26:本気でポーション作ってみた!
迷宮内部へ足を踏み入れて、リアンはまず仲間の魔物達に補助魔法がかけられるか確認する。
――防御魔法、肉体強化、問題なし。
――感覚共有、情報共有、問題なし。
「うん、問題なさそう。それじゃ私は薬草と鉱石を探していくから、敵がいたらお願いね。…くれぐれも、私の魔法の範囲からは出ないように」
『ワウン』
『バウッ』
身体は狼の倍ほどの大きさがあるのだが、ここまで従順だとまるでよく躾けられたペットのようだ。元々群れとしての立ち回りにも慣れている種なのだろう。レッサー・ウルフェン達は、二頭は常にリアンの側に。そして残りは敵を迎撃するためにと役割を分担し、迷いなく行動した。遠くから聞こえてくる魔物達の断末魔を聞き彼等の戦力に問題ないことがわかると、リアンは薬草採取に専念する。
「こないだラス達と来た時は薬草どころじゃなかったもんなぁ…」
たった数日前のことなのに、やけに懐かしく感じるものだ。
あの時とは全く違う、まるで見知った庭を歩くかのような気楽さで、リアンは迷宮を探索した。森では見られないような高濃度の魔素を含んだ薬草を採取し、時おり仲間になりたがる魔物を従僕化する。レベルも12まで上げることが出来た。そのせいか、どうやら仲間の魔物達も多少強くなっているようだ。
そうして目的の4階層まで足を踏み入れたその時、
(…あれ?)
地の底から何者かの視線を強く感じた。
この圧迫感。自分はこの感覚をよく知っている。これは、そう…、
(エルドアさん…?)
迷宮主が自分を見ている。だが何故?
圧迫感はすぐにかき消える。
リアンは少し不思議に思ったものの、エルドアの気まぐれと思い気にしないことにした。
よもや迷宮主が自分に用があるなど、その時は思いもよらなかったのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
迷宮から出る頃には、森は既に宵闇に包まれていた。
魔物が活性化する時間帯だが、リアンに恐怖感はない。リアンが従える魔物達もまた力が高まる時間帯だからだ。しかもレッサー・ウルフェン達は迷宮に住まう魔物達とも対等に渡り合うことが出来たのだ。レベルもだいぶ上がったようだし、夜の森とはいえさほど心配することはないだろう。
唯一心配があるとすれば、タルマを不安にさせることくらいか。
静かな村の中で、タルマの宿はまるで闇を照らす蝋燭のようだ。リアンは仲間の魔物を全て影の中へ引き入れると、裏口のドアを開けた。
「ただいま、タルマさん」
「おかえりリアン、遅かったから心配してたよ!…夕飯出来てるから、持って上がりな」
「はーい」
いつもと変わりないタルマの明るい声。今日もハリネズミ亭は大繁盛だ。
迷宮の魔物達を食い止めた冒険者達が、この店の味に惚れ込んで長居しているらしい。国から報奨金が出たことで、彼等の財布の紐も緩んでいるのだろう。いつもより騒がしく感じるのもご愛嬌だ。
リアンは食事を持って屋根裏部屋に上がると、外套を脱ぎ、いつものように夕飯を食べながらステータスウィンドウを開いた。そして、今日仲間になった魔物達を確認する。
(レッドグリズリー8頭、リッチャーバット35匹、ゴールボア5頭、レッドリザード5匹、スケルトン12体、ゴーレム2体…う〜ん…)
流石に数が多すぎる。命令するにもこれでは自分が混乱してしまいそうだ。
仕方なくリアンはある程度魔物を統合してしまうことにした。一応本人(?)達の意思も確認したのだが、魔物達自身は統合されることにはなんの抵抗もないようだ。この辺りがやはり普通の生物とは違うところなのだろう。
(属性は偏らない方がいいな。攻撃役と移動役と、あとは索敵とか…?)
もちろん見た目も大切だ。
街中で出さなくてはならなくなった時に、あまりにおどろおどろしい見た目では何を言われるかわかったものではない。
あれこれと影から出して悩んだ末、150匹程度いたスモール・コレットは15匹に統合。
その他の魔物も、レッサー・ウルフェン5頭、リッチャーバット3匹、レッドグリズリー1頭を残し、全て統合することにした。
<スモール・コレットが統合により、コレットに進化しました>
<レッサー・ウルフェンが統合により、シルバー・ウルフェンに進化しました>
<リッチャーバットが統合により、スリング・バットに進化しました>
<レッドグリズリーが統合により、グリズリーに進化しました>
(あれ?進化…って、レベルアップとは違うの?)
試しに進化したシルバー・ウルフェンを影から呼び出してみる。すると、身体に内包された魔素の量が桁外れに増えていることが見て取れた。毛並みも青銀から光り輝くような銀へ、…魔物なのに妙な神々しさまで感じる。おまけに物理障壁のスキルまで所持しているようだ。
(うはぁ…、これはスゴい性能…)
味方だからいいようなものの、これが敵だったら末恐ろしいな…、とリアンは独りごちた。
しかもステータス画面を見れば、自分の魔力がごっそりと減っている。どうやら魔物を使役する時には必要なくとも、統合する時には膨大な魔力が必要となるらしい。迷宮の中でうかつに試さなくて良かったと、リアンはほっと胸をなでおろした。
(さてと、これでようやく街に向けて出発できるかな)
召喚者になったことで、自分には思った以上の強力な手駒が出来たことになる。
血の穢れにより戦闘や不慮の事態に対してかなり不安があったが、これだけの仲間がいれば隣街までの道行きも問題ないだろう。
(冒険者ライセンス早く取らないと、ラスにまた何言われるかわからないしね)
一応この村の冒険者ギルドにも話を聞いたのだが、なんせ冒険者ライセンスを持っている者がここにはいない。そのため、細かいことは実際街へ行かないとわからないようだった。
リアンは夕飯を食べ終えると、遠出の準備のため鞄にあれこれ詰め込み始める。
そしてそれが終わると、久しぶりにポーション作りに没頭した。
在庫のほとんどをラスとルシアに譲ってしまったため、新たに作らないといけないということもあるが、今日リアンがポーション作りを再開した理由は他にある。単純にルシアに褒められたからだ。
村の人間は体力魔力共に数値が低すぎて、パーセンテージ回復のポーションによる恩恵は薄い。そのためリアンの作ったポーションは正しく評価されず、彼女自身も自分の作ったものがそこまですごいとは思っていなかった。だがラスやルシア達は違った。彼等に褒められたことで、リアンは自分が作ったポーションに再び自信と価値を見出したのである。
一度やる気に火が付けば、寝食を放り出しても没頭するのがリアンの性分だ。
(たぶん、今までよりもっと良いものは作れるはず)
リアンは今よりも効果の高いポーションの制作アイディアを思いついていた。より効力の高いポーション作りの肝となるのは、恐らく材料と魔素の管理だ。ルシアが、それこそが面倒だと言っていたから間違いないだろう。だがそれだけでは足りない。
(そこに、私自身の魔力を限界ぎりぎりまで加えて…)
自分の魔力量は一週間前よりも格段に上がっている。それに今回採取してきた薬草の数々は迷宮内部のもので、かなり質が良い。採取してきた薬草はコレット達に部位別に仕分けをしてもらい、中でも薬効の高い葉の部分のみを使用する。ここまで条件を揃えれば、ポーションの性能は確実に上がるだろう。
リアンは自分の考えを早速実行に移した。魔法計算式にも少し手を加えて、より薬草の成分が多く抽出されるよう調整する。
――そして数時間後。
(これは、…なんかスゴいものが出来たんですケド…)
出来たポーションは3本のみ。だが解析魔法で表示されたその内容は、リアンの予想を大きく上回るものだった。
【オーバーポーション】
――体力と魔力をそれぞれ180%ずつ回復する。これは対象に振りかけても効力を発揮する。
(オーバーって、そういうことだよね?…100%より増えるってことだよね?)
試しに皿の底に残った薬液を舐めると、満タンだった体力がわずかに総量を超えて回復する。
つまりこれは、総量以上の体力と魔力を保持出来る、パワーアップアイテムにもなりうるということだ。魔法でも魔力や体力の総量を増やすなんていう芸当は出来ないはず。リアンは自分の作ったポーションの出来に、にへらっと頬を緩めた。
「やったぁ…、ついに回復魔法を超えたぁー…!」
迷宮4階層までの薬草を採り尽くしても3本しか作れないのだからかなりコストはかかるが、それだけの価値はあるだろう。特に魔力がなくなれば身動きが取れなくなるこの世界で、魔力の総量を底上げできるこのポーションの存在はかなりのポテンシャルを秘めていると言えた。
ポーション制作でリアンの魔力は限界ぎりぎりまで枯渇していたが、胸の内は充足感で満たされている。
(ラスとルシアさん、これ見たらどんな顔するかな…)
興奮で眠気はまだやって来なかったが、魔力を大量に使った時特有の気だるさに襲われ、リアンはベッドの中に倒れ込んだ。そして迷宮で別れた二人と再会した時のことを想像しながら、ゆっくりと目を閉じた。
天窓から差し込む月明かりが一瞬遮られたが、リアンがそれに気づくことはなかった。
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