表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/46

部屋

「ああ、あそこ物置なんです」


 男は自然に笑った。


「ケースとか置いてて」


 若い刑事の喉が動く。


 男は申し訳なさそうに頭を掻く。


「集めるの好きなんですよね、アタッシュケース」


 その言い方は、

 趣味を話す人間の声だった。


 あまりにも普通に。


 あまりにも穏やかに。


「……集める?」


 若い刑事が聞き返す。


 男は少し照れたように笑った。


「変ですよね。よく言われます」


 藤堂は黙って男を見る。


 男は扉へ軽く寄りかかりながら続けた。


「でも、いいんですよ。アタッシュケースって」


 静かな口調。


「無駄がなくて」


 若い刑事が目を細める。


「無駄?」


「はい」


 男は頷く。


「形が完成されてるっていうか」


 その目が、

 一瞬だけ奥を見る。


「閉じれば中身が見えないし、ちゃんと守ってくれる」


 穏やかな笑顔。


 だが、

 言葉だけが妙に冷たい。


「傷も付きにくいし、密閉性も高いんですよ」


 藤堂は小さく眉を動かした。


 男は気づかない。


「あと、並べた時綺麗なんです」


 少し楽しそうな声だった。


「サイズ揃えると落ち着くっていうか」


 若い刑事の背筋へ、

 じわりと嫌なものが走る。


「……仕事で使うわけじゃないんですか」


「全然」


 男は笑う。


「ほとんど使ってないです。見るのが好きで」


 その瞬間。


 藤堂の頭に、

 暗い部屋の映像が浮かぶ。


 整然と並ぶケース。


 同じ向き。


 揃った配置。


「眺めるだけ?」


「はい」


 男は即答した。


「ちゃんと手入れすると、長持ちするんですよ」


 その言い方が、

 妙に優しかった。


 若い刑事は無意識に、

 廊下の奥の扉を見る。


 閉ざされた扉。


 銀色の鍵。


 静かな部屋。


 男はそんな視線に気づかず、

 穏やかに笑ったままだった。


「なんか安心するんですよね」


 小さな声。


「綺麗に並んでると」


 その笑顔は、

 本当に嬉しそうだった。


 だからこそ、

 気味が悪かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ