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追えど

「絶対近くまでは行ってるんですよ」


 若い刑事がホワイトボードを睨みながら言った。


「なのに掴めない」


 机には大量の資料。


 防犯カメラ。


 クレジット履歴。


 聞き込み。


 失踪した女たちの行動記録。


 線は繋がっている。


 確実に。


 けれど、

 核心だけが抜け落ちていた。


「普通、どこかでボロ出しますよ」


 若い刑事が苛立ったように言う。


「監禁なら場所がいる。死体があるなら処理がいる。車も移動も痕跡が残る」


 藤堂は黙ったまま資料を眺めていた。


「でも何もない」


 静かな声だった。


 ホワイトボードの中央。


 並ぶ女たちの写真。


 その横には、

 男のぼやけた顔写真が貼られている。


 顔は分かる。


 動きも追えている。


 なのに、

 存在だけが掴めない。


「……妙なんだよな」


 藤堂が呟く。


「何がです?」


「生活感がない」


 若い刑事が首を傾げる。


「部屋借りてる形跡が薄い。職場も転々としてる。交友関係も浅い」


 藤堂は写真を見る。


 静かな横顔。


 笑わない目。


「追ってるはずなのに」


 そこで言葉が止まる。


 窓の外では雨が降っていた。


 薄暗い夕方。


 部屋の蛍光灯だけが白く光る。


「……遠のいてる感じがする」


 若い刑事は黙る。


 その感覚は、

 皆どこかで共有していた。


 近づいているはずだった。


 証言も増えた。


 映像もある。


 特徴も掴めている。


 なのに。


 証拠を掴むたびに、

 足取りだけがわからなくなる。


「影追ってるみたいなんですよ」


 若い刑事が小さく言う。


「いるのは分かるのに」


 藤堂は机の上の写真を裏返す。


 失踪した女の笑顔。


 どれも、

 生きていた時の顔だった。


「……こいつ、多分」


 藤堂が低く呟く。


「逃げるのが上手いんじゃない」


「え?」


「消えるのが上手い」


 部屋が静まり返る。


 雨音だけが聞こえていた。


 誰かがコーヒーを置く音。


 紙をめくる音。


 その全部が妙に遠い。


 藤堂は目を閉じる。


 ふと、

 あの映像を思い出す。


 レストラン。


 笑う女。


 それを見つめる男

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