4話:チシャーネコの導き(前)ですにゃん
誤字・脱字などありましたらご指摘、ご報告お願いします。
「初心者(殺し)講座はっじまるよ~うしし」
「殺る気十分ですにゃね」
物騒なのは字面だけで、会話そのものはチュートリアルに
差しさわりのない感じでクエストが開始されたにゃ。
『チュートリアル1:チシャーネコの導き』というお題目通り、
何個かチュートリアル用のクエストがあるようだにゃ。
特にチュートリアル1は、チシャーネコが言っていた通り、
アクセル・サーバーにアクセスしたプレイヤー全員が、強制的に受けることになるにゃ。
アクセル・サーバー専用システムの説明回となるようで、
面倒だからスキップということとは出来ないそうにゃね。
「うしし、さっそくだけどアクセル・サーバーのルールについて、
ぎっちりと頭に詰め込んでもらうよ~。うししししっ」
「わかったのにゃ」
むー、何だか覚えることがたくさんありそうにゃ。
「しっかり把握しとかないと、困るのは自分だからね?」
確かにそうですにゃね。
私がこくりと頷くと、チシャーネコは「まぁ、長くなるしそこに座んなよ~ししし」
と尻尾で指し示したにゃ。
示された方を向くと、ちょうどテーブルとイスみたいなキノコが
3つ並んで生えていましたのにゃ。
なんかぶよぶよしてて、粉っぽそうですけど……。
本当に此処に座るんですにゃ?
私が座るのをためらっていると、
チシャーネコが「何処居 正一郎さん」
なんて言いながら、軽々とキノコイスに飛び乗ったにゃ。
鼻歌まじりに、空中からカットされたハムやらチーズやらを出現させると、
皿によそって、キノコテーブルに並べ始めたにゃ。
ジュージューと焼けた肉の匂いがこっちに漂ってくるのにゃー。
じゅるり……うにゃーん、美味しそうですにゃね、ごくん。
「うししし、座らないの? 肉は嫌いとか~?
なら魚もあるよ~なんでもあるよ~しししのしー」
ちらりと赤身の塊が目の前で取り出されて、テーブルに乗せられたにゃ。
ま、まぁ長話になるなら仕方にゃいですにゃね。
座ってやらないこともないにゃ。お魚につられたんじゃないのにゃ。
意を決して、私はチシャーネコの向かいにあるキノコイスに座ったにゃ。
うにゃ、思ったより座り心地が良いのにゃ。
チシャーネコが食べながら聞いても良いと言ったので、
私は遠慮なく赤身の切り身にかぶりついたにゃ。
『VRの利点その1:栄養価を気にせず飲み食い出来る』ってやつにゃーん。
「じゃあーアクセル・サーバー内での、時間の流れ方について説明するかな~。
ここでは、分かりやすく『アクセル時間』と名付けておくねー。うししし~」
ふむふむ、『アクセル時間』。
まだ実感がわかないですけど、私はすでに『アクセル時間』内にいるんですにゃね。
確か、1時間が1か月に処理されるんでしたかにゃ?
「現実時間での【1時間】。
これは『アクセル時間』に変換すると【1年間】になるんだよ、ししし」
「ふみ?」
突然告げられた内容に、脳が着いて行けずにフリーズする。
もぐもぐと赤身を飲み込むことで、ようやく驚愕の波がやってきたにゃ。
「そ、そんなに違うんですにゃ!?」
1か月でもすごいと思っていたのに、それがなんと1年に延びていたにゃ!!
「うししのしっしっし~♪
流石のペロペロちゃんもこれには驚きだよね~」
「うにゃー驚きますのにゃ! すごいのですにゃ!」
しかも、具体的な数字まで言われてしまっては、ただただ「すごーい」って
感想しか出てきませんにゃ。
「まぁ、そんな感じでね。
アクセル時間っていうのは、現実時間がすごーく凝縮された、
深く濃い時間なんだよ、このオレンジジュースみたいに」
チシャーネコは『みにーずめいど オレンジ(濃縮還元)』と書かれた
ペットボトルを指先で弄びながら、そう述べたにゃ。
「まー、気になったら『メニュー』を開いて見るといいかも~。
うししし、ちゃーんと現実時間とアクセル時間が表示されてる、はず」
「はず?」
「うにゃ、表示されてるよ。うしし」
「何なのにゃ!!」
まったく、まどろっこしい言い方は止めろだにゃ。
(と言っても、このまどろっこしさがないチシャーネコはもはや別猫ですにゃね)
そんなことより、『メニュー』に時間なんて表示されてましたっけ?
「チシャーネコ、時間なんてメニューにありましたにゃ?」
「新しく追加になりました~うしし」
ああ、そうなんですにゃね。
あっさりとした回答でしたけど、納得にゃ。
それにしても、ペット用のメニュー画面なんて未実装の項目が多くて、
全然使ってなかったので、存在を忘れかけていましたにゃよ。
えっと、開くには……どうすれば良いんでしたっけ???
うーん、マスターはどうやってメニューを開いてたにゃ?
――「我に集え雷鳴の精よ、電子の領域を此処に開かん」
違うにゃ。
――「転送陣起動<ワープサークル・オープン> 栄光の扉<グロリアスゲート>」
……そんな仰々しそうな扉なんて開かなくていいですにゃ。
――「ミラクル★マジカル! キューティーパワーで悪霊退散!」
全く関係ないにゃ! しかも可愛さで悪霊が退散するとか意味不明だにゃん。
……あっ! 『あれ』ですにゃん。思い出したのにゃ!
「メニュー『ヒラケゴマー』にゃ」
私がそう言うと、細かな情報が記載された薄い板が出現したにゃ。
自分の名前に、現在の恰好……。
うーん、自分自身を見るって何か慣れませんにゃね。
鏡とか見るとドキッとするし……。
「うっしっし~、別に『メニュー』って意識さえすれば、
自動的に開けるんだよ~? おかしな呪文を唱えなくてもね! しし~」
「う、うるさいにゃん!」
チシャーネコの指摘に、私は恥ずかしさのあまりシャーと牙を向いて威嚇。
そ、そうだったんですにゃね……。
道理でマスターがいつも違う台詞でメニューを開いていたわけですにゃん。
……正直、マスターの台詞は恥ずかしいので、無言で開けるようにするにゃ。
「う~んと……これですにゃ?」
『現実時間』と『アクセル時間』が並んで表示されてますにゃね、うにゃうにゃ。
アクセル・サーバーに紛れ込んだ時間が何時だったかは分かんないですけど、
確かに、通常サーバーに居た時よりも全然時間が進んでいないですにゃ。
アクセル時間的には、2時間くらいは経過してますにゃ。
それにしても、前より閲覧できる項目が増えたような……。
ん? こんな項目あったかにゃ……って、これは!!
「ログアウトボタンにゃ!!」
そうですにゃ……全然自覚出来ていませんでしたけど、
私って、ジンさんのイベントのせいでプレイヤーになってるんでしたにゃね。
ちなみにペット用のメニューでは、ここの項目はまるっとありませんのにゃ。
ログアウト、サーバー変更、チャンネル移動。
プレイヤーなら、あって当然の標準機能ですけど、なぜかペット用のメニュー
にはないっていう不思議にゃ。
おかげで、いちいち運営が設置しているゲートを使って出入りしないとならなくて、
不便だったんですにゃ。
しかも数は限られてるし、大抵は大きなタウンとかにしかないのですにゃ。
当然、ゲーム開始の初期位置であるこの森にそんなゲートはありませんので、
ちょっとゲームを進行させて、大きな街に着いたらログアウトしようと
思っていたんですけど、ログアウトボタンがあるなら話は別ですにゃん!
ふぅ、運営からのお知らせにいじけてギルドショップから飛び出して、
ゲートをくぐり間違えてアクセル・サーバーに入っちゃったり、
ペットなのにイベントが強制進行して、なぜかプレイヤーに変更されたりと
色々やらかしちゃいましたけど、それもようやくおしまいですにゃ。
もう少しプレイヤーとして遊びたいなぁとも思いますけど、
こう以上の厄介事はダメですにゃーと私の野生の感が告げてますにゃ。
そういうことで。
「ログアウト『実行』にゃー」
「おっと、話はまだ終わってないよ? うししし」
私はチシャーネコの静止する声を無視すると、
メニュー画面のログアウトボタンに触り、ログアウトを実行したにゃ。
実行出来ませんでしたにゃ。
……にゃ、にゃんだってーーー!!?
てしてしとログアウトボタンを連打するけど、結果は同じ。
「だから、話はまだ終わってないって言ったでしょー。
しょーがいないペロペロちゃんだな~しっしっし」
「ど、どういうことですにゃ? ログアウト不可にゃ?
デスゲームですにゃ???」
「うしし、ペロペロちゃんったら小説の読み過ぎだよ~。
ボクがこう言うのもアレなんだけどさ、
現実と架空の区別は大事ってね~♪ うっしっしー」
うう……チシャーネコの言う通りですにゃね。
私は少し落ち着いて、自分の言動を反省したにゃ。
つい混乱してしまい、マスターお気に入りのVR小説でありがちな展開を
口走ってしまいましたけど、現実でそんな展開はまず起こりませんにゃ。
良く良くメニューを見てみれば、きちんとログアウト出来ない理由が
記載されてあったのにゃ。どれどれ。
「えっと、『アクセル・サーバーにログイン後は、
現実時間で10分経過しないとログアウトはできません』?」
「はい、せいかーい! うししー」
「それじゃ、すぐログアウト出来るようになるんですにゃね」
「うっしっし、もちろんだよ」
チシャーネコはとてもいい笑顔で肯定したにゃ。
……む、これは何だか嫌な予感がしますにゃよ。フラグってやつにゃ。
まさか立ってしまったのにゃ?
「『短い時間でどっぷり遊べる』がキャッチコピーのアクセル・サーバーで、
たったの2か月(現実時間の10分)だなんて!
あっと言う間に過ぎちゃうだろうね! うししのしのし~、うっしっし~♪」
デスゲームではなく、外部の干渉によってログアウト不可になったわけでもなく、普通にゲームの仕様としてログアウトが出来ませんって話でした。
これは、あくまでゲーム側の仕様であって、VRの機械側が装着者の身体に異常を感知した時、
あるいは火災や地震などの危機を感知した際は、
強制的にログアウトさせるという安心安全設計な裏設定があります。




