5.ナノマシン
つい先ほど来たばかりの場所に宇宙船はそのままあった。よく誰にも見つからなかったものだと満は思ったが、きっと特別な方式で隠されているのだろうと都合よく解釈する。
実際はそのまま置いてあったのだが、なんと言っても藪の中、好き好んで分け入っていくものはそうそういない。
カプセル形状の宇宙船を拾い上げ、肩から下げてきたトートバッグへ入れる。すると、すぐにエレナ姫は宇宙船へと乗り込んだ。
むろん学習中の日本語を追加学習するためである。また、宇宙船に乗っていればむやみに聖なる盾を使わなくて済むと言う理由もあった。
「あれ? チクチクしなくなったな。宇宙船の中に入ったから?」
だが返事はない。今エレナ姫は、脳へ埋め込まれたナノマシンへ言語情報を書き込んでいる最中で忙しい。
念のため自販機で水を購入した満は、意気揚々と自宅へ引き上げた。なんといっても宇宙人を保護したのである。
世界ではもしかしたら秘密裏に確保したり交信していたりするかもしれないが、決して一般的ではない都市伝説レベルだ。
そんな神秘的な存在である宇宙人が、平平凡凡な満のところへやってきたのだから興奮するなと言うほうが無理だった。
部屋へ戻りそっとテーブルへ宇宙船を置く。パッと見は薬のカプセルが大きくなったように見えていたが、実際にはかまぼこ型で底面は平らだ。
もし転がったらどうしようと考えていたので、これはこれでひと安心の満である。それでもこれからどうすればいいのかは全く分からない。
「明日も会社があるし帰りが遅いんだけど大丈夫かなあ」
「大丈夫、です。対象がいないうち、は、船、の、中、に、いる、ます」
「まだちょっと怪しいけどこの短時間で日本語を身に着けるなんてすごいなあ。あなたがよほど賢いのか、同じ星の人はみんなそうなのか、どっちなんだい?」
「王族、は、隣国、との、外交、で、言語、を、多様、に、話す必要、が、ある、ます。そのため生まれてすぐ、に、ナノマシン、を、うめこむ、ます」
「ナノマシン!? そんなものが実用化されているなんて! もちろん地球でも実用化はされているけどごく限られた分野で使用されているだけだね。もちろん翻訳なんて高度なことはとてもじゃないけどできないよ。すごい科学力だ!」
「科学、確か、に、発展している、ます。しかし、幸せ、とは、限る、ない」
「そっか、つまり? 地球に来たのは幸せじゃないからってこと? 一人で?」
「人、を、探す、ます。助ける、くれる人。味方、に、なる、くれる、人」
「まさかその助けてくれそうな地球人がオレなんて言い出さないでしょ? たまたまオレの見えるところに降りて来ただけの偶然だろうと思ってるんだ」
「偶然、ない。宇宙、から、調査、する、結果、条件一致する、ます」
そこまで話をしていたところカプセルはまた開き、エレナ姫が再び光を帯びながら出てきた。
「テレビ、つける、依頼、願う、ます。学習、進む、ます」
「なるほど、やっぱりテレビを使って日本語の学習をしていたんだね。それで食事は? 水だけじゃどうにもならないだろう?」
「水、だけ、で、十分。加える、光、必要、です」
『ピピッ、エレナ姫、同時通訳モードを解除して学習に入ります。ナノマシンの状態は良さそうなので平気でしょう』
『わかりました、できるだけ早くお願いします。意思疎通はできているけれど、なんだか話し方がおかしいと自分でもわかるので恥ずかしいですね……』
宇宙船はエレナ姫へと返事をし、自動的に向きを変えてテレビへと向き合った。




