奇妙
「……奇妙なんですよ」
店員は映像を見つめたまま言った。
「なにがだ」
藤堂が煙草の代わりにガムを噛む。
店員は少し迷ってから口を開いた。
「普通、デートってもっとこう……目が合うじゃないですか」
画面の中では、
女が笑っている。
男も笑っている。
どこにでもいる男女だった。
「でもこの人、違うんです」
店員が画面を指差す。
「見てる場所が」
映像が進む。
女が水を飲む。
男の視線は喉元へ落ちる。
女が髪を耳へかける。
男の目が髪を追う。
笑う。
伏せる。
瞬きをする。
その全部を、
男は黙って見ている。
「観察してるみたいで」
店員が小さく肩を抱く。
「恋人を見る目じゃないんですよ」
藤堂は何も言わない。
映像の男は静かだった。
だが、
静かすぎた。
人間というより、
展示品を眺めるみたいな目。
「この時も」
店員が映像を止める。
女がスマホを見た瞬間。
男の表情が消えている。
ほんの一瞬だけ。
店員が眉をひそめる。
「ここだけ空気変わったんです」
藤堂は画面へ顔を寄せる。
男は笑っていない。
女を見ている。
瞬きも少ない。
感情が抜け落ちたみたいな顔だった。
「そのあと、また笑うんですよ」
映像が動く。
本当に何事もなかったみたいに、
男は柔らかく笑っていた。
女も笑い返す。
「……気味悪ぃな」
藤堂が呟く。
店員は苦く笑った。
「でも最初は普通だったんです」
「普通?」
「優しそうで、顔も整ってて。彼女も楽しそうだったし」
店員は画面の男を見る。
「だから余計に変なんですよ」
静かなジャズが流れている。
窓の外では、
雨上がりの光が道路へ滲んでいた。
藤堂は映像を止めたまま、
男の横顔を見つめる。
綺麗な顔だった。
清潔で、
穏やかで、
どこにでもいそうな男。
だからこそ、
奇妙だった。




