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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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369 ジジイが舞い降りたソフィアの街(前編)

書いているうちに話が長くなったので2話に分割します。この続きは2時間後に投稿いたします。

 銀河連邦の輸送艦から単身コミューターに乗り込んだ怪物ジジイは、現在ブルガリアの首都ソフィアの近郊に降り立っている。


 一般的な日本人が持ちうるブルガリアという国のイメージは、みんなヨーグルトを食べて健康的にかつ平和に暮らしているという通り一辺倒の答えが出てきそうな気がするが、実際にはそのような幻想にも似た甘い考えとは懸け離れている。


 そもそもこのブルガリアという国の基礎となったのは、3~4世紀にヨーロッパ中を混乱に叩き込んだゲルマン民族の大移動の際に、トルコ系もしくはスラブ系と思しきブルカール人がこの地に移り住んできたことに端を発する。


 しばらくのちに彼らの手によってブルガリア帝国を建国されるも、すぐにビザンツ帝国の支配されることとなり、そのビザンツ帝国の勢力が弱まる10世紀ごろにはブルガリア第2帝国が建国される。17世紀になって今度はオスマントルコの支配を受けるが、露土戦争のどさくさに紛れてブルガリア第3帝国を建国。その後19世紀に入ると大ブルガリア主義を唱えて周辺国家と領土争いを繰り広げるなど、バルカンの火薬庫の一端を担う歴史を歩んできている。


 要するに大元を正すと遊牧民が建国した国家だけに相当な武闘派だと言って差し支えない。そしてこのような成り立ちの国には、国家権力と巧妙に結びついたマフィア組織が出来上がるのは必然的な流れ。


 ことにソビエト連邦が崩壊して東欧に民主化の嵐が吹き荒れた1990年代~2000年代前半にかけて、ブルガリアのマフィア組織は旧共産政権の秘密警察と結びついて違法薬物や武器などの密売ルートを作り上げていった。


 その結果としてブルガリアマフィアは東欧における一大勢力にのし上がっており、現在ではイタリアやセルビアに巣くう組織と連携しつつ各種の悪事に手を染めているというのが現在の同国の実情となっている。


 ちなみに何の偶然かは定かではないが、カレンたちが救出した日本人2名をナンパと称して拉致したのもブルガリアマフィアで、彼女たちの声を掛けたイケメンも組織の構成員となっている。


 ブルガリアで攫われた女子大生がセルビアの別組織の元に送られた今回のケースでもわかるように、両組織には強固な繋がりがある。それこそが今回ジジイが送り込まれるターゲットとなった要因に他ならない。


 このような事情でジジイが派遣されたものだから、どのような結果が待っているかは押して知るべしだろうが、細かいことなどまったく気にも留めない様子で遠足にでも来たようなウキウキ気分のジジイは首都ソフィアのかなり怪しげな地区を悠然と歩いている。



「さて、ひと暴れが待っておるとは気持ちが浮き立つ心地よのぅ。まるで60年前の幼き自分が遠足を心待ちにしていたような気分じゃわい」


 マフィア相手にこれから大立ち回りを演じようというのに、それを称して「遠足」とは、このジジイには恐れ入るしかない。


 さて今ジジイがいるのは首都の中心部からは外れたかなり怪しげな地区なのだが、言葉の通りに真夜中だというのに狭い通りの歩道には酔っぱらいや薬物中毒者が座り込んでいたり、通りの角ごとに派手な衣装を着こんだ娼婦が立っているという何とも退廃的な雰囲気が漂っている。


 こんな場所を袴姿で真っ白な髪を総髪にまとめ上げたこれまた相当怪しげなジジイが歩いているとなると、当然ながら人目を引くのは言うまでもない。通りに佇むこの街の住人たちの胡乱な視線を浴びながらも、一向に気にした様子もなくジジイは特に目的も定めずにブラブラとお散歩中。


 そのまま通りを進んで歩くことしばし、さらに剣呑な雰囲気が漂うブロックに差し掛かったところでジジイに声が掛けられる。



「おい、ジイさん! あんたは日本人かい?」


「いかにも日本人じゃよ」


 横文字がからっきし弱いジジイではあるが、龍王の魂が入り込んだことによって言語理解スキルを得ている。言葉は通じなくても相手が何を言いたいのか理解できるし、自分が伝えたい内容を無理やりに相手の脳内に捻じ込むことが可能。一種のテレパシーだと考えてもらえばいいだろう。



「なあ、日本人なら金持ってるだろう。俺たちに少しぐらい分けてくれよ」


「あいにくではあるが、ワシは今遠足気分でのぅ。そなたらのような小僧共に余計な邪魔をされたくないのじゃよ」


「テメー! 俺たちを小僧呼ばわりとはいい度胸じゃねぇか。痛い目に遭わないとわかんねぇのかよ?」


「さようか。そなたらはワシの遠足に付き合うと申すのだな。して、いかほど欲しい?」


「有り金全部だよ! さっさと出せよ!」


 このセリフを耳にしたジジイの目がクワっと見開かれる。



「遠足の小遣いは300円までと決まっておるじゃろうがぁぁぁぁ!」


「「「ギャァァァァ!」」」


 ジジイの怒声だけで3人のゴロツキの体が吹っ飛んで路上に転がされていく。アスファルトに叩き付けられた衝撃で男たちは呻き声をあげて、すでにケンカをしようとか相手を脅そうといった意思がどこかに消し飛んでいる。怒鳴り声だけで人間をここまで痛め付けるとは、このジジイは一体どうなっているのやら…  

 

 さらに言えば「遠足のオヤツは300円」など、今時の物価高の折では生徒から苦情が出るのは必定のように思われる。主に明日香ちゃんとか、明日香ちゃんとか、明日香ちゃん辺りが声を大にして待遇の改善を訴えるに違いない。もっとも魔法学院には遠足などはないのだが…


 さて、そんなジジイだが、道路に転がったままいまだに起き上がれない男たちに向かってとんでもないことを口走り始める。



「こう見えてもワシは中々忙しいのでな、そなたらと遊ぶのはお仕舞にしておこうかのぅ。ああ、ひとつ言付かってもらおうか。ワシはこの街のマフィアの親分の出店のトロフィーを殺しに来ておる。精々仲間を集めて守りを固めるように伝えておくのじゃ」


「ジイさん、ひょっとしてあんたの話に出てきたマフィアのボスってのは、デミトロエフさんのことじゃないよな」


「ジイさん、バカなことを言うんじゃねぇよ! デミトロエフさんのところの組織は千人以上の構成員がいるんだぜ」


「その通りだ。命がいくつあっても足りねぇ」


 口々にジジイに向かって無謀だと言い募る男たちだが、ジジイが彼らのいうことを聞く必要などどこにもない。



「では確かに申し渡したぞい。早う兵隊を集めぬとあっという間に亡き者にされるのがオチじゃからのぅ」


 余裕に満ちた表情でそう告げると、何事もなかったようにその場を立ち去っていくジジイ。男たちはしばし呆然と後ろ姿を見送るが、やがて事の重大性に気が付いたようで痛む体を引き摺りながらどこかへと駆け出していく。


 もちろん彼らが向かう先はマフィア組織の構成員がたむろする酒場。



「アシモフさん、大変なんだ! バケモノみたいに強い日本人のジジイがデミトロエフさんの命を狙って街をウロついていやがるんだよ」


「ああ? テメーは何を寝ボケたこと言っていやがるんだ? ジジイひとりで何が出来るって言うんだよ。そんなホラ吹きは放っておけ」


 もちろんこんなチンピラの世迷言を頭から信じるマフィアの構成員などいるはずもない。だがしばらくすると、まったく同じような話を口にするチンピラたちが何組も酒場へとやってくるようになる。



「なんだよ、テメーらも日本人がボスの命を狙っているって話かよ。まったく、今夜はどうなっているんだ?」


 アシモフと呼ばれた男が信じないのも無理はない。何しろ彼が所属するマフィア組織は警察さえもおいそれとは手が出せない強力な力を持っている。それだけではなくて、アシモフ自身にもこの街の裏社会のすべてを牛耳っているのは自分たちだという自負がある。


 すると、ここで彼のスマホが着信を告げる。



「ガルエフの兄貴じゃないですかい。急にどうしたんですかい?」


「アシモフ、すぐに来い! 訳の分からんジジイが3番街で大暴れして手が付けられねぇんだ」


「ひょっとして、そいつは日本人ですかい?」


「ああ、俺の目で確かめたが、サムライのような格好をしていた」


「わかりやしたぜ。俺のところにも若い連中が何人も駆け込んできてどうしたものかと思ってたところでした。すぐにそっちに行きやすぜ」


 アシモフは懐に右手を突っ込むと、その手にはトカレフが握られている。ためらいなく銃底にマガジンを差し込むと、そのまま酒場から駆け出していくのであった。




   ◇◇◇◇◇




 アシモフが3番街に駆けつけると、そこはすでに市街戦でも行わているのかと見まごうばかりの惨状を呈している。通りの真ん中に陣取るジジイの周囲には死屍累々という言葉がピッタリな夥しい数の男たちが倒れており、近くで確認するまでもなく全員が事切れている様子が伝わってくる。


 あまりにもジジイの暴れっぷりが強烈過ぎるので接近戦は諦めて、現在は通りの両側に駐車してある車を盾にしてジジイに向けて銃弾の雨を降らせている最中だが、十数丁の銃が盛んに弾丸を吐き出してもジジイはまったく無傷のまま。


 それどころか…



「なんじゃ、そんな見え透いた場所に隠れてコソコソ銃で撃ってくるとは、まったく気合いが足らんぞい。よろしい、このワシが車の陰などにいられなくしてやるわい」

 

 飛んでくる銃弾をまるで虫を捕まえるかのように指で挟んでキャッチしては、何事もないような顔で飛んできた方向に投げ返しているジジイがいる。そしてその口から発せられた言葉の通りに…



「太極波~」


 ドカ~ン!


 きわめて少量の闘気を込めた一撃が一台の車に向かうと着弾と同時に大爆発。車の屋根は吹き飛んで、周囲にいたマフィアたちは爆発に巻き込まれて歩道に放り出されていく。


 もちろんジジイが一発で終わるはずもなく、マフィアが隠れて銃を乱射している車に向かって何発も太極波を飛ばしていくと、周囲には立っている人間の姿がどこにも見当たらない状況。


 それだけならまだいいが、通りに面している建物の窓ガラスはすべて割られており、爆発の衝撃がガソリンに引火して燃え盛る車が10台以上という、あたかも空襲を受けたかのような光景が目の前に広がる。


 このようなジジイがひと暴れした現場に後から到着したアシモフなのだが、次々に車が爆発する様子を目の当たりにして足が竦んでその場から一歩も動けなくなる。


 それだけならまだしも、通りのど真ん中でひとしきり暴れていたジジイと目が合ったような気がする。


(来るなぁぁぁぁ! こちに来るんじゃねぇぇぇぇぇ!)


 足が竦んだだけでなくて喉に何かが引っ掛かったようで声も出せないアシモフが心の中で思いっ切り叫んでいる。彼はジジイが撒き散らす恐怖で精神がポッキリ折れているよう。

 

 そんな願いもむなしく、ジジイは一歩一歩彼に向かって近づいてくる。そして目の前に立つと…



「どうやらこの場で生き残っているのはそなただけのようじゃのぅ。さて、そなたのボスであるトロサーモンの居場所に案内せい」


「ヒィィィィ!」


 またジジイが口にする横文字があらぬ方向に暴走している。輸送艦の中で何度も桜が確認したボスの名前… デミトロエフがここまで変化するとは呆れてモノも言えない。


 それよりも気の毒なのは、ヘビに睨まれたカエル以下の存在となり果てたアシモフのほう。喉を引きつらせながら言葉にならない悲鳴を上げている。



「なんじゃ、かような楽しき出来事に魂が消し飛ぶとは、まこと肝が据わっておらぬ男よのう。なんでもよいからさっさと組長の元に案内せい」


 ジジイ的には日常的にブッ飛ばしている日本のヤクザとヨーロッパのマフィアの区別などどうでもいいことらしい。ブルガリア人に「組長」という言葉の意味が伝わるのか甚だ疑問が残るところ。


 だが幸か不幸か、恐怖で完全に委縮しているアシモフの頭には話の内容が伝わったよう。首をガクガクと上下させて肯定の意思を伝えている。



「ほれ、早うせんか! 遠くでサイレンが鳴っておるぞい」


 さすがにこれだけの大暴れを繰り広げると、地元の警察としても「すわ、暴動が起きたか?!」といった具合で出動せざるを得ないのだろう。数多くのパトカーが首都の治安が保たれている方面からこちらに向かってくる様子が伝わってくる。


 だが、精神的にすでに逝っているアシモフはその場からなかなか動こうとはしない。実際動きたくても自分の足がまったくいうことを聞いてくれない情けない状態に陥っている。



「ええい、マフィアの癖にまこと根性がないヤツよのぅ。ワシが気合いを入れてくれようぞ」


 パチン!


 ジジイによって極めてソフトにビンタをされるアシモフ。そう、それはもう子ネコを優しく撫でるくらいの、ジジイにしては珍しく力の加減が行き届いた一発といえる。もしほんのちょっとでも加減を間違えていたならば、アシモフの首の骨はポッキリと折れていただろう。


 ジジイによる闘魂注入のおかげで少しだけ気を取り直したアシモフは、パトカーがやってくる方向とは反対に歩き出していく。


 そのままジジイを先導するように10分ほど歩いて到着したのは、以前はかなりの数の従業員が働いて活気があったであろう廃工場。現在は稼働していた当時の面影などまったくなくて、なにも手入れもされていない何棟もの建物だけが残されている。



「ここで間違いはないか?」


「へ、へい」


「わかったぞい。何処なりとも立ち去るがよい」


「い、いいんですかい?」


「早うせぬと、この場で命を失うと覚悟せよ」


「わ、わかりやした。失礼します」


 アシモフはクルッと回れ右をして暗闇の道を何処ともなく消え去っていく。ちなみにこの男は、この夜の出来事を切っ掛けにマフィアからは足を洗ってその後はひとりの市民として真面目に働き、その合間に罪滅ぼしのボランティア活動などを行いながら暮らしていくのであった。


 

街中で派手に騒乱を引き起こしたジジイですが、ついにマフィアのボスがいる廃工場へ到着しました。果たしてどのくらい周囲に被害が及ぶのか… ジジイの狂気の暴れっぷりは後編へと続きます。


それから皆様にいつものお願いです。


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