部屋
「ああ、あそこ物置なんです」
男は自然に笑った。
「ケースとか置いてて」
若い刑事の喉が動く。
男は申し訳なさそうに頭を掻く。
「集めるの好きなんですよね、アタッシュケース」
その言い方は、
趣味を話す人間の声だった。
あまりにも普通に。
あまりにも穏やかに。
「……集める?」
若い刑事が聞き返す。
男は少し照れたように笑った。
「変ですよね。よく言われます」
藤堂は黙って男を見る。
男は扉へ軽く寄りかかりながら続けた。
「でも、いいんですよ。アタッシュケースって」
静かな口調。
「無駄がなくて」
若い刑事が目を細める。
「無駄?」
「はい」
男は頷く。
「形が完成されてるっていうか」
その目が、
一瞬だけ奥を見る。
「閉じれば中身が見えないし、ちゃんと守ってくれる」
穏やかな笑顔。
だが、
言葉だけが妙に冷たい。
「傷も付きにくいし、密閉性も高いんですよ」
藤堂は小さく眉を動かした。
男は気づかない。
「あと、並べた時綺麗なんです」
少し楽しそうな声だった。
「サイズ揃えると落ち着くっていうか」
若い刑事の背筋へ、
じわりと嫌なものが走る。
「……仕事で使うわけじゃないんですか」
「全然」
男は笑う。
「ほとんど使ってないです。見るのが好きで」
その瞬間。
藤堂の頭に、
暗い部屋の映像が浮かぶ。
整然と並ぶケース。
同じ向き。
揃った配置。
「眺めるだけ?」
「はい」
男は即答した。
「ちゃんと手入れすると、長持ちするんですよ」
その言い方が、
妙に優しかった。
若い刑事は無意識に、
廊下の奥の扉を見る。
閉ざされた扉。
銀色の鍵。
静かな部屋。
男はそんな視線に気づかず、
穏やかに笑ったままだった。
「なんか安心するんですよね」
小さな声。
「綺麗に並んでると」
その笑顔は、
本当に嬉しそうだった。
だからこそ、
気味が悪かった。




