21:これってお宅訪問だったんですか?
――迷宮8層。
パーティにルシアが加わったことにより、前回の迷宮攻略と比べ進行速度は格段に上がっていた。単純に戦力が増強されたからということもあるが、主な理由はルシアの使う探知魔法だった。階層へ通じる階段の位置がおおよそつかめるというもので、これによりリアン達はほぼ最短距離で迷宮を進んでいくことが出来た。
リアンも魔法式を教えてもらったのだが、なかなかによく考えられている。
ルシアは攻撃魔法や補助魔法をバランス良く使う魔術師、といった感じだ。
剣を多様し直接的な攻撃方法を好むラスとは対照的に、遠距離から少しひねった方法で倒すことを好む傾向にあるようだ。リアンに攻撃魔法は使えないが、同じ魔術師の戦闘を間近で見るのは初めてのことで、とても参考になった。
「リアンは迷宮にもだいぶ慣れてきたようですね」
「そうですか? ルシアさんに言われるとちょっと自信ついちゃうかも」
「最初はビービー泣いてたクセにな」
「あ〜あ〜、何も聞こえません〜」
ラスの軽口にもめげず、リアンは支援魔法を二人に展開する。
レベルが上がったことで、高難易度の魔法がだいぶ楽に使えるようになってきていた。例えば探知魔法も、これまで使っていた平面探知から立体探知へと切り替えている。有効範囲も格段に広まったため、今では下層の敵の居場所や強さまで詳細に把握することができた。
さらには自身の頭の中に構築した迷宮の立体地図と敵の位置を、ラスとルシアに感覚共有魔法で伝える。そうすればこの3人のパーティにもはや死角など存在しなかった。
「それにしても、二人共本当に強いなぁ…」
散歩のような気楽さで歩いているが、その実ルシアの自動追尾魔法で周囲の魔物はほぼ壊滅している。探知する度に減っていく敵と何もしていないのに上がるレベル。迷宮最深部への道のりだというのに、蓋を開いてみればあくびが出るほど楽な仕事だった。一体彼等のレベルはいくつなのだろう。
「リアンも空間遮断魔法を使いこなせるようになれば、私と似たようなことが出来ますよ」
「位置を指定して自動で敵を閉じ込めたり?」
「それも良い方法ですけど、閉じ込めるのはちょっと魔法効率が悪いですね。…例えば紙ほどの薄い層を作って複数の相手を切断したり、硬い魔物には体内に発生させた空間を中なら広げて爆発させたり。そういう方が簡単でより効率的ですよ」
「な、なるほどですね…」
リアンは紫色の瞳を細めて、ルシアにつられるように笑った。
(――本当にルシアさんって隠れ鬼畜だな。マジで魔物に容赦ない)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
迷宮14階層で、3人は野宿することにした。
パーティの人数を考えるとその攻略速度は異様だったが、それでも迷宮に足を踏み入れてから既に6時間が経過している。短い休憩は要所要所で取ってきたもののリアンの体力もそろそろ限界だった。ルシアは適当な小部屋を見つけると、結界の他、簡易的なテントを建てて寝る場所を用意する。
「ところで、迷宮の最下層って何階なの?」
「20階だ」
そう言えばお前はまだ知らなかったな、と言って、ラスはリアンに封印の説明をした。
「迷宮には、それぞれ最下層に『迷宮主』と呼ばれる者がいる」
「迷宮主、…ボスみたいなもの?」
「ボスっつうより管理人だな。そもそも、迷宮主っていうのは迷宮を作った張本人のことだ。だからそいつに頼んで封印をまた貼り直してもらうんだ」
「迷宮を…、作る? なんのために?」
「決まってる。人が家を作るのと同じ理由だ」
リアンの頭の中にクエッションマークが飛ぶ。
ここが?その迷宮主とやらの家?こんな入り組んだ魔物だらけの場所が?
(…普通は家に魔物湧いたりしませんけど…。それともアレかな? ここにいる魔物って、人の家で言う害虫みたいな扱いなのかな?)
ラスはリアンの考えを察したようで、立てた膝に頬杖をつくと少し呆れたような口調で言った。
「奴等は体内から出る魔素量が多すぎて、そこにいるだけで魔物を発生させるんだ。たとえ人の街で暮らしても、数年置きに居場所を変えなければならない。…だけど、そんなの面倒だろう? だからこうして別空間に自分の寝床を作るのさ」
「ほぇ…この迷宮が寝床…。迷宮主ってすごいのね」
「ここの奴はまだ若い方だけどな」
「何歳くらい?」
「確か300歳くらいだったか」
「……」
迷宮主の眠りは深く何年にも及ぶ。だから今回のように眠っている間に入り口の封印が解けてしまった場合は、こうして高ランク冒険者達が起こしに行くのだという。リアンは以前迷宮の内部がまるで城のようだと思ったが、その理由を理解した。ここはやはり城であり、迷宮主とやらはこの場所の王なのだ。
つまり今回のクエストは、その迷宮主を起こせば完了ということになる。
「起こすだけなら、わりと簡単? …なの、かな?」
「そうだな。行くまでが面倒だが、最下層にたどり着けばあとは楽なもんだ」
「ふぅん…」
目的がはっきりしたところで、リアンは食事にすることにした。
収納魔法でタルマが作ってくれた料理をバスケットごと取り出す。中にはサンドイッチとサクサクのコロッケ。それにワインが一本だ。
リアンはこの世界へ来るまでは酒好きで、よく近所のバーにも通っていた。が、流石に今のこの幼い身体で酒を煽るのは気が引けるし、何よりここは迷宮深層だ。ワインは大人しく二人に譲ることにした。その代わり果実のコンポートはリアンのものだ。
魔石を燃料に火を炊くと、タルマが作った3人分のサンドイッチにバターを塗り、表面を軽く炙る。間に挟まったチーズも溶け、辺りに得も言えぬ良い香りが漂い始めた。
「ハリネズミ亭の料理は、本当に絶品ですね」
「でしょお!? …私がこっちに飛ばされて一番良かったのは、間違いなくタルマさんの手料理が毎日食べられることです」
「本当に。まさか迷宮の中で、これほど美味しいものが食べられるとは思ってもみませんでした。…ラスは本当に食事には無頓着なので」
「あ〜、なんとなくわかります…」
表面がきつね色に焼けたところで、サンドイッチをルシアとラスに手渡す。
かりっと香ばしく焼けた匂いが食欲を誘う。促されるままに頬張ると、熱く溶けたチーズにベーコン、炒めた野菜が口いっぱいに広がって幸せがこみ上げた。
(今日も美味しいなぁ〜)
ラスは無言だが、一口食べてかすかに目を開いたのが見て取れる。
やはり美味しいものを食べた時に幸せを感じるのは、誰でも同じようだった。
「ところで、ルシアさんってクラスは今何なんですか? やっぱり魔法系?」
リアンは、ふと気になってルシアのクラスについて尋ねた。ルシアについて知りたいというよりも、自分が進むべき道に迷った故の発言だった。
だが、ルシアは珍しく返答に躊躇すると「ええ、魔術師系統ですよ」と言葉少なに言った。
「ふぅん…、やっぱりそうなんですね」
――嘘だな。
リアンはルシアの答えに、表面上は納得した様子を見せた。
誤魔化されたことはわかっていたが、人にはそれぞれ事情がある。言えないこともあるのだろう。元より、知り合って数日のリアンが深く聞くべきことでもない。
だが当のルシアは多少気にしたようだ。
「私のクラスが気になりますか?」
と、困ったように笑って聞き返してきた。リアンは、もちろんと頷く。
「そりゃそうですよ。二人とも尋常じゃない強さですもん。もしかしたら魔王を倒す勇者だったりするのかなって」
「ぶはっ!」
サンドイッチを食べていたラスが盛大にむせる。
見ればルシアも笑いをこらえて肩を震わせていた。
「だ、大丈夫? …えっ、もしかしてラス達って、実は本当に勇者だったりするの?」
「ゴホッ、…ふざっけ…っ、そんなわけあるか!!」
「……そうだよね。こんなに凶悪な顔の勇者いないよね、普通」
「お前殴られたいのか!?」
「ひぃっ、すみません調子に乗りましたっ!」
全く、と吐き捨てるように言うと、ラスは不機嫌そうに残りのサンドイッチを平らげる。
その様子を見て、そう言えばラスにランクの話をしたときも妙な感じだったとリアンは思った。もしかすると、二人には自分に言えない何か秘密があるのかもしれない。
――実はランクが『サディスト』だったりして…。
あははありえそう、と心の中で笑うと不意打ちで額を指で弾かれる。
「痛ぁっ!」
「どうせまた失礼なこと考えてたろ」
「なんでわかったし…!」
「思ってることと顔が一致しすぎてるからだ、この馬鹿」
「…くっ」
痛そうに額を抑えるとルシアがくすくすと笑っている。見ているだけでなく助けてほしいと思うが、ラスとリアンのこうした会話にルシアが口を挟まないのは先刻承知している。
むしろいたぶられているリアンを見て喜んでいるようにすら見えるのだが。
恐らくそれは、…気の所為などではないだろう。残念なことに。
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