いつも通り(2)
オフィスへ入ると、
数人の社員が彼へ顔を向けた。
「おはようございます」
彼が穏やかに頭を下げる。
「おはよう、早いねぇ」
「昨日も遅かったでしょ?」
彼は小さく笑う。
「少しだけ残ってました」
スーツ姿の女社員が苦笑した。
「真面目すぎるんだって」
「そんなことないですよ」
彼は自席へ鞄を置く。
整理されたデスク。
乱れひとつない書類。
マグカップの位置まで綺麗に揃っていた。
「助かってるけどね、ほんと」
上司が資料を抱えながら近づいてくる。
「君いると空気いいし」
彼は困ったように笑った。
「何もしてないですよ」
「してるよ」
上司は即答する。
「気配りできるし、話聞くし、ミスしないし」
周囲も頷く。
「わかる」
「相談しやすいんですよね」
「なんか安心感ある」
彼は少し照れたように目を伏せた。
「ありがとうございます」
柔らかい声だった。
昼休み。
彼は後輩社員の話を静かに聞いていた。
「いやもう、彼女が全然連絡返してくれなくて」
後輩が机へ突っ伏す。
彼は苦笑しながらコーヒーを渡した。
「忙しいだけじゃない?」
「でも既読はつくんすよ」
「ちゃんと待ってあげた方がいいよ」
穏やかな口調。
否定もしない。
押しつけもしない。
ただ、
相手の言葉を静かに聞く。
「先輩ってほんと優しいですよね」
後輩が笑う。
「モテそう」
彼は少しだけ視線を逸らした。
「どうだろ」
「絶対モテますって」
その時。
女性社員が通り過ぎながら言う。
「でもわかる。なんか見てくれる感じするんだよね」
彼は顔を上げる。
「え?」
「ちゃんと相手のこと見て話してくれるっていうか」
女は笑う。
「今どき珍しいタイプ」
彼は静かに微笑んだ。
その笑顔は自然だった。
優しくて、
柔らかくて、
安心する笑顔。




