルドアさんも付き合ってくれますか?」
「勿論よ」
ともあれ後は召喚師用のアクセサリーを買えば、自分の魔物と共に街の中をを自由に歩くことが出来る。
だがそんなリアンの考えに反して、事はそう上手くはいかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「この子達が身に付けられるアクセサリーが、ない?」
「は、はぇぇ…」
ぽかんとして聞き返すリアンに、幼い少女は小さい身体をさらに竦めて言った。
ここは召喚師用装備品専門店『竜の糸』。ローレンでは一番の老舗で、品揃えも他の追随を許さないらしい。
確かにその評判に誤りはないようで、店内にずらりと設置されたガラスのショーケースには、所狭しとアクセサリーが並んでいる。
だがリアン達に応対したこの小さな店員は、フェンリル達を見るなり困り顔を更に深めた。
「えっと、どうしてですか? ここには沢山のアクセサリーがありますけど、これを買わせてもらうわけにはいかないんですか?」
「あ、あの…、ここにあるのは、その、…は、はんよ…で…」
「はんよ…?」
リアンがなんとか言葉を聞き出そうとするが、少女は怯えたように俯いたまま黙りこくってしまう。
そんな状況を救ったのは、奥から飛んできた陽気ながなり声だった。
「あーお客さん、すまんね! そいつはちょっと人と話すのが苦手でさ」
声の方向を見ると、少女と同じ程の高さに髭面の男の顔があった。身体は筋肉隆々としているが、やけに背が低い。
「あ、え…?」
「店主のナザックだ。…なんだい、お客さん。ドワーフを見るのは初めてか?」
「ドワーフ? …あっ、はい。そうなんです、すみません」
「いいってことよ、人間の国だと珍しいからなぁ。コッチも慣れちまってるよ! ガハハハ!」
この世界にドワーフがいることも今知ったんですけどね、とリアンは心で付け加える。なるほど、魔族や竜がいるならばドワーフもいるというわけか。この様子ならもしかすると、エルフや妖精あたりも存在するのかもしれない。
リアンは自分より僅かに背丈の低いドワーフを見ると、驚きを頭の隅に寄せて話を本題に戻した。
「ええと、それで魔物用のアクセサリーを売って欲しいんですけど…、その子がダメだと」
「なるほどな。…おいユイニャ、お前が駄目って言うってこたぁ、コイツはもしかして…」
「うん…強すぎる。…ウチのじゃ、無理…」
「なるほどなぁ。う~む…」
ドワーフの店主はボリボリと後頭部を掻き毟ると腰に手を当て、リアンに寄り添っているフェンリル達を見つめた。
「嬢ちゃん、アンタ召喚師になりたてだろう?」
「はい、つい先日なったばかりです」
「なるほどな。それでユイニャが引くぐらいの魔物を従えてるんだから、只者ではないんだろうが…、残念ながらコイツの言うとおりだ。今ウチの店にアンタに売れる物はない」
「えっ…!」
「コイツはこんな“なり”だが、見る目は確かなんだ」
店主が言うには、召喚師用のアクセサリーとは単なる見分けのためだけにつけるものではないらしい。石や金属の中に独自の魔術式を埋め込み、魔物達との連携をよりスムーズにする、言わば魔法道具の一種なのだという。
だが強い魔物にはそれだけ強い力を備えた装備、もっと言えば材料や触媒が必要となる。そのため今この店にある素材では、フェンリル達の力に耐えうるアクセサリーは作ることが出来ない、というのが店主ナザックの言い分だった。
「実際に着けてみりゃわかる。これはこないだ作ったウチの試作品なんだが…」
ナザックはおもむろに赤い宝石のついた金色のチェーンを取り出すと、フェンリルの首にかける。
「ちょっと何か命令してみな」
「はい」
リアンはナザックに言われ、フェンリルに極小の雷を発生させるよう伝える。
―――すると。
パキンッ!!
高い音が響いて、ペンダントにあしらわれていた赤い石が粉々に砕け散った。
それと同時に、鎖までもが劣化しぼろりと崩れて落ちてしまう。
「えっ! …壊れ? えっ、どうして…?」
「あまりに魔物が強いと、石がその負荷に耐えきれず割れちまうんだ。アンタに売れないってなぁそういうことだ。だな? ユイニャ」
「そ、そう…。ごめ、なさい…」
「そんな…」
確かに自分が従えている魔物達はどれも強力な力を持っている。試験を受ける前ならまだ良かったかもしれないが、今となっては全員規格外になってしまっているのだろう。だが…、
「それじゃ、フェン達にはアクセサリーが付けられないってことですか…?」
「まぁ待て」
ナザックは腕組みすると、「ここからが大事な話だ」と言って指を一本立てて見せた。
「このクラスの魔物を従えるに、嬢ちゃん達は見た目と違って相当強い冒険者なんだろう。なら方法はある。――素材を自分達で取ってくることだ」
リアンはナザックの言葉にきょとんと目を見開いた。
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