撹乱
聞き込みを重ねるたび、
同じ言葉が増えていった。
『優しい人だった』
『静かな人だった』
『落ち着くって言ってた』
『ずっと見てくるって笑ってた』
捜査一課のホワイトボードには、
失踪者たちの写真が並んでいる。
その下へ、
友人たちから聞き出した言葉が書き足されていた。
綺麗って言われた。
表情を褒められた。
目を逸らさない。
全部見られてる感じ。
藤堂は腕を組んだまま、
並んだ写真を見る。
どの女も笑っていた。
友人との写真。
旅行先。
カフェ。
何気ない日常。
「全員、最初は警戒してないんですね」
若い刑事が呟く。
「そりゃそうだ」
藤堂は低く返す。
「この手の顔は得する」
別の資料が机へ置かれる。
新しい聞き込み内容。
二人目の失踪者――奈々の友人。
『奈々、“あの人といると落ち着く”って言ってました』
三人目。
『話ちゃんと聞いてくれる人だって』
四人目。
『自分のこと見てくれてる感じするって』
五人目。
『変な人だけど、嫌じゃないって笑ってました』
藤堂は資料をめくる手を止める。
「……変な人」
「みんな少しだけ違和感は持ってるんですよね」
若い刑事が言う。
「でも怖がってない」
「むしろ好意的だ」
部屋が静かになる。
藤堂は椅子へ座り直す。
「見てくれる人だったんだろ」
「え?」
「今どき珍しいくらいに」
若い刑事は黙る。
藤堂は写真を見る。
どの映像でも、
その男は女を見ていた。
スマホではなく。
料理でもなく。
周囲でもなく。
女の顔だけを。
笑う瞬間。
黙る瞬間。
視線を逸らす瞬間。
その全部を。
「……好かれるわけだ」
若い刑事が顔をしかめる。
「でも普通じゃないですよ」
「普通じゃないから残る」
藤堂は静かに言った。
「普通の男なら忘れて終わりだ」
窓の外では、
夕方の雨がまた降り始めていた。
ぽつり、と。
ガラスへ水滴が落ちる。
若い刑事がホワイトボードを見る。
「この人、何したいんですかね」
藤堂は少し黙ったあと、
並んだ失踪者の写真を見る。
「……消したいんじゃない」
「は?」
「残したいんだよ」
その言葉だけが、
静かな部屋へ落ちた。




