開かず
『開けてもらえますか』
インターホン越しの低い声。
彼女は震えながら、
彼を見る。
助かる。
その希望が、
涙と一緒に滲む。
だが。
彼は静かだった。
ゆっくり彼女へ近づく。
「……ごめん」
小さな声。
次の瞬間。
彼の手が彼女の口を強く塞ぐ。
「――っ!!」
声が潰れる。
彼女は必死にもがく。
だが彼の腕は驚くほど強かった。
逃がさないように。
でも壊さないように。
抱き込むみたいに身体を押さえつける。
『いますよね』
インターホン越しの藤堂の声。
『開けてもらえますか』
彼女は涙を流しながら暴れる。
助けて。
そう叫びたいのに、
声にならない。
彼は耳元で静かに囁く。
「……お願い」
優しい声。
「静かにして」
その言い方が、
恋人を落ち着かせるみたいで、
余計に恐ろしい。
彼女は震える。
彼は数秒、
閉ざされた扉を見つめていた。
静かな横顔。
感情の読めない目。
それから。
彼は彼女を部屋の奥へ押し込む。
ケースへ背中がぶつかる。
ガン、と重い音。
彼女が立ち上がる前に、
彼は部屋の扉を閉めた。
ガチャ。
外側から鍵が回る。
彼女は口を押さえられていた余韻で、
咳き込みながら扉へ駆け寄る。
「っ、ぁ……!」
声がうまく出ない。
喉が震える。
外では足音が聞こえる。
『……今、何か聞こえませんでした?』
若い刑事の声。
彼女は必死に扉を叩く。
ドン、ドンッ。
だが、
声が潰れて出ない。
涙だけが溢れる。
彼の足音が遠ざかっていく。
静かに。
落ち着いたまま。
まるで、
本当にただ来客対応へ向かうみたいに。
彼女は絶望した。
この男は最後まで平然としている。
人を閉じ込めたままでも。
死体と一緒の部屋にいても。
普通に笑える。
その時。
玄関側で扉が開く音がした。
ガチャ。
『朝早くにすみません』
彼の穏やかな声。
彼女の全身が震える。
外には警察。
でも。
この男は、
まだ“普通の人間”の顔をしていた。




