午前10時
午前十時二十三分。
捜査一課の室内には、コーヒーと煙草の匂いが薄く残っていた。
「またか」
机へ写真を置きながら、刑事の藤堂が言う。
写真には若い女が写っていた。
二十代前半。
長い髪。
笑顔。
どこにでもいそうな女だった。
「失踪三日目。携帯は昨日の深夜で途切れてる」
向かいの刑事が資料をめくる。
「男と食事してたらしい」
「毎回それだな」
藤堂は椅子へ深く腰掛ける。
机には複数の写真が並んでいた。
別の女たち。
年齢も職業も違う。
けれど共通点がある。
全員、
突然消えている。
「遺体は出ない」
若い刑事が呟く。
「監禁?」
「なら痕跡が残る」
藤堂は新しい写真を手に取った。
昨夜、防犯カメラに映った映像。
レストランの前。
傘を差した男女。
女は笑っている。
隣の男も。
画質は荒い。
だが、
男の視線だけが妙に印象へ残った。
女を見ている。
瞬きも少なく。
まるで、
壊れ物でも眺めるみたいに。
「この男は?」
「まだ追ってる」
「顔が綺麗すぎるな」
「は?」
「女に警戒されない顔してる」
藤堂は写真を机へ戻す。
「こういうのが一番面倒なんだよ」
部屋のテレビでは昼のニュースが流れていた。
『現在も行方不明となっており――』
女性アナウンサーの声。
画面には失踪した女の写真。
笑顔。
友人と肩を寄せ合う写真だった。
若い刑事が小さく息を吐く。
「生きてると思います?」
藤堂は答えない。
ただ、
写真の男を見ていた。
ぼやけた横顔。
静かな目。
感情の薄い表情。
その奥に、
何かが沈んでいる気がした。
「……会ったことある気がするな」
誰にでもいそうな顔だった。
だからこそ、
記憶に残らない。
藤堂は煙草を取り出しかけ、
禁煙中だったことを思い出して舌打ちする。
「とりあえずレストランから洗うぞ」
椅子が引かれる音。
資料が閉じられる音。
外ではまだ、
昨夜の雨が路面に残っていた。




