見つける?手がかり
深夜一時三十八分。
捜査一課の一室だけがまだ明るかった。
モニターの光。
冷めたコーヒー。
机に積まれた資料。
若い刑事が目を擦る。
「……また消えた」
防犯映像が停止する。
雨の歩道。
傘を差した男女。
女は笑っている。
男も隣を歩いている。
そのまま角を曲がる。
次のカメラには、
女しか映っていなかった。
「意味わかんねぇだろこれ……」
藤堂は無言で映像を見返す。
もう何度目かわからない。
停止。
再生。
停止。
拡大。
男の横顔。
歩き方。
癖。
傘を持つ手。
全部確認している。
「ここだ」
藤堂が画面を指差す。
細い路地。
古いマンション群。
「この辺で消えてる」
若い刑事が地図を広げる。
「でも住民情報ほとんど出ません。古い物件ばっかで、防犯カメラも少ない」
「宅配記録は」
「偽名だらけです」
藤堂は舌打ちする。
映像の中、
男は振り返らない。
急ぐ様子もない。
ただ、
女の歩幅へ合わせて歩いている。
「……生活感が無さすぎる」
藤堂が低く呟く。
「普通、人間って痕跡残すんだよ」
レシート。
公共料金。
近所付き合い。
癖。
習慣。
けれどこの男にはそれがない。
存在だけが薄い。
「なのに女だけはちゃんと残る」
若い刑事が言う。
レストラン。
写真。
メッセージ。
笑顔。
全部、
“女側”の記録ばかりだった。
「……まるで」
藤堂は映像を止める。
雨の中、
男が女を見ている瞬間。
「自分は残る必要ないと思ってるみたいだな」
部屋が静かになる。
若い刑事がぼそりと呟く。
「家、あるんですかね」
藤堂は答えない。
ただ、
モニターの男を見る。
穏やかな顔。
静かな目。
誰にでも好かれそうな笑顔。
なのに、
どこにも辿り着けない。
追っているはずなのに。
近づいているはずなのに。
映像を見れば見るほど、
男が遠くなる。
藤堂は目を閉じる。
その時だった。
「……待ってください」
若い刑事が画面へ顔を近づける。
「これ」
「なんだ」
停止された映像の端。
古びたマンションの一室。
カーテンの隙間。
ぼやけた窓の奥に、
何かが並んでいる。
銀色。
黒。
四角い輪郭。
若い刑事が目を細める。
「……これ、ケース?」
藤堂が無言で映像を拡大する。
ノイズだらけの画面。
だが。
部屋の奥まで、
同じ形が並んでいた。
ひとつじゃない。
二つでもない。
大量だった。
整然と。
まるで棚みたいに。
「……アタッシュケースみたいなものが」
若い刑事の声が掠れる。
「なんであんなにあるんだよ……」
誰も答えなかった。
モニターの中では、
雨が静かに降り続いていた。




