午後七時
午後八時十五分。
捜査一課の空気は重かった。
誰もが資料へ視線を落としている。
雨音だけが窓を叩いていた。
その時。
若い刑事のスマホが震える。
「……はい」
短く応答したあと、
顔色が変わった。
「藤堂さん」
「なんだ」
「レストランです」
藤堂が顔を上げる。
「失踪者の一人と一緒にいた男に似てる人物が、また現れました」
部屋の空気が止まる。
「場所は」
「例の店です」
若い刑事は続ける。
「今、女と一緒に食事してるって」
椅子が大きく引かれる音。
藤堂はコートを掴む。
「確かなのか」
「店員が顔覚えてました。“あの男です”って」
若い刑事が急いで資料を集める。
「女は?」
「二十代くらい。身元まだ不明」
藤堂は舌打ちする。
「クソ……」
その声だけが低く落ちた。
ようやく見つけた。
追い続けた男。
輪郭だけ掴めなかった存在。
なのに。
胸の奥に嫌な感覚が残っていた。
遅い。
何かが。
エレベーターへ向かう途中、
若い刑事が息を切らしながら言う。
「なんでまた同じ店なんですかね」
藤堂は答えない。
ただ、
頭の中にはあの映像が残っていた。
女を見つめる目。
笑わない顔。
静かな視線。
「……多分」
エレベーターの扉が開く。
藤堂が低く呟く。
「あいつにとって、場所はどうでもいいんだ」
「え?」
「見てるのは、いつも女の顔だけだ」
扉が閉まる。
雨の夜へ、
刑事たちは飛び出していった。




