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翌朝

翌朝。


 空は薄く曇っていた。


 午前六時四十分。


 捜査一課の空気は張り詰めている。


「令状出ました」


 若い刑事が息を切らしながら部屋へ入ってくる。


 藤堂が立ち上がる。


「容疑は」


「監禁、殺人未遂。あと失踪事件との関連で捜査許可も降りてます」


 机へ令状が置かれる。


 紙の音だけが妙に重い。


 藤堂はそれを掴む。


「行くぞ」


 誰も返事をしない。


 全員、

 顔色が悪かった。


 昨日、

 あの部屋の向こうで泣いていた女。


 震える声。


 閉ざされた扉。


 間に合わなかったかもしれない。


 その考えが、

 全員の胃を重くしていた。


 マンションへ到着した時には、

 周囲はすでに封鎖され始めていた。


 制服警官。


 規制線。


 野次馬。


 藤堂は無言で階段を上がる。


 四階。


 薄暗い廊下。


 四〇二号室。


 静かだった。


「応答なし」


 若い刑事が言う。


 藤堂は扉を見る。


 嫌な静けさだった。


「開けるぞ」


 工具が差し込まれる。


 ガチャ。


 鈍い音。


 数秒後。


 扉が破られる。


 藤堂が真っ先に中へ入る。


「……誰もいない」


 静かな声。


 部屋は異様なくらい整っていた。


 昨日と同じ。


 白い壁。


 整頓された棚。


 静かな空間。


 ただ。


 生活の気配だけが消えている。


「逃げた……?」


 若い刑事が呟く。


 藤堂は無言で廊下の奥を見る。


 閉ざされた扉。


 銀色の鍵。


 例の部屋。


 その前まで歩く。


 誰も喋らない。


 藤堂がゆっくり手を伸ばす。


 鍵へ触れる。


 その瞬間。


 違和感。


 微かな機械音。


「――待て」


 藤堂の声。


 次の瞬間だった。


 轟音。


 世界が白く弾ける。


 爆発。


 凄まじい衝撃が廊下を吹き飛ばす。


 熱風。


 ガラスが砕ける音。


 壁が裂ける。


 刑事たちの身体が宙へ叩き飛ばされる。


 耳が潰れる。


 視界が揺れる。


 炎。


 煙。


 崩れ落ちる天井。


「ッ――!!」


 藤堂は床へ叩きつけられる。


 肺の空気が抜ける。


 熱い。


 何も聞こえない。


 燃える匂い。


 焦げた空気。


 崩壊する音。


 煙の向こう。


 あの部屋が、

 内側から完全に吹き飛んでいた。


 並んでいたケースも。


 死体も。


 証拠も。


 全部。


 炎の中へ消えていく。


 藤堂は咳き込みながら顔を上げる。


 崩れた廊下。


 燃える部屋。


 誰かの叫び声。


 その中で。


 藤堂だけが理解していた。


「……最初から」


 掠れた声。


「あいつ、全部消すつもりだったのか」


 炎だけが、

 静かに燃え続けていた。

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