道化師
「先輩ってほんと優しいですよね」
後輩が笑う。
「モテそう」
彼は少しだけ困ったように眉を下げた。
「いや、全然だよ。そういうタイプじゃないし」
「またまた」
「ほんとに」
彼は苦笑しながらコーヒーへ口をつける。
「俺、話聞いてるだけだから。自分から何かできるわけでもないし」
「それができる人少ないんすよ」
後輩が即答する。
彼は視線を逸らし、
照れ隠しみたいに笑った。
「みんな優しいから、話しやすいだけだよ。俺なんか相手しやすいだけで」
女性社員が呆れたように肩を竦める。
「こういうとこなんだよなぁ」
「何がです?」
「自然にそういうこと言うとこ」
彼は少し目を丸くしたあと、
また小さく笑う。
「買いかぶりすぎですよ。期待されるほどちゃんとしてないし」
「いや絶対モテるって」
「ほんと普通だから。むしろ地味なほうだと思う」
穏やかな声。
押しつけがましさもない。
自慢もしない。
ただ、
本気でそう思っているみたいな話し方だった。
「でも安心感あるんですよね」
女性社員が資料を抱えながら言う。
「なんか一緒にいると落ち着く」
彼は一瞬だけ言葉を止める。
それから、
少し照れたように笑った。
「……ならよかった。そういうくらいしか取り柄ないから」
柔らかな笑顔だった。
誰かに安心してもらえることを、
本当に嬉しそうにする顔。
後輩が冗談っぽく言う。
「そのうち刺されますよ、モテすぎて」
周囲が笑う。
彼も静かに笑った。
「怖いこと言わないでよ。そんな大した人間じゃないんだから」
その声は穏やかだった。
穏やかすぎるくらいに。




