3.缶ビールと水
アパートへ帰り着いた満は、この光る宇宙人を誰にも見られなかったことに安堵し大きく息を吐き出した。
脱いだジャケットでくるんできたためもしかして穴でも開いているかもしれない。そう思って裏側を確認してみたが、パッと見で代わったところはない。
そのまま部屋の隅にジャケットを投げ捨て買って来たビールとつまみを目の前へと並べてみる。
宇宙人は相変わらず光っているが、満を見ていることだけはわかった。だがこれからどうすればいいのだろうか。
満がビールの缶を持ち上げて宇宙人と比べるように目を凝らすと、彼女は警戒したように後ずさりした。
「ああ、ごめんごめん、これは敵意じゃなくて比べてみただけさ。わかるかな。こう大きさを比べるってこと。このくらいとこのくらいで同じくらいかなって」
身振り手振りで伝えようとするのだが、どうにも通じたようには思えない。これくらいわかりそうなものなのにと満は不満そうな顔をした。
だがその直後、彼女はまっすぐに近寄ってきて目の前のビール缶に並んで見せた。
「そうそう! そういうこと! 同じくらいの大きさだなあ。まさか宇宙人がこんな小さいなんて驚いたよ。もっと違う形とか形が違うとかも想像してたからなあ」
『ピピッ、エレナ姫、対象はどうやらこの円筒と大きさが同じくらいであることに驚いているようです』
『確かに地球の人類はずいぶんと大きいですね。城の高さよりも大きいのでは?』
『ピピッ、はい、我らが往生の高さはこの人物の方の高さほどですから。それよりも聖なる盾を解除しませんように』
『ですがもう疲れてきてしまいました。栄養が足りなくなってきたかもしれません。補給は出来そうでしょうか』
『ピピッ、近くにないか探ってみます―― ピッピッピッ、どうやら入ってきた辺りにあるようです。量も潤沢ですが、あとは質の問題かと』
『こちらの言葉に翻訳できませんか? 大至急、命に係わりますから』
『ピピッ、かしこまりました―――――― ピピ、ピピッ、水、と言うようです』
「水くぁwせdrftgyふじこlp」
「えっ!? 今ふじこって言った!? それがあなたの名前なのか?」
「水」『を貰えないでしょうか?』
「ああ、水が欲しいのかな? ビールでもいいけど飲めるかわからないか」
満はそう言うと、冷蔵庫からペットボトルの水を持ってきた。だがこのまま出してもどうにもならないことは明らかだ。
仕方なくキャップへ入れてみるのだが、これはこれでいささか失礼な気もした。しかしほかにどうすることもできない。
「こんな出し方でごめんね。でもあなたに合うサイズのコップはないんだ。しばらくはそれで勘弁してくれ」
『これは申し訳ないと思っているのでしょうか? 表情でそのように感じます』
『ピピッ、少々測りかねますが、姫に無礼だと感じているのかもしれません。なかなかわきまえているのですね。翻訳を完全にするためもう少し語彙が欲しいのですが、なにか情報を得られるものはないでしょうか』
『左手になにか受像機のようなものがありますね。頼んでみましょう』
エレナ姫はそう言うと、テレビへ向かって指を挿した。そして首をかしげるようにジェスチャーをする。
「ん? テレビが見たいの? もしかして自分が飛んできたことがニュースになってるか気になってるのかな? でもオレ以外には誰も出てこなかったし大丈夫だと思うけど」
そう言いながら満がテレビのスイッチを入れた。写ったのはちょうどニュース番組だったが、宇宙船や隕石のニュースはやっていないように見える。
だがエレナ姫は満足そうにうなづいて、両手で大きく丸を作った。




