25:召喚師(?)に転職しました?
ラス達と別れてから翌々日。
既に朝日は昇っているというのに、リアンはベッドに寝転がりながら未だ自分のクラスリストとにらめっこを繰り返していた。ランクアップはしていない。なんとなく自分の進むべき方針は決めたわけだが、どうにも踏ん切りが付かなかったためだ。
ちなみに、彼女が進もうとしているクラスは召喚師。低級の魔物を自らの魔力と引き換えに従えることが出来るという、戦闘系職業の中でもかなり特殊なクラスだ。その特異性ゆえにあまり人気はないらしいが、自ら戦えないリアンにとってはむしろ天職にも思えた。
「うーん…やっぱこれしかないよね。どれ程の魔物が味方になってくれるかはわからないけど、戦う以外にも役に立ってくれるかもしれないし」
災害の化身とも言うべき魔物を従えられるなどにわかには信じがたいが、自分自身で攻撃が出来ない以上、手数を増やしていくしかない。自分以外の味方がいれば、どんな場面でもきっと役に立ってくれるだろう。
リアンは悩んだ末、ついにクラスアップのアイコンに指を伸ばした。フォン…という、決断のわりに軽い音が上がり、ステータスウィンドウが更新される。
――――――――――――――――――――
魔術師 / 召喚師
レベル1
体力 895 / 895 魔力 1086 / 1057 生命力1286 / 1286
常駐スキル:自動翻訳 / 魔眼 / 魔素循環 / 魔物収納(影)
常駐加護:魔王の盟約
常駐呪詛:血の穢れ
――――――――――――――――――――
よしこれでついにランクアップした、
――と思ったのだが、次の瞬間。
<召喚師が選択されましたが、シークレットスキルにより自動的に高位召喚師へクラスが変更されました>
「……はい?」
疑問に思う間もなく、リアンのステータスウィンドウが再び変化する。
――――――――――――――――――――
魔術師 / 高位召喚師
レベル1
体力 942 / 942 魔力 1525 / 1496 生命力1286 / 1286
常駐スキル:自動翻訳 / 魔眼 / 魔素循環 / 魔物収納(影)/ 魅了 / 魔物統合
常駐加護:魔王の盟約
常駐呪詛:血の穢れ
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(えっ何、こんなことってあるの…?)
リアンは口元に手を当てたまま、固まってしまう。
どうやら自分は意図しないクラス、…しかも上位のクラスに上がってしまったようだ。スキルリストを見ると、召喚師独自の常駐スキルが3つも追加されている。リアンは戸惑いながらもそれらをひとつずつ確認していった。
【魔物収納(影)】
――契約を交わした魔物を自らの影の中へ住まわせることが出来る。
(おっ、これは便利そう)
考えてみれば、この世界で恐れられている魔物を街中で連れ歩くわけにもいかない。そこまで想像が追いつかなかったリアンだったが、このスキルがあればその心配もなさそうだ。魔物は生物ではなく魔素溜まりから生まれ出し者。影の中に潜伏することも自在なのだろう。
そして残り2つが、
【魅了】
――魔物を一定確率で魅了する。
【魔物統合】
――魔物同士を融合し、より強い魔物へと変化させる。
この辺りも召喚師として使えそうなスキルだ。魅了がどの程度魔物に対して作用するかはわからないが、わずかばかりだとしても迷宮での生存確率が上がるに違いない。
何故選んだクラスが勝手にランクアップしたのかはわからないが、悩んでいても結論が出るわけではない。良さそうな常駐スキルを手に入れられた幸運を、リアンはひとまず素直に喜ぶことにした。魔力が増えているのも地味にありがたい。
――さて。ランクアップが済んだとなれば、次は実戦である。
「一匹くらい仲間になってくれる魔物が見つかるといいんだけど」
召喚師を選んだのは、果たして正解か間違いか。
ベッドから身を起こしたリアンは外套に袖を通すと、早速森へ出かける準備をするのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うーん…これは…」
リアンは困惑していた。
薬草を採りも兼ねて、森の中へとやってきたのは良かったのだが…。
『キュイ…?』
『キュッキュ』
『キュー…』
「……」
目の前にはイタチのような姿をした小型の魔物、――が…ざっと50匹ほど、所狭しとひしめき合っている。このタイプの魔物は単体では弱い代わりに群れで襲ってくるため、場合によってはとても危険な相手なのだが、どうやら今日は様子がおかしい。…これはやはり新しく得たスキル魅了による影響だろうか。
しかも自動追尾型の睡眠魔法が、どうやら今の彼等には作用しないようなのだ。最初は襲われるものと勘違いして焦ったのだが、杞憂だったらしい。
(敵意のない魔物には、自動追尾型は発動しないのか…それとも、魅了にかかった時点で魔物のステータスに何か変化が起きたのか…)
新たに追加された召喚師専用スキル【従僕化】を、試しに目の前の一匹に使用してみる。
『キュー!』
すると、みるみるうちに全身の毛並みが濃い茶色から白へと変化していった。
解析魔法をかけてみると、
【スモール・コレット】
――レベル2。地属性の非常に弱い魔物。群れをなし集団で狩りをする。従僕済。
「おおっ、成功した!」
リアンは初めて召喚師のスキルを使い、思わず声を上げた。
なるほど、自分の仲間になったことが解析画面上でもわかるようになっている。
足元にすり寄る身体を撫でてやると、スモール・コレットは赤い瞳を細めて気持ちよさ気にくねらせた。毛は思ったよりもふわふわとしていて柔らかい。小動物とまるで変わらぬその様に、リアンは思わず笑った。
「…白くなると君達ちょっと可愛いね。魔物のクセに」
『キューッ』
どうやら従僕化は、相手がそれを望んでいる場合は魔力消費もほとんどないようだ。影の中に出たり入ったりと意思の疎通も問題ないようなので、リアンはその場にいるスモール・コレットを全て仲間にしてしまう。少し数が多い気もしたが、後で統合すれば問題ないだろう。
驚いたのは、リアンが探知魔法をかけるとそこに魅了効果が自動付与されることだ。
つまり、リアンが索敵しながら森を歩くだけで、次から次へと魅了された魔物が引き寄せられてくるのである。その結果、いつものようにリアンが森を数時間歩いただけで、実にスモール・コレットが100匹以上、ゴールボア2頭、レッサー・ウルフェン7頭、その他大小様々な魔物がリアンの仲間になったのである。
魔物の知能が如何程かは計り知れないが、彼等は概ねリアンの思い通りに動いてくれた。そしてその彼等が敵を排除することでリアンにも経験値が入るのは、予想外の収穫だった。
さらに便利だったのは、狼型の魔物レッサー・ウルフェンに騎乗出来たことだ。
森歩きに慣れてきたとは言え、リアンの身体は未成年のそれ。体力にはまだまだ不安がある。そんな中、機動性の高い移動手段を入手出来たのは僥倖だった。鞍がないためかなり不安定な態勢にはなるが、ゆっくり歩いてくれるためなんとかそれらしく騎乗出来ている。
リアンの従僕となったレッサー・ウルフェンも、スモール・コレット同様、暗い灰色の毛並みから美しい青銀のそれに色を変えていた。どうやら仲間になると魔物は皆見た目が少しずつ変わるようだ。
自分好みにカスタムされたようで、リアンは少しだけ嬉しいような気恥ずかしさを感じる。
そしてやがてあることに気付く。
「あれ? …もしかすると、この子達がいれば迷宮とか楽勝なんじゃ…」
リアンはふと思いついて、乗っていたレッサー・ウルフェンに迷宮へ向かうよう指示を出した。
採取をこなすスモール・コレット達のおかげで、森の中に生えている薬草はほぼ全て取り尽くしてしまっている。後は迷宮内部に生息している薬草や鉱石をアテにするしか、原材料の確保がままならない。…特にリアンの作るポーションには、大量の薬草が必要なのである。
一週間前より自分のレベルも相当上がっていることだし、上手くいかなくとも封印より手前の4階層までならなんとかなるだろう。リアンは仲間のレッサー・ウルフェン7頭だけを伴うと、もはや見慣れた迷宮の入り口を大きく開いた。
二章開始しました!
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